怪物の御伽噺

 ある所に怪物が生まれました。

 その怪物はとても強く、誰も敵いませんでした。

 

 怪物は毎日戦いました。

 怪物を倒そうと、みんなが向かってきました。


 一つ付いた傷は二つに。

 二つ付いた傷は四つに。

 四つ付いた傷は十六に。


 怪物の身体から血が止まる事はありませんでした。

 でも怪物は決して負けなかったのです。


 傷だらけで疲れ果てた怪物は、少しだけ目を閉じました。

 重い疲労が押し寄せてきて、怪物は眠ってしまいました。


 強く、もっと強く。

 そうしなければ怪物は生きていけませんでした。


 みんなから恐れられた怪物は、みんなと同じ場所にはいられませんでした。


 誰もいない場所で、怪物はいつも一人でした。

 だから怪物を守ってくれる者は、誰もいませんでした。


 そしてみんなは、まるで死んだように眠っている怪物を殺しました。


 みんなは喜びました。

 怪物が死んでよかったと。

 怪物がいなくなってよかったと。


 怪物の骸は燃やされて、誰にも祈られず、灰となって何処かへ飛んで行きました。

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