聖女と魔女のお茶会 二

「青の機巧師殿。それはこの【魔月 グロリア】に喧嘩を売ったという意味で捉えていいのかしら?」


「そうしたいならどうぞ、と私は答えるかな」


 私達の間に緊張が混じり、柔らかかった朝の空気が鋼の糸の様に張り詰める。

 グロリアの影が微かに揺れたと思った次の瞬間、そこから四つの人影が飛び出し私へと刃の輝きを振り下ろした。

 

 鋼爪の猫人、双剣の鳥人、手斧のドワーフ、そして曲刀のダークエルフ。

 

「真達位の上の方って所だね。私は殺せるだろうけど」


 虚空より出た金属の腕が、私の目の前で彼女達メイドの得物を防ぎ止める。


「「っ!?」」


 空間に波紋が広がり。

 その中から四体の白い戦士達が現れる。

 牛頭人をモチーフにした鎧姿、その中身は金属と魔獣の素材を組み合わせて作った、半生体型の錬金機械式戦闘ゴーレム。

 

 内部に組み込んだ戦闘人工精霊によって、彼らは独自の思考による高度な自動戦闘を行うことができる。

 また人工精霊と私の思考はリンクしており、リアルタイムで彼らに指示を出す事が可能。

 

 【NO.478 ホワイトローズコマンダー】。

 愛称は【ワーク】。

 

「けれども、その程度の力じゃ私の作品は突破できないよ」


 メイド達が更に得物を振るうが、ワーク達はそれを完璧に防ぎ受け流す。


 私自身の方は、魔導鎧が生み出した防御結界に包まれている。

 昨日から使わせてもらっているものだが、少々弄らせてもらった。

 

 元は対魔獣用の戦術級防壁を出せる程度の品だったが。

 しかし私が手を加えた今は、例え戦略級の上級魔法を十発撃ち込まれても、完璧に防げる位の性能にはなっている。

 

(「制圧して」)

(「「了解シタ。我ガ主」」)


 私からワーク達へ供給する魔力の量が増え、ワーク達の魔術駆動機が出力を上げる。

 白い腕が紫電を纏い、相対したメイド達へのそれぞれの行動が、積極的な攻撃へと移行する。

 

「がっ!?」

 

 バキンッと手斧をワークの拳が砕く。

 そのまま勢いを止める事無くメイドの鳩尾へと打ち込んで放電、一人を沈める。

 同じように双剣、鋼爪のメイドを制圧したが、最後の曲刀のメイドには苦戦を強いられていた。

 

 ザンッとワークの右腕が斬り飛ばされる。

 

 後退するワークをメイドが曲刀を振って追撃する。

 しかし、他のワーク達が援護に加わってフォーメーションを組む。

 自身に向き合う三体のワーク達を前にして、メイドは曲刀を構えた状態で立ち止まる。

 

 斬り飛ばされたワークの右腕を転移魔法で引き寄せる。

 こういう時に念動を使わないのは、移動させる対象を敵に狙われる可能性があるからだ。

 

「へえ」


 切断されたワークの腕、その断面は割と滑らかだった。

 

(結構奮発した材料を使ったんだけどな。ま、ここは斬ったメイドさんの腕を褒める所かな)


 ダメ出しはあるけど。

 

「『軽々と斬れた』、という感じじゃないね。『機をうかがって放った技が上手く決まった』、という感じだよね」


 ぺろりと切口を舐める。


「クマシビレの実を使った毒を刃に塗っているね。でもその程度の毒じゃ、には効かないよ。戦闘スタイルから察するに、お姉さんは諜報が得意分野なのかな?」


 ダークエルフのメイドさんの表情は変わらないけれど。

 ほんの少しだけ目元がひくついていた。

 

 斬り飛ばされた右腕を魔法洗浄、そして本体の断面に押し当てて修復の為の魔法を使う。

 切断面はすぐに消え、元に戻ったワークの腕の指がワシャワシャと動く。

 

 腕を戻したワークもフォーメーションに加わり、一人のメイドに四体の戦闘ゴーレムが対峙する形になった。

 

「私の本意としては魔月奇糸団と敵対したくないんだよ。どうしたって今の私の力じゃあなたに届かない」


 パチリと指を鳴らすと、ワーク達は後ろに下がり、私の横へと並び立った。

 

「できれば穏便に済ませたいし、その為の話し合いには応じたいと思ってる。それは了解してもらえるかな?」

「ええ」


 グロリアが頷く。

 ダークエルフのメイドが後退し、手品のように曲刀を服の中へと納める。

 そして倒れたメイド達と共にまた影の中へと戻って行った。

 

「凄いわね。いえ、流石というべきかしら」


 窓から差し込む光に粒子が舞う。

 所せましと置かれた品々には、破損はおろかか傷は一つとして付いてはいない。

 メイド達は、そして私のワーク達もそこは注意して動いていた。

 

「そのゴーレム達は非常に完成されているわね。特に中に組み込まれている人工精霊、その思考能力の高さを賞賛するわ。動作の精度が高いだけの物には、あの子達も遅れは取らないもの」


 金の瞳が楽しそうに笑う。


「その人工精霊、あなたのオリジナルでしょう? 実に素晴らしいわ」

「お褒めいただきありがとうございます。私からは『ご慧眼けいがんですね』、と申し上げときますね」


 人の機微きびに疎い自覚はあるが、その私でも解かってきた。

 

「というかグロリアさん。私の言葉の意味を解かってて彼女達をけしかけたでしょ?」


 たちの悪い愉快犯だと思う。


「ごめんなさい。少しあなたの力を見たかったのよ」

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