盃:ルーネ支部
~ ヨハン・パノス ~
案内されたのは物置部屋であり、無数の木箱やガラクタが
「なあ、サラペン。人の入る場所が無いんだが?」
腰の下に視線を向ける。
草原に住む小型人種『プレーリービー』である【石森の迷い人 サラペン・ルーリー】は、マフィア『盃』のルーネ支部の長をしている。
かつて、俺の師である【鏖風奇刃 ハリス・ローナ】と共にこの街に立ち寄った時に会い、その知己を得た。
しかし直接的な戦闘能力は低いが、種族固有の能力を使った立ち回りで、過酷な都市の裏社会を生き抜いてきた歴戦の強者だと、先生から教えてもらった。
「このボロ物件に他の部屋はねえよ。これは全部ゴミだから、お前が斬って空きを作れ」
鋭い緑の目が俺を睨む。
「ペシエの件は聞いた。ヨハン、お前相当腐ってたようじゃねえか。あのハリスの弟子が、クソ女の下働き!! バーフのバカ短気じゃなくてもぶっ殺したくなるってもんだぜ!!」
『草原の妖精』という別名を持つプレーリービーという種族だが、枯れ草色の頭髪を震わせて地団太を踏むサラペンに関しては、『草原頭の
「昔会った時に、『悪い女に引っかかるのも男の甲斐性だ。それは
「ああ!? そりゃ今関係無いだろうがっ。魔月の黒翼が衆目の前で
「それはボンノウに
「あんだと! 表出ろ!」
遂にサラペンが衣服を全て脱ぎ捨てた。
その本気の合図に俺も覚悟を決め、立て掛けられていた
「上等! その喧嘩買った!」
そうして、俺達は窓を開けて飛び降りた。
* * *
「あれ? 部屋の掃除に上がったんじゃないの?」
机に座って書類仕事をしていたパーナが顔を上げ、泥まみれのサラペンを担いだ俺を見る。
「ちょっと不幸な行き違いがあってな。外でお話することになったんだ。すまんがコレに治療と浄化の魔法を掛けてくれないか?」
「いいよ」
パーナが立ち上がり、ソファーに置いたサラペンへと魔法を掛ける。
「彼って、ここのボスだよね。大丈夫なの?」
「問題無い。ここの連中とは顔見知りだし、前に来たときはマジでボコボコにしたことがある」
大体四日に一回は決闘騒ぎを起こしていた。
あの時は魔導剣を使っても、俺の方が一方的にやられていた。
それでも友人と共謀して策を練り、罠に嵌めて、一つだけは勝利をもぎ取った。
そして今日は遂に正々堂々のタイマンで、箒を得物として、サラペンに完勝した。
(成長したな~)
感慨に耽っていると、奥の方からドタドタと音が聞こえて来た。
ドアを蹴り破り、魔導剣を抜いた若い人間の男がこの部屋に入って来る。
「ボス!! 貴様!!」
ソファーに置いたサラペンの姿に激高し、風連玉を輝かせた魔導剣を振り下ろしてきた。
勿論、剣の安全装置は解除されており、剥き出しの刃が俺の頭へと迫って来る。
「新人さん?」
魔導剣を右手で摘まみ止める。
「何だと!?」
左手の箒の先を新人さんの鳩尾に当て、身体の中へ通した彼の打ち込みの力を解放する。
「ぐっ!?」
彼の手が魔導剣から離れ、膝から床へと崩れ落ちた。
「テメエッ、何、したッ」
「心配するな。威力は拡散させたから怪我にはなっていない」
魔導剣を人差し指でクルクルと回す。
立ち上がろうとする新人へ、後ろのソファーから声が掛かった。
「止めろ、ケン」
「ボス!」
意識を取り戻し、身体を起こしたサラペンが、俺の箒へと視線を向ける。
「ヨハンに物理攻撃は通じねえ。全部喰われてカウンターにされちまう。前は風弾をガトリングすりゃ何とかなったが、今じゃそれも通じなくなった」
……。
「強くなったな、ヨハン」
「随分遠回しな歓迎だなサラペン。ツンデレか?」
「フンッ。醜態見て頭に血が上ったのはマジだったよ」
傷が治癒し、汚れも無くなったサラペンが立ち上がる。
「嬢ちゃん、ありがとな」
「いいえ。お気になさらず」
亜空間の蔵庫から出した服を身に纏い、その口に紙巻き煙草を咥える。
マッチを擦った火を着けて一つ吸い、プハーと紫煙を吐き出した。
「もう六年か」
灰皿に煙草を押して付けて、俺へと向き直る。
「ようこそ。魔月奇糸団第四席、【最強無敵 ヨハン・パノス】殿。あなたの来援、我ら盃ルーネ支部は感謝いたします」
そう言ったサラペンは、俺に向けて深く頭を下げた。
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