第5話:チョロイン
「せっかく自己紹介もしたんだし、お近づきの印として、あちきが食べているネズミをおすそ分けするニャン。あ、食べ過ぎて、お尻と尻尾だけになっちゃったのは致し方ないんだニャン!」
アズキ=ユメルはそういうと、食べ残しといっても良さそうなネズミの尻と、その尻に付随する尻尾を
(どうしましょう……。これを食べれませんっ! と言って、どこかにほっぽり投げれば、アズキさんはがっかりするだけで済めば良いでしょうが、それどころか、怒り心頭になりそうですし……)
猫を飼っているひとにならわかると思うが、飼い猫が獲物をおすそ分けしてくれる経験は多々あるはずだ。ネズミやスズメ、さらにはカサカサ動く真っ黒な虫などなど……。そして、その行為を叱ったり、そのままゴミ箱にポイッと捨てれば、猫はすごく機嫌を損ねることを。
事情がよくわからない世界に突然放り込まれた
(ええい、ままよっ!)
するとだ、アズキ=ユメルとルナ=マフィーエが、おおーーー! と感嘆の声をあげ、さらにはパチパチと拍手を
「すごいんだニャー。ニンゲン族は基本、火が通ってないお肉は口の中に入れてくれないのに、ヤマドーは食べてくれたんだニャー!」
「おお、すごいすごいのじゃ。おぬし、本当にニンゲン族かえ? わらわはおぬしのことを気に入ったのじゃ!」
アズキ=ユメルとルナ=マフィーエは嬉しいのか、ベッドの上から尻を離し、
「あんたとはうまくやっていけそうな気がするニャン。あちきの名前はアズキ=ユメルにゃん。歳は16。好きな物は小動物のお肉ニャン! 以後、よろしくニャン!」
「それ、さきほども聞きましたけど?」
「
しかし、アズキ=ユメルとの仲は深まったは良いが、もうひとりのほうが問題だ。
(猫はうちでも飼っているのが
ネズミを食べたことで、ルナ=マフィーエがかなり自分に好意を抱いてくれたことはわかる。だが、まだ彼女とは心の壁を感じざるをえないのであった。その証拠に、アズキ=ユメルは今や、自分に抱きついてくるのではないのか? と思えるほどに自分に接近してきているが、ルナ=マフィーエはゴホンッ! とわざとらしい咳をして、再び尻をベッドの上に乗せている。
「ルナさん? アズキさんが僕に抱き着いてこようとしているのですが、止めてもらえません?」
「知らぬ! わらわに話を振るではないのじゃ!」
ルナ=マフィーエはご機嫌斜めであった。先ほどまでは喜々とした目つきを自分に送っていたのに、今、何故にそうなのかが、
「あ、ルナちゃんはいつもお澄ましさんでいることを誇りにしているニャン。だから、取り乱した自分を見られて、恥ずかしがっているニャン」
「そうなんですか? ふーーーん、それは面白い話を聞かせてもらいました」
(緒方さんのようにわかりやすいと助かるのですが……。って、緒方さん!?)
そして、
「な、な、何をするのじゃっ!」
「いえ、可愛いなあと思いましてね? それで、つい、あなたの流れるようなキレイな髪に触れてみたいと思いまして……。嫌でした?」
「い、い、嫌というわけではないのじゃ……。じゃが、わらわが可愛いというのは本当かえ?」
「ええ。可愛いですよ。僕が知り合った女性の中で一番と言っていいほどの可愛さです」
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