因縁 五


 【呪律機巧竜 ベヌ・ゲラニハ】によって神殿騎士団は消滅した。


 崖から海に落ちた私は気を失って、そして目覚めたのは何処かの廃屋だった。


「ここは?」


 灯り、そして人の気配。


「やあ聖女様~、大丈夫ですか~」


 黒いローブを纏い、長い黒髪を流した黒目の少女。


「あなたが私を助けてくれたのですか?」


 こくりと頷き、湯気の立つカップが渡される。

 ココアの香りが立ち昇る。


「どうぞ~」

「ありがとう、ございます」


 それは甘くて、とても美味しかった。


 * * *


 黒い突撃槍グラビテスが方天戟を砕き、超成者オラトリオが纏う魔力を破り、その身体を貫いた。


『ガアッ』


 更に黒い突撃槍グラビテスの青い魔力刃の嵐が抉り削り、超成者オラトリオの右半身が消失した。


『カハハ、流石パフェラナたん。強くて綺麗で可愛くて。だから、兄様の次に……』

「さよならだよ、ベアーチェ」


 黒い突撃槍グラビテスを抜く。

 超成者オラトリオが空の下、闇の広がる海へと落ちて行く。


黒い突撃槍グラビテス、モード砲撃形態タイフーン


 ブルー・クラーケンのエネルギーを、砲撃形態タイフーンへと集中する。

 標準を合わせ、その視界の中で、ベアーチェが笑った。


―― 「パフェラナたんって呼んでいいかな?」


 水の大神殿の工房で、遠慮勝ちに聞いて来た彼女。

 机に置いた二つのカップからは、ココアの甘い香りが立ち昇っていた。


―― 「この世界は広いのにさ~。人も~、信仰も~、国も~。と~っても小さいよね~。ここ出てさ~、望むままにもっと遠くへ~って、夢を見るんだ~」


―― 「ねえパフェラナたん。パフェラナ。いつか私と兄様と……」


「ブルー・クラーケンッ! 何で今これを見せるんだよっ!!」 


 唇を強く噛む。

 その痛みでも紛れない。


 けどっ!


 黒い突撃槍グラビテスが唸りを上げる。

 そらが震える。


―― 寝台に横たわる姉さんの姿。

―― 色の消えた瞳が虚空を眺める。

―― 「ねえパーナ。私の赤ちゃんはどこ?」

 

「っ!!」


 砲撃形態タイフーン、アポカリプス・システム起動。


「テンティクル装填!」


 テンティクルの一つを黒い突撃槍グラビテスに入れ、残りを指定の座標へと飛ばす。


―― 対聖霊最終兵器。


「エデンズフォール・カノン、ルシファー・スマッシャー射出ファイア!!」


 黒い突撃槍グラビテスから青い破壊の力が放たれた。


 空間さえ貫き壊し、光の速さを超えた青が超成者オラトリオを呑み込んだ。


 そして地表へと届く前に、七つのテンティクルが形作る、異空間の穴の中へと消えて行った。


 ブルー・クラーケンの下、星の表面を覆う夜は消えて、青い世界が見える。


 それは果てしなく広くて、人の姿など、余りにも小さくて見えはしない。

 

 それぞれの神殿と国を分かつ、地図に描かれた境界など、大地にも海にも無く、空はどこまでも続いている。


 光が消え、夜が戻る。


 闇の中で空虚が押し寄せて来て。


 涙が出る前に、両手で目を覆った。

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