11 由真のメール(5)
「福園さんとNが結婚したのはつき合いだしてから4年が経った頃でした。その間に就職をし、髪も黒く染め直しました。お酒のつき合いの多い職場で、あなたは10キロ以上太ってしまいました。会う度にわたしはあなたのお腹をつついてからかいました。Nは全く気にしていない様子でした。わたしは小学校の教師になり、Nは私たちがいた塾でアルバイトを始めました。
2人の結婚式にはわたしも出席し、幸せそうな姿を見せていただきました。初夏で、七夕をモチーフにした式でした。わたしはその1ヶ月後に結婚しました。共通の友人からは、ご祝儀貧乏になるから時期をずらせとさんざん怒られました。
お互いが結婚した後も、わたしたちの関係は特に変わりませんでした。もちろん、以前のように、とはいきませんでしたが、月に1、2度は2人の新居にお邪魔しました。K市の、ロジャースの近くのアパートでした。駐車場がないので、近くの歯医者の駐車場にわたしは車を停めて行きました。
2人の関係がおかしくなったのは、結婚して1年がすぎた頃でした。私が出産した後で、久しぶりに3人でご飯を食べに行く約束をしても、福園さんは「用ができた」と言って姿を見せませんでした。メールをするといつも通りの返事がきましたが、2人の様子がおかしいのは明らかでした。ようやくNから相談を受けたのは、Nが家を出た後でした。あなたは、Nがわたしに相談することがわかっていたのでしょう。福園さんからの連絡は、ついに最後までありませんでした。福園さんとは、今回のやり取りが始まるまで、連絡をとっていませんでした。
最終的にお互いの両親が間に入って、離婚ということになりました。11月の終わり頃と記憶しています。
福園さんがNにしたことについては、あなたの名誉のために、黙っていようと思います。何より離婚の経緯はNからの話しか聞いていないので、書いてもアンフェアになってしまうでしょう。人間関係のトラブルに100対0はありえない、と誰かが言っていました。なんだかそれって自動車事故みたいな言い回しですね。そういえば、福園さんも以前車の保険屋さんでアルバイトしてましたね。あなたはNと別れた1年後に別の方と籍を入れました。
以上でわたしの書きたかったことは全部です。約束通り、内容を変えずに載せてくれてありがとうございます(このメールはまだ確認してないですけど、公開しますよね?)。むしろ、細かい部分の言い回しを変えたりして、ぐっと読みやすくしてくださいました。わたしはなんだか小説家にでもなったような気持ちになりました。やはり、福園さんは、誠実な人なんだと思いました。
だから、なのかわかりませんが、過去を振り返って書き出す作業は楽しく、途中でNのことを書くのは止してしまおうかと迷いました。書くつもりのなかったあなたへの想いも書いてしまったし、これで終わりでいいような気もしました。けれど、それこそが福園さんのワナのような気がして、書くことにしました。
先に述べたとおり、わたしは福園さんとNについて、どちらがどうこう言うつもりはありません。あなたがとった行動も、あなたなりの理由があったんだと思うように努めました。だけど、「十字路」を読んだとき、あんまりだと思ってしまいました。どうして、Nを、死なせてしまったのですか? Nは、あなたと別れて、ずっと苦しんでいたんですよ? 今はだいぶ元通りになりましたが、立ち直るのに、長い年月を要しました。「十字路」が書かれたのは離婚から5、6年経った頃でしょうか。あれが、あなたなりの過去との決別手段だったのでしょうか。あなただけが、あんな風に手軽に立ち直って、ずるい気がします。
「十字路」の最後は、笠奈が十字架にはりつけられるシーンで終わります。だけど、やはりはりつけられるべきなのは、福園さんであるべきだったと思います」
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