サーカス2

住宅街を三十分も歩いただろうか。

そのあたりは学区外で、ほとんど遊びに来たことのない場所だった。

ドテンと三台並んだ自動販売機を見つけて、あまねが言った。


「ねえ。お金持ってる?」

ポケットをさぐってみたが、入っていたのは石ころだけ。それは淡い緑のガラス石で、きれいだけど、それだけだ。

「持ってない」

「のど乾いたなあ」

自販機のボタンをめちゃめちゃに押してみたが、もちろんジュースは出てこない。

「ちょっと何やってんの」

声をかけられて振り返ると、知らないオバサンが立っていた。

「あんたたち、学校は?」

「創立記念日で休みなんです」

あまねは、しれっと嘘をついた。

「ほんとに? 三小の子じゃないの?」

「僕たちは、もっと遠く、東京から来たんです」

「へえ、東京から」

「じゃ、あやしいオバサンと話すなって言われてるんで。行こう」

パッとあまねが走りだしたので、俺もあわててその背中を追った。

「こら、あんたたちいー」

追いかけてくるバサンを、スピードをあげてまいてしまうと、なんだかおかしくなって二人で笑った。


児童公園を見つけて中に入り、水道で水を飲んだ。

ひじのほうまでザブザブと水をかけたら、冷たくて気持ちよかった。

「あ、虹」

「それプリズムっていうんじゃない?」

「プリズム」

俺たちは水もプリズムも飲み干して、サーカスを目がけて再び歩いた。


「MS.バリーの授業もう終わったかな」

「終わったろうな。次は社会かあ」

「その次は給食うー」

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