サーカス

みずほ

サーカス

MS.バリーが、俺の机の前で立ち止まった時、「まずい」と思った。

そりゃ宿題を忘れた俺も悪かった。でも、そもそもは、あまねだ。同じく宿題を忘れたあまねが「アイムソーリー、バリバリー、ソリー」などとふざけた態度で謝ったせいで――面白くもないが、クラスの連中にはウケた――、MS.バリーの機嫌は最悪だったのだ。


「僕、廊下に立たされるのってはじめて」

あまねが、ニコリと八重歯を見せ、俺に話しかけてきた。

廊下は、涼しくて静かだった。小窓から教室をのぞくと、テレビを見ているみたいな、おかしな感じがした。


「ねえ、カンちゃん」

「なんだよ?」

「このままどっか行かない?」

「どっかって?」

「どっかはどっかだよ。ここでボケッと一時間突っ立ってるの、バカらしくない?」


なんでその提案にのったのだろう。

昇降口でうわばきを脱いで、スニーカーの靴ひもを結んだ。

正門を抜けて、空を見上げたらスカーンと青く、太陽はまぶしかった。


ふたりで電線のかげを踏んで歩いた。短い影がゆらゆら揺れて、サルになったような気分だ。

「つなわたり」

つぶやくと、あまねが、ぴょん、と電線から飛び降りて振り返った。

「そういえばさ。サーカス来てたよね、駅前に」

「サーカスかあ」

ライオンや大車輪、空中ブランコが頭に浮かんだ。どちらともなく、俺たちは口にした。

「よし。サーカス見に行こう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る