総理篇 

こうして、第一次伊藤内閣が発足した。

まずは、憲法発布前の下準備からだった。

明治19年。各省官制を制定し、更に将来の官僚育成の為に、帝国大学、つまり現在の東京大学を創設した。

明治20年には、帝国大学法科大学の研究団体である国家学会が創設されたので、これを支援した。

しかし、その一方で井上馨を外務大臣として条約改正を任せたものの、井上が提案した改正案に外国人判事の登用等を盛り込んだ事で閣内分裂の危機を招いた為、外国へ向けた改正会議は中止し、その後井上が辞任した為、失敗に終わった。

そして明治21年、枢密院開設の際に枢密院議長となる為に約2年間続けた内閣総理大臣を辞任。後任は元薩摩藩士で、北海道の開拓に尽力した農商務大臣・黒田清隆であった。


明治22年。黒田清隆内閣総理大臣の下、ついに「大日本帝国憲法」が発布された。

博文は、華族同方会でこの憲法について演説し、立憲政治の重要性、特に、一般国民を政治に参加させる事の大切さを強く主張した。さらに、自らが編纂した、憲法の解説本「憲法義解」を刊行し、多くの国民に憲法を理解させようとした。


明治25年から、博文は黒田清隆、山県有朋、松方正義に次ぐ5代目内閣総理大臣として再び就任した。

その2年後、1894年の事だった。

朝鮮で起こった甲午農民戦争をきっかけに日本と清が朝鮮の主権を巡って対立。

日清戦争が勃発した。


国内では、それまで対立していた政府・政党が一時休戦し、巨額の軍事予算案を議会で可決し、挙国一致で戦争に臨んだ。

これに対して清は、近代化に立ち遅れ、国内の政治的対立も激しく、十分な戦力を発揮出来なかった為、戦争は日本の圧勝に終わった。


翌年、博文は外務大臣・陸奥宗光と共に清国全権・李鴻章との間に日清講和条約、所謂「下関条約」を結び、清に日本に朝鮮の独立、遼東半島・台湾の割譲、賠償金2億 テール(当時の日本円にして約3億1000万円)の支払い、杭州・蘇州・重慶・沙市の開港を認めさせた。

この結果日本は海外に植民地を持ち、大陸進出の足場を築く事になったが、満州に深い利害関係を持つロシアは、日本の進出に警戒し、フランス・ドイツと共に日本に遼東半島を清に返還する様勧告した。これが三国干渉である。

流石にこの三国を敵に回したくは無かった日本政府はやむなくこの勧告を受け入れたのだった。

第二次伊藤内閣は、清からの巨額の賠償金をもとに軍備拡張、産業振興等に乗り出した。


翌年、博文は再び内閣総理大臣を辞任し、後任には先代の松方正義が着いた。


明治31年、博文は7代目内閣総理大臣に着き、第三次伊藤内閣が発足した。

そして新党の結成を提案するが、山県有朋に反対されてしまうが、それを押し切って、憲政会の最高指導者となっていた大隈重信と板垣退助に後継内閣の組織にあたらせ、またまた総理を辞任。

同年、朝鮮の漢城へ行き、大韓帝国初代皇帝・高宋と会談。

翌月には清の北京に赴き皇帝や政治家たちと会談。

その時、清の保守派が決行したクーデター、戊戌ぼじゅつの政変に遭遇してしまい、その時の状況と戸惑いを日本にいる妻の梅子に手紙で伝えている。(博文は1863年、22歳の時に松門四天王の1人、入江九一の妹すみ子と結婚しているが、子供を作らず1866年に離婚。同じ年に元芸妓の梅子と結婚し、長女貞子を儲けるが、わずか3歳で死亡。次女生子が産まれ、後に内務大臣・末松謙澄すえまつけんちょうと結婚させたが、残念ながら孫は生まれなかった)


翌1899年、博文は半年かけて全国遊説を行い、政党創立の準備と民衆への立憲体制受け入れを呼び掛けた。


明治33年、新政党「立憲政友会」を創立し、初代総裁を務めた。

そして、大隈重信、山県有朋に次いで、10代目内閣総理大臣に4度目にして最後の就任をした。この時博文、59歳。ちなみに、2019年現在、伊藤博文の44歳での内閣総理大臣への就任は史上最年少であり、2番目は34代目の近衛文麿の45歳で、現行憲法下では安倍晋三の52歳である。

しかし、政党としての内実が整わない状態での組閣だった為、内部分裂を引き起こし、翌1901年に博文は辞任し、内閣総理大臣になる事は、その後二度と無かった。

彼はその後、貴族院議長に就任した。

この時博文60歳。


次回、いよいよ完結篇。




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