剣と敗北の聖女 十五

 三〇年前に【駆馳の鎚 ジルマール・サンタナ】が開発した戦闘装甲ゴーレム【赤城巨兵エスジェッシェ】は、当時スパニーナ帝国との戦争で窮地に立たされていたボルトニア王国を救った。


 従来の機兵の一.五倍近い巨体に二基の機兵用魔力炉を搭載し、高出力の魔力を用いた攻防の能力は、スパニーナの機兵を紙屑の様に蹴散らしたと記録されている。


 スパニーナ帝国からは『襲い来る魔城』と恐れられたこの傑作は軍事史の教科書において栄光と共に記されており、現代でも後継機たる【赤城巨兵エスジェッシェ九式・ノヴィ】が戦場で活躍する姿を見る事ができた。


―― しかし。


『無駄なんですよこの戦いも。そしてシビラさん、あなたの慟哭も』


 【砂舞剣 シビラ・サンタナ】が率いる近衛騎士の小隊の【赤城巨兵エスジェッシェ・九式ノヴィ】がまた三機、赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブル劫火の吐息デスヒートを受けて蒸発した。


『マダレナ!! マルケス!! クイム!!』

『降伏してくれませんか?』


 赤城巨兵エスジェッシェ九式・ノヴィ三機が魔法と機銃の弾幕を張り、機兵剣を構えた五機が疾走する。


 粉塵の先に佇む重蹄騎士レイドブルへの決死の突撃は、しかしその紅の装甲に触れた瞬間に魔導弾や機兵剣が融解、カウンターとなった重蹄騎士レイドブル劫火の吐息デスヒートを受けて機兵達は跡形もなく消えて逝った。


『ふざけるな!』


 仲間達が作った隙を突き、シビラの駆る【赤の城の勇者ハギャディッシィ】が赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルへ肉薄する。

 宝珠の生み出す冷気が重蹄騎士レイドブルの火から赤の城の勇者ハギャディッシィを護り、凍てつく火を纏う機兵剣の切先を、紅が守る胸部へと突き出した。


『フラウィア! 貴様さえ倒せばルアン様は!』

『はぁ』


 それを赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルは軽やかに回避し、腐食の吐息コローションウインドを放って赤の城の勇者ハギャディッシィを吹き飛ばした。


『何度も言いますが、ルアン様はボルトニアの王に向いていませんよ。性格的に無理過ぎですし、仮に王になられても一年後にはストレスで倒れちゃいますよ?』

『っ』


 機関砲盾で片手間に他の機兵達を屠りながら、呆れの混じった声でフラビオは話を続ける。


『民は王の奴隷ではありません。そして王は民の神ではありません。しかしマテウス様叔父上達はそれぞれが一流以上の才覚を持っていた為に、民が悪い夢を見てしまいました』


 重蹄騎士レイドブルは最後に残った機兵を蹴り飛ばし、腐食の吐息コローションウインドで機体の殆どをさびへと変えられ、倒れ伏す赤の城の勇者ハギャディッシィへ突撃槍の穂先を向けた。


『『スパニーナ帝国打倒』を叫ぶ愚者達は僕が適当に使い潰します。ですからシビラさんもどうか安心してって下さい』

『貴様ァッ!!』


 シビラが叫んだ瞬間に突き出された突撃槍を受け、宝珠と魔導機関を破壊された赤の城の勇者ハギャディッシィは動かなくなった。


『さようなら。これが友人としての、僕なりの手向けです』


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