閑話/剣士を目指した者 十二

「ねえ聞いてる~?」

「……」


「ねえ、ねえ、ねえってば~」

「私の机の上にある書類が見えないの? これ、今日中に片付けなきゃいけないんだけど?」


「だって、相談なんだよ。私の人生がこれで決まっちゃうっていう」

「進路相談なら教官に、お家の事なら、私以外の誰かに言ってちょうだい」


「親友のあなたしかいないの~。お願いだから、書類から顔を上げてよ~」

「……はあ、仕方ないわね」


「やった! 愛してる!!」

「あなたと友人になったのは、私の人生の失敗だわ」


「えへへー、このツンデレめー。でね、お見合いさせられるの」

「誰が?」

「私が」


「おめでとう。長い付合いだったけど、もう会う事も無くなるわね」

ひどっ!? 」


「あなたがお家を継ぐんでしょ。お婿むこさんは寛容な人だといいわね」

「う~、う~」


「成程、良い男ではないと。ついでに甲斐性無しでで、臆病で昼行灯ひるあんどんだと」

「そこまでじゃないよ。顔はまあ、結構好み」


「なら何でそんな醜態しゅうたいを晒してるのよ」

「醜態って。もっと言葉を優しさで包んでよ」


「ごめんなさい、私今、徹夜三日目なの」

「げっ。もしかしてあなたに仕事振ったの、例の先輩?」


「ええ」

「あ~あ。だから振るにしても言葉を選べって言ったのよ。神官してるような男は、根が陰険なんだから」

「言葉は選んだわよ。あと、私もあなたも神官よ」


「女は別よ。で、もろ直接表現だったじゃない。『あなたに異性として好意は無いので、申し訳ありません。キリッ!』ってさ。その超綺麗なお顔でやられたら、そりゃ男は心が折れるよ。特に持てはやされている馬鹿程さ。バッキバキに」

「……………………………………そうね」


「もういいよ。で、話戻すけど、ほら、私ん、ゴリゴリの武門の一族だし……」

「そうね。だとしたら、弱い男じゃ務まらないわね」


「あ―――っもうっ、顔はすっごい好みなのよ―――!!」

「床を転がらないで。ほこりが立つわ」


「あ―――、あいつがあなたのお父様の百分の一でも強かったら!」

「今からでも鍛えてあげれば?」

「絶対ムリッ!!」

「じゃあ打つ手無し。諦めなさい」


「うう、ちくしょう。あなたはどうなのよ。聞いたよ、縁談の話が進でるって」

「事実ね」


「マジかー。じゃあ馬鹿先輩だけじゃなくて、馬鹿がもっとでるね」

「何でそうなるのよ」


「あなたを狙っている男はマジのマジに多いんだから。偉大な英雄様とその息子さんがにらみを利かせてたから、馬鹿は息を潜めてたけど。だけど結婚する、誰かのモノになるってなったら、切羽詰まって暴走する馬鹿がワラワラ出てくるはずだよ!!」

「私も腕に覚えがあるから平気よ」


「へーへー。十七歳で司祭になるお方は違いますね。でもあなた、搦手からめてには弱いでしょ」

「それは……」


「このアホな量の仕事も。嫌がらせと、多分だけど、あなたにすきを作る為にやっていると思うよ」

「……」


神殿長おじ様にチクっとくからさ、今日はもう上がりな。送ってくからさ」

「でも、これは私が任された仕事だわ」


「この頑固者がんこものが……。えーい、しゃーない。手伝ってやるか」

「助かるけど、それだとあなたを巻き込んでしまうわ」


「いいって。それにもう念話で言っといたから問題ないよ」

「……」


「あーあ。ホント、馬鹿な男って最悪だー」

「…………ありがと」


「どういたしまして」


* * *


「さて、あと少しだね」

「ええ。助かったわ」


「うふふ。ねえ、好きな人っている?」

「お父様」


「それ以外」

「いないわね」


「じゃあ男の条件。これだけはってヤツ」

「…………」


「……」

「そうね……」





「『お父様よりも強い人』、かしらね」

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