ソード・アンド・ブレイド / 刃曲
夢 ~いつかの町で~
ピ~ヒャラララ。ピ~ヒャラララ。
ドンドコドン。ドンドコドン。
村は今、祭りの時。
聖霊の姿をした八人の子供達と、異形の姿をした十三人の子供達が、地面に突き立てられた剣を中心にしてグルグルと回る。
語り継がれた物語を歌い、今を生きる者達の願いを歌う。
それを観る者達の瞳には、穏やかな光が揺れている。
風が吹き、篝火の向こうから、一人の男が現れた。
創造神の姿をした男は、その腕に抱える創世神の姿をした子供を、剣の前へと降ろした。
聖霊達は歓喜の声を上げ、異形達は憎しみの声を上げる。
創造神はまた篝火の向こうへと去って行き、剣を抜いた創世神はそれを天へと掲げた。
聖霊の輪は
やがて人々がその中へと混ざっていき、途切れることない音色の中で、彼らも手を取り合って踊り始める。
悲哀を歌い、歓喜を歌い、生まれた命の祝福を、見果てぬ夜の空へと歌った。
……。
* * *
空は青く晴れて、雲は悠々と風に流れる。
放牧された牛が草を食み、水車の羽車がゆっくりと回っていた。
柵に手を掛けて海風に目を細める。
パタパタと左肩に乗った彼女、赤い鱗の幼竜の翼が頭に当たった。
とても落ち着いた時間が流れる。
いつも口うるさい彼女が静かで、気になってちらりと横目に見ると、小さな牙の生えた口が大きく開いていた。
「ぷっ」
おかしくなって笑うと、後ろ頭を尻尾でビシビシと打って来た。
「ごめんごめん」
笑いながら謝る。
彼女の頭は明後日を向いてしまった。
どうしたものかと思っていると、遠くから俺達の名前を呼ぶ声が聞こえた。
丘の上で先生が手を振っている。
「は―い!」
手を振り返して、彼女を乗せたまま先生の下へと戻る。
アスファルトの舗装の無い土の道を歩く。
少し歩いて、町の中へと入り人通りの中を進む。
石造りの建物が連なる町。
穏やかな喧噪の中を様々な種族の人々が歩いている。
差した影を見上げれば、四メートルの巨人の男がすれ違っていった。
きょろきょろと、俺も彼女も興味の赴くままに風景を楽しむ。
この場に居る人の気配は全て捉えている。
危なげなく、すいすいと先生の後へと続く。
しばらく歩いて、辿り着いたのは町の神殿だった。
門には翡翠の玉を嵌めた風の紋章が掲げられている。
先生がドアを開いて中へと入り、俺達も後を追うようにして中へと入る。
素朴な石造りの広間の端で、一人の女神官がオルガンを奏でていた。
そのエルフの女性に先生が声を掛ける。
駆け寄って来た彼女は、嬉しそうに先生の手を取った。
彼らは少し長く話をしていた。
退屈した相方の彼女は肩から降りて、俺へと向けて風の礫を飛ばし来る。
それを人差し指一つで絡めて解き散らす。
「もうっ」
だんだんムキになった彼女が、放つ速度を上げていく。
それが散弾のようになったとき、先生がにこやかに彼女に拳骨を下した。
「痛いっ!!」
「ごめんなさい」
それを見て俺は速攻で先生と神官に頭を下げる。
特にこういう場面では機先を制するのが大切だ。
先生も神官も苦笑して、俺は拳骨を免れる事ができた。
「卑怯よヨハンっ!!」
飛び上がった彼女が俺の頭を噛んで来る。
結構痛かったが、先生達は止めてくれなかった。
機嫌を損ねた彼女を頭に載せて、俺達は神殿の奥へと歩いた。
そして突き当りにある部屋のドアを神官が開け、その左手に生み出した光の玉を宙に浮かべた。
窓を閉ざされた室内の様相が浮かび上がる。
小さな部屋の中には様々な品物が置かれていた。
大小様々なガラス瓶。
幾つもの革の装丁を施された本。
壺、燭台、槍や剣や鎧。
片隅には古い水時計があった。
その中で特に異様を放っていたのは、中央に置かれた不可思議な物体。
飾り箱と、その上に人の上半身の
しかしその物体には気味の悪さを感じず、例えて言うならば博物館で見た厳かな標本のような雰囲気があった。
俺は先生にそれが何かを尋ねる。
微笑んだ先生がその木乃伊の額に右手を置いた。
深紅の魔力洸が先生から木乃伊へと流れ、飾り箱の中からカタカタカタと歯車の回る音が鳴り出した。
木乃伊の閉じられていた瞼が上がり、そこに水晶の目玉が現れる。
パカリと開いた口から、低い呼吸のような音が漏れ始めた。
『汝ノ加護ヲ伝エヨウ……』
それは木乃伊の言葉へと変わる。
『風ナリ、火ナリ、土ナリ、……ナリ、ナリ、ナリ』
カタカタカタ。
『汝ニ聖霊ノ言葉ハ伝エラレタ』
口が閉じられ、木乃伊の瞼もゆっくりと閉じられた。
その光景に言葉が出ない。
頭の彼女はムグムグと口を動かしている。
(ハゲるから止めて欲しいんだけどね!)
言っても聞かないからなあ……。
「これは『導きの賢者』という古い魔道具でね。現在の精霊機より前はこれを使って属性適性を調べていたんだよ」
そんな俺達に苦笑しながら話した先生の言葉に、俺はここに来た理由を理解した。
「精霊機でも分からないヨハンの属性適性も、これならばと思ってね」
こくりと神官も頷く。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を伝える。
先生の手によって俺の頭から彼女は離されて。
右手を『導きの賢者』の額へと置いた。
少しの魔力が俺から流れて行き、立ち眩みを覚えてしまった。
「大丈夫かい?」
「すいません、大丈夫です」
ほっと、先生が息を吐いた。
『導きの賢者』に使われた魔力は本当に僅かで、小級魔法一つ分にもなっていない。
カタカタカタ。
そして、木乃伊の瞼が上がっていった。
……。
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