刺客襲来 二
「凄いわ……」
フラムベルクを掲げた金縁眼鏡が、『ホゥ』と息を吐いた。
「何これ? 熱い、熱いじゃない!!」
スーツには傷一つ無く、顔には汗の一つも出ていない。
けったいな言動をしているが、俺の【
「坊や、名前は?」
細められた目と構えられた剣。
そこにあった遊びの色は消え失せた。
「【最強無敵 ヨハン・パノス】」
「センスの無い異名ね。子供じゃないんだから、もっと考えなかったの」
「そう言うお前は、大層な異名を付けたんだろうな」
「ええ」
フラムベルクの剣先が俺に向かい、緑色の魔力洸がその剣身を包み込む。
「私は水の大神殿の法王猊下直属。聖騎士【華風剣 ニオ・ベッツイ】よ。見知りおきなさい」
ニオの身体が膨大な魔力を纏い、鋭い風を侍らせた剣の切先が俺へと向けられる。
「テンプレじゃねえか」
「あら、そんな事言うなんて」
閃光の様に突き込まれたフラムベルクの切先。
それを青燐で絡め取り風の刃ごと流すと同時、俺の腹を目掛けて革靴に包まれた左足の蹴りが襲って来た。
すぐに引き戻した青燐の柄頭を打ち付けて弾き、頭上より振り下ろされた波打つ刃を剣の腹で流し、鍔元で外へと払う。
(こいつは……)
態勢を崩したニオの右脇腹へ速攻で柄頭を打ち込み、その身体を突き飛ばした。
「……」
「ヨハン、大丈夫?」
左手でパーナへ止まるように指示し、手応えの違和感に顔を
「下手な誘いだな。お前の戦い方は、聖騎士というよりも暗殺者のそれだ」
「ホント、良く気付くわねえ」
フラムベルクの剣身からは毒の臭いがし、革靴の爪先には刃が仕込まれてた。
腹を叩いた時の感触から、スーツの下には防具が仕込まれており、それは衝撃を受けると針が飛び出る仕組みになっていたようだった。
「ヨハン君って何処でどう育ってきたの? 剣を合わせてハッキリしたけど、すっごく戦いの経験を積んでいるわよね。長命種の暗殺者と何回か戦った事があるけど、ヨハン君は彼らに比べても、とても濃ゆ~く感じるわ」
「普通の人間で、年齢も見たままだ」
立ち上がったニオがフラムベルクを構える。
「剣をよく使えるのは分かってたのよ。けどもそのおかしな魔力で判断を誤っちゃったわね。魔力量は少ない、いいえ、その質が希薄だと言うべき? でも剣から伝わって来た感触はとても濃密で……。ホント、解からない、わっ」
踏み込み、瞬く様に繰り出されるフラムベルクの刺突。
火花一つが消えるよりも速く、十の突きが襲い掛かって来る。
「どうかしら、どうかしら。さあ、もっと速くイくわよ!」
刺突の速度が更に加速し、突き込まれる数が激増する。
奇抜な戦い方をする男だが、素直に強いと賞賛できる実力があった。
「さあ、お死になさい!!」
風と共に走るフラムベルクの残像が幾重にも重なる。
そこに魔法が加わり、刃に重なった無数の幻影が、剣の軌跡を惑わせるようにと動く。
(だがこれも、死闘と呼べる程じゃない)
俺の目は刃の実体をはっきりと捉えている。
必殺へと動いたフラムベルクが潮の匂いを放ち、咲き乱れるフェイントの中に隠れたそれを、青燐の一撃で斬り払った。
「バカな……」
切断された刃が宙を舞い、剣身を失ったフラムベルクを突き出した姿勢のまま、驚愕に固まるニオ。
その首元に柄頭を打ち込み、同時に魔力を流し込んだ。
「っ」
身体の電気信号と魔力の循環を乱されたニオは崩れ落ち、今度こそ、完全にその意識を失った。
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