第2話 悪いが其方、余の晩飯を用意してくれないか?
「レイさん、お風呂湧きましたよ?」
「風呂? 何だそれは」
「え?」
見た目は黒髪短髪で顔立ちはフランス人よりか……角みたいなのが生えているから日本人のコスプレイヤーかと思っていたが外国の人なのだろうか?
それにしては日本語は流暢だ、少し堅苦しいが……。
もしかして留学生だろうか? 最近はアニメも海外で人気らしいし……。
しかし外人なら納得のいく骨格だ。
そして筋肉の付き方も――おっと涎が……。
これでも一応私は女だ。
趣味が筋肉鑑賞だからといっても知らない人の筋肉を思い出して涎を垂らすのはどうなんだろうか?
「ええとですね、お湯を湯船に張ってそこに体をつけるんです。気持ちいいですよ」
「なるほど。行水か――水浴びと言った方がいいか?」
「ぎょ、行水って……まぁそんな感じです。足も汚れていますし先にどうぞ」
「悪いな、其方が先に入るのが道理なのに」
「いえ、本当に気にしないで下さい」
「それと、レイでよいぞ」
「はぁ……」
部屋を汚されても困るので……なんて言えなく、風呂場まで案内する。
脱衣所に着くと、そのまま風呂に入ろうとするレイを私は止める。
「レイ! その腰に巻いてる私の服は置いて行って下さい!」
レイは振り返り腰に巻いている私の服へと視線をやり「おお、そうだな」とだけ言い腰の結び目を解いて服を下に落とす。
……せめて私に手渡してほしい。
「それでは入るとするか」
「タオルとバスタオル置いときますね。服は……ないのでバスタオルを腰に巻いて今日は寝てください」
「ふむ、この小さな布、タオルとはどのようにして使うのだ?」
「え?」
世間知らずにも程があるだろう。
しかしタオルを持ち上げた時の大胸筋、そして僧帽筋の丸みの美しさに私の怒りはすぐに収まる。
「ええと……中にボディーソープがあるのでそれをタオルに塗って泡立ててから体を擦ってください。あとシャンプーは髪の毛を洗う物です。コンディショナーはシャンプーの後で使うと髪が痛まないですよ」
「ほぉ神が痛まない。回復魔法かなにかか?」
「コスプレイヤーさんは大変ですね。なりきりってやつですか?」
私はふふっと笑いが込み上げてくる。
それを見たレイは「何をいってるんだ?」という顔から私の笑みを見てか優しく微笑んだ。
「それでは入らせてもらうぞ」
「ええ、どうぞ――」
ドアが閉まる音がし、私は台所に行き冷蔵庫からインスタント御飯を電子レンジに放り込み昨日買ってあったおかずとビールを手に居間に戻る。
そしてテレビをつけ座椅子に腰かける。
ビールの蓋をあけるとプシュといつもの音が聞こえてくる。
電子レンジが「もういいよ」と声をあげるまでテレビを見ながらビールをグビリと一口飲む。
疲れた体の芯まで染みわたる様な感覚だ――
口を離した時に思わず「ぷぁ」と声を上げてしまう。
私は机に置いてあったスマホを手に取りフォトアルバムの項目を選択する。
もちろん中にあるのは……レイの筋肉だ。
美しい――その言葉しか思い浮かばない。
それをおかずにビールをもう一飲みする。
美味い、筋肉を見ながら飲むビールは最高だ。
私はふぅとため息をつく。
こんな筋肉は見たことがない。
かなり引き締まり体脂肪率は一体いくつなんだろうと考えながらもう一口ビールを運ぶ。
「出たぞ」
「え?」
うしろから急に投げかけられた言葉に驚き私はすぐさま振り向く。
そこにはバスタオルを腰に巻いたレイがいた。
しかし体は拭いていなかった。
それと同時に電子レンジがチンと軽い音を鳴らす。
「レイ、せめて体拭こうよ」
「拭く? 何故」
「下が濡れるでしょ」
「なるほど」
レイはバスタオルを手に取り体を拭き始める。
もちろん恥部も露わになっている。
私は目を背けテレビに集中する。
「よし、拭いたぞ?」
「バスタオルを腰に巻きました?」
「ああ、巻いたぞ」
私は確認が取れたので後ろへ振り向く。
濡れていた筋肉もまるで滝に打たれた岩のように美しかったが拭いた後の蒸気が出るんじゃないかと思わせる筋肉はまた格別だ。
私はその大胸筋の割れ目を眺めつつ無意識にビールを口につけていた。
「ところで……飯をもらえないだろうか?」
「ああ、お腹減りましたもんね」
「うむ、すまないな。何から何まで……」
「まぁもういいですけど」
電子レンジに入った御飯を一旦出し、自分用のインスタント御飯を冷蔵庫から取り出し電子レンジへと入れる。
そしてすでに温まったご飯とお箸をテーブルへと運ぶ。
「どうぞ召し上がれ」
「うむ、頂こう」
慣れない手つきでお箸を持ち、ご飯を丁寧にゆっくりと口に運んでいくレイを眺めながらビールをグビリと飲む。
おかずはサラダに冷たいコロッケだ。
レイは文句も言わずに黙々と食べる。
そういえば角は風呂に入る時どうしたんだろう?
「角は取らないんですか?」
「む? どういう事だ?」
「いえ、その角は作り物でしょ? 濡れたら壊れるんじゃ――」
「自前だぞ?」
「ふぅん」
まぁ人類の人口を考えれば一人くらい角が生えててもおかしくないか……と私は思いながら空になったビールを机に置き、追加を取りに台所へと行く。
自分の分のビールを冷蔵庫から取り出し戻ろうとした時、レイも飲むかな? と思い、もう一本冷蔵庫から取り出す。
部屋に戻るとレイは机にお箸を置き、丁寧に手を合わせていた。
「ビール飲みます?」
「びぃる?」
「お酒です」
「ふむ、飲んでみようか」
「はい」
私はビールをレイに渡す。
最初は缶をくるくる回しどうしたらいいのかわからない様子だった。
その間にも上腕二頭筋の膨らんだり縮んだりする動きがまるで夢の国のパレードでも見ているような美しさだ。
私はビールの飲み口を片手で開ける。
それを見たレイは「なるほど」と言うような顔をし、真似をする。
私は手をあげ「乾杯!」と叫ぶ――誰かと飲むのは本当に久しぶりだ。
レイも真似をし「乾杯」と言葉を発しビールを飲む。
息継ぎなしにゴクゴクと飲むレイは半分ほど飲んだ所で急に倒れ込む。
私は驚きすぐにレイの所に行く。
「だ、大丈夫ですか?」
駆け寄った私の目に入ったのは顔を真っ赤にして寝ていたレイだった。
酒弱すぎでしょ――
私は腰を戻し正座の状態になる。
眠っているレイはまるで赤ん坊の様だ。
髪を軽く捲り上げると、とても男性とは思えない美しく滑らかな髪が私の指の間をスルリと抜けていく……。
角は――確かに硬く作り物とは思えない、なので生え際を確かめる。
本当に生えているんだ。
そして、ふとレイの顔が近い事に気付いた私は顔が熱くなるのがわかった。
電子レンジのチンという音で我に返る。
顔をブンブンと左右に振り座椅子に戻りビールで頭を冷やす。
「あ、ここで寝られたら私が運ばないといけないのか……」
レイを見ながら考え込む。
そしてふと廊下を見るとレイから滴り落ちた水滴が大量にあった……。
「あれも拭かないとなぁ」
そんな事を思いつつ自分もご飯を食べてさっさと風呂に入って寝ようと考える。
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