魔法使いの長い夢 三


 この星の南の海に、『夢の島』と呼ばれる場所があった。

 一万年前には四千万人の住民がいて、八つの国があったという。


 広大なその島には人類種は一人もおらず、迷い込んでその島に降り立った者は必ず命を落とすと、船乗り達の間で言われていた。


 実際に国や富豪、開拓者達の中で、この島を開拓する為に船を出した者達はいたが、島へ行った船は、すぐに音信不通となった。帰って来た者はいなかった。


 そして最後の開拓船団から百年の後。

 

 ある五人が、その島へと降り立った。


「聞いてない! ウチはこんな話聞いてない!!」

「いや、契約書には書いてありますよ。『凄い怪物要注意』って。虫眼鏡でも厳しいフォントですが……」


 でっかい文字で『南海の島の調査の依頼』、と書かれた紙には、四十ページに及ぶ約款やっかんが、細かい字で書かれていた。


「うわ!? ウチらの死亡保険の受取が、イノリさんになってる!」

「保険の取り扱いは『魔月総合保険』ですね」

「あの業突張ごうつくばりの黒狐! 保険金詐欺でも、もっと良心があるわよ! 戻ったら覚えてなさいよ!!」

「致し方なし、だ。今度からは拙者も注意する事としよう」

「オトネ、前」

「え、ウソ!?」


 鳥獣人の少女の目の前で、灰毛頭の少年が剣を振った。

 不可視の何かが断ち切られ、しかしその切り口から、呪われた魔力がばら撒かれる。


「ヤパス」

「了解です」


 白い竜の仮面を被った男が、瞬時に防御の結界を展開し、仲間達を守った。


「っぶな! こらヨハン! 指示は早く出してよね! あなたしかコレの位置は分からないんだからさっ」

「すまん。気を付ける」

「ぷっ、オトネ尻餅ついてる」

「リリ、うるさい」


 小さな赤い竜が笑い、オトネが頬を膨らました。


 忍び装束の汚れを払い、立ち上がったオトネが、ヨハンの額を指で弾いた。


「何だよ」

「ヨハンが全て悪い」

「酷い八つ当たりだ……」


 他の仲間達が楽しそうに笑う。


「さて、あちらも少し本気になったようだ」


 風の流れが変わる。

鎧武者の男が、その鉄面の下にある複眼の輝きを鋭くした。


「そうね、バカしてる場合じゃない。結構マジよね、これ」


 オトネが右手に【黎明の王ホライゾン】を、左手に【嫉妬エンビィ】を握る。


「まあイノリ様が契約書を出す位ですからね。あの方が契約書を書いたなんて、初耳ですよ」


 ヤパスが七つの魔導球を出して、ジャグリングを始める。


「容易ならざる、か。それでこそ拙者の剣も磨かれるというものよ。なあ、ヨハン」


 腰の太刀を抜き、その銀の波紋を表す刃を構える。


「そうだなカブト。強敵は大歓迎だ」


 そしてヨハンが【神蝕の王イクリプス】を構えた。


「さあ、怪物の巣窟目指して、レッツゴー!」


 リリの声が響くと同時、数百の不可視の触手が、彼らへと襲い掛かった。

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