剣と敗北の聖女 十六
狩の城の地下には巨大な遺跡が存在している。
とても古い時代の物で、何時、誰が作ったのかは分からない。
城の隠し部屋に在る大鏡から入る事ができ、そこには灯りを内包した、曇り一つ無い硝子の階段が遥か地下へと続いていた。
だからフランシスカは、魔導剣を携えて目の前に現れたルアンに驚愕した。
「ルアン。どうして、どうやってここに?」
「ナナミに運命魔法で過去の母上を視てもらい、その後を辿りました」
フランシスカはルアンの背後に控えるナナミを睨み付ける。
「ああ成程。使えない予見師と思っていましたが、そちらが本領だったのですね」
「……ナナミが自分の魔法と向き合い予見師となったのは、魔法を戦争に使う為ではありません」
ルアンはフランシスカの視線からナナミを庇うように立つ。そして鞘から抜いた魔導剣の切先を、彼女の奥の闇へと向けた。
「それが伝承に記された『破滅の使徒』ですか?」
「ええそうです。ボルトニアができるよりも遠く昔にこの地に在りし国々を滅ぼした存在。天才たる魔法使いが異界より呼び出した絶対の力の化身。私達ピポロの一族のみが使える力です」
結界に遮られた先で、煮え立つ溶岩の上に聳える十字架があった。
磔にされているのは、凡そ四〇Mの赤褐色をした人型の何か。
首より先には何かの球体に繋がっており、またその左胸には、人の顔の目、鼻、口を連想させるような穴が開いていた。
「……何が力ですか。こんな、こんな汚らわしい悪邪が我らの力!? 乱心されたか母上!!」
「勝てはしないでしょ?」
フランシスカは右手に持つ赤い宝玉を掲げる。
「裏切者の我が子マテウス。小賢しいハファエル。虫唾が走るルシア。今や私達こそが彼らに許しを乞う立場です。そんなもの、耐えられる訳がないでしょうが!!」
「母上!!」
「後はこの宝玉と私が同化するだけ。大丈夫ですよルアン。私があなたを王にして上げます」
「やめてください母上!! 私は王になりたいと思った事なんてないんです!! ましてや人の道を外れて手にする玉座など!!」
ルアンの心からの叫びは、フランシスカに届かなかった。
濃い赤色の魔力洸を放つ宝玉が、フランシスカの手の中に沈んでいく。
そして駆け出したルアンは魔導剣の安全装置を外し、振りかぶった剣身をフランシスカへと振り下ろした。
「ル、ルアン!?」
ポタリと、ルアンの頬から伝った涙が床へと落ちた。
「王族として、【駱駝の杖 ルアン・ボルテ・ウラッセオ】は、悪邪を使おうとした【征路の杖 フランシスカ・ウラッセオ】を討伐しました。これは王国神殿同盟法三条に基づくものであり、憲法二条一項二号に定めた、王族の、義務を果たした、ものであ、あります」
―― 何であなたは、
フランシスカが崩れ落ちた。
―― 私の気持ちを分かってくれないの?
「っ、ルアン君悪邪の封印が!!」
「何だと!?」
封印は静寂を保ち、異変の兆しは見えない。
しかしルアンはフランシスカの亡骸を抱え、ナナミと共に遺跡の出口へと走った。
「ナナミ、猶予はどれ位だ?」
「ビリッって見えたから多分一分以内だよ!」
ナナミの出した
狩の城の都市結界は消えており、群がっていた獣達の姿も無くなっていた。
トールヴァ湿原から続く黒焦げの道の最終地点、その狩の城・北門の前には機兵の残骸が散らばっており、紅の牛頭騎士がそれらを睥睨するようにして立つ姿が見えた。
* * *
(「ええ、手出しは無用に願います。これは僕の戦いですので」)
念話での交信を終えたフラビオは、
(ちょうど残り二〇分。まあ仕方ないですか。『破滅の使徒』とかいう怪物は、間違いなく湿原の主達よりも強いでしょうから)
突撃槍と機関砲盾を蔵庫に仕舞い、両腕の装備と一体となった背部オプションを装着する。
――
大地が激しく揺れ動き、城の一角から白い大鳩に乗ったルアン達が飛び出して来た。
狩の城は崩れていき、膨大な土煙が城の敷地から舞い上がる。
その中から黒い炎が噴き上がり、巨大な人影がその姿を現した。
『僕の王族としての務め。そして何よりこれからのボルトニアには邪魔なので、排除させて頂きます』
『ボオオオオオオオオオ!!』
黒い炎を纏う異形の赤褐色の巨人が
――
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