剣と敗北の聖女 十


「空を越えて宇宙に出た時、私が感じたのは喜びと悲しみだった。この何もない世界、いや空間で、私は何処を目指していいか分からなかった。地上では太陽が、月が、星々が私を導いてくれた。私は私の親友を、または見知らぬ友人達を目指す事ができた。しかしこの永遠とも言える闇の中で、私は何処を目指せば友と出会えるのか分からなかった」、と。


* * *


 人が身を置く環境とは、その者の表出した内面であると戦略家【硝子の眼 パルコット・キラモン】は語ります。


 英雄を支配するには国を動かし、王を支配するには民衆(王以外の全ての民)を支配すればいい。

 そして神を動かすには忘れればいい、と。

 

 その者が何に根差し、何を大切と思うのか。

 またその逆がどのように成立するのか。

 それらを正しく計算すれば、『支配』という答えを出すのは難しいものではありません。


―― 例えば。

 社交界で声高な貴族達の、銅貨しかない金庫に金貨を与えれば。


「お主、いやルシア様に付けというのがお前の望みか?」

「いいえ。僕はただ、あなた様にはこの戦いを静観して頂きたいのです」

「よかろう。それにワシらの争いは、結局は外敵を利するだけじゃからな。スパニーナの下郎共を喜ばせる位なら、涙を呑んで一歩後ろへと下がろう」

「ありがとうございます」


 法に怯える商人達へ、貴族からの特別な赦しを与えれば。


「何をお望みですか?」

「少し商品の流通経路を変えて欲しいだけですよ」

「……」

「こことここです。あなたの懐は痛まず、むしろ業務の効率が良くはなりませんか?」

「君は、いや、あなたはどこまで知っている?」

「さて。でも嵩張る帳簿を処分するにはいい時期ではないかと思いますが、いかがでしょう?」

「………………わかった。あなたの言う通りにしよう」

「ありがとうございます」


 そして干上がった湖を歩くのは簡単で、乾いた土の上で横たわる魚を殺すのは、また簡単な事でした。


 派閥は瓦解、配下の者からも離反が続いたルアン様は死に体となり。

 最後はピポロ地方の辺境にある古城へと、二百五十一人の配下と共に逃げ込まれました。

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