其の肆・図書館
「ここか……」
僕は地図を片手にナイチンゲールさんに教えてもらった図書館まで足を運んでいた。
目の前には横に長い階段が五メートルほどの高さまで続いてる。
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「図書館……ですか?」
「ええ、少し待ってください。たしかここにネノクニの地図があるはずで……」
ナイチンゲールさんはそう言うと八重さんのデスクの上にある書類立ての中を探し始めた。
「じゃあ、私も着いて行きますヨ!」
「あれ? ジェニーはまだ仕事が残っていませんでしたか?」
「うっ……バレてた……‼」
リードさんは顔をしかめて少しへこんでいる。その様子を見てナイチンゲールさんは少し微笑み、今度は隣の書類入れを開けた。
「でも……」
本当に行ってもいいのだろうか……? 月ノ宮さんも見ておかないといけないし,それに僕が一人で外に出るのは危ないんじゃ……
「彼女のことは私が見ておきますから良いですよ」
そんな僕の心の中を見透かしているようにナイチンゲールさんは答えた。
「あなたはこれからセントラルで暮らすことになるでしょう? なら少しでもこの街に慣れておくために、いろいろ見て回っておくべきです」
「でも……、バレてしまう可能性もあるんじゃないですか……?」
「たしかにバレる可能性もありますが、おそらくあの手袋もあることですし大丈夫でしょう」
ナイチンゲールさんは自信満々に言う。
「まあ、それなら……」
「それに、」
僕の暗い顔に対し微笑みを向けながら話す。
「そんなときのために、あなたは戦う術を得たのでしょう? なら大丈夫ですよ」
そう言って彼女はようやく見つけた地図を僕に手渡した。
********************
うん。
そうだ、僕は一応戦うことはできるんだ。もしも危ない目に合えばこの刀を……
僕は腰につけた刀をチラリと見る。
それに、病院から図書館までの道のりもあまり人にすれ違わなかったし突然バレる心配も無いだろう。
よし!
僕は目の前にある階段を上り始めた。
足取りはあまりよくない。
ここに着くまでもずっと気を張りつめながら歩いていたから少し精神的にキツイ
だが、そんな僕以上に月ノ宮さんはキツイ思いをしているのかもしれない。
そう思うと僕の足は少し速くなった。
一番上にたどり着くと目の前には暗い茶色のドアがあった。
僕はそのドアをゆっくりと開ける。
一番最初に入ってきたのは紙の香りだった。
その香りが僕の頭の中まで包んでいく。
そして次に見えたのはおびただしい量の本。
中は右を見ても、左を見ても、上を見ても本棚が続いており、端がまるで見えない。
ていうか、建物の外観より明らかに中が広く感じるぞ⁉
こんな量から本を探すと考えると少し頭がクラクラした。
僕は頭を振って気合を入れる。
よし、探そう!
月ノ宮さんが意識を取り戻すための情報を!
僕は図書館の奥へ足を進めた。
「ちょっとキミ」
そのとき、いきなり後ろから呼び止めるような声がした。
突然呼ばれたため背中がビクッとなる。
周りを見まわしても僕の傍に人はいないためやはり僕を呼んでいるに違いなさそうだ。
ゆっくり後ろを振り向くと、そこには眼鏡をかけた細身の男性が立っていた。
「キミ見かけない顔だけど、もしかしてここに来るのは初めてかい?」
「あ……、はい。そうです!」
「ふ~ん……」
彼は鋭い目つきでジロジロ僕を見ている。
……まずい。もしかしてもう気づかれたか……!?
身体が硬くなってしまう。
彼と目が合った。僕はぎこちなく笑顔を見せる。
「……まあいいや。ようこそ、この図書館へ。ボクはここの司書と管理をしている」
彼は両手を広げて笑った。
「は、初めまして……!」
僕は頭を下げる。
「本が多くて最初は驚くだろ? 何か探している本があるなら館内にある検索機で調べるか、あそこの司書室まで来な」
彼は僕の後ろの方にある『司書室』と書かれた表札がぶら下がったドアを指差しながら言った。
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、何かあったら呼んでくれたまえ。それじゃ……」
そう言うと彼はその『司書室』と書かれたドアに入っていった。
……よかった。バレていたわけじゃなさそうだ。
あたりをよく見てみると、確かに検索機がいくつも置いてあった。
僕は一つの検索機の前に行き、本を調べ始めた。
まず、意識を失う病気のことやら眠りについての本を検索してみた。
「『意識』、『失う』と……!」
画面に「検索中」の文字とともに円がぐるぐると回り始める。
そして数秒経った後、画面が表示された。
検索結果:該当数が百万件以上あります。
……まじかよ。
そこには日本語だけじゃなく外国語の本や、明らかに古代の象形文字で書かれているような本まで検索に引っかかっているようだった。
じゃあ、もうすこし詳しく……
僕は画面を戻り、もう一度検索する。
「『日本語』、『意識』、『失う』、『眠り』、『原因』……」
そして検索
また画面に円が回り始めた。
検索結果:該当数が三十六万件以上あります。
えぇ……?
これでもまだまだ多いのか……?
僕はとりあえず上からスクロールしていって、何冊か良さそうな本を見つけて
その本の場所を傍にあったメモ帳にメモして探し始めることにした。
「よし!やるぞっ!」
僕はまず傍にあった階段を上り二階へ向かった。
********************
図書館についてからおそらく三時間以上は経った。窓の外はもう橙色に染まっており、最初はそこそこいた人たちも今ではすっかりいなくなってきた。
「探しだす」という意気込みはよかった。
そう意気込みは。
だが……、どの本を読んでも何の成果もなかった……。
僕はたくさんの本を机の上に乗せたまま突っ伏していた。
まず全部の本を取るだけで一苦労だったというのに読んでみても何も当てはまる情報が無いってなんだよ……。
またあのめちゃくちゃ高い本棚の上まで本を片付けに行かないといけないなんて正直面倒くさいし……。
深いため息をついてしまう。
調べ方がいけなかったのか……?
それとも純粋にこの世界には月ノ宮さんのなっている症状が存在していない……、とかなのかな……?
考えたところでどうにもならないし、理由も見当たらない。
時間も時間だし今日はもう帰……。
その瞬間、唐突に頭の中にあるものが思い浮かんだ。
「人魂の形をした化け物」
そう、たしか彼女はあの人魂に襲われて倒れていた。
もしかしたらあの人魂について調べたら何か分かるんじゃないのか……?
僕はおもわず椅子から立ち上がった。
「もうそろそろ閉館時間だけど、調べ物は見つかったかい?」
そのとき、後ろから聞き覚えがある声が聞こえてきた。
振り向くとそこにはあの司書さんが立っていた。
「あのっ、すいません! 調べてほしい本があるんですけど!」
僕は彼に詰め寄り、一つお願いをした。
********************
「ふぅん……。『人魂の形をした化け物』……ねぇ……」
司書さんは司書室の中にあるパソコンでキーボードの音を立てながらその人魂について書かれている本を調べてくれていた。
僕は彼の後ろからパソコンの画面を見つめる。
――「キミの友人が意識不明で、その原因が不明?」
「はい、そうなんです。この前、とある用事で友人と森の方に出かけたとき友人が『人魂の形をした化け物』に襲われて、それから意識不明になってしまって……」
「ふむ……。分かった、調べてみよう。ついておいで」
「あ、ありがとうございます!」
――「よし、これぐらいかな」
彼はそう言ってキーボードを打つ手を止めた。
「ありがとうございます! どれくらいありましたか?」
「まあまあ、落ち着いて。今から少し話したいことがあるからとりあえずその椅子に座りな」
そう言われ、僕は後ろにあった腰かけ椅子に座る。
「さて……と……、まず調べた結果だが、およそ千五百冊程度見つかった」
「千五百冊……」
まだまだ多い……。でも、最初の百万冊に比べたら全然少ない……!
「じゃあ、その本を貸してくだ……!」
「ちょっと待った」
彼が僕の言葉を遮る。
「……なんですか?」
「貸したいのはやまやまなんだが、その千五百冊のほとんどは『禁帯出』といって貸し出すことが出来ない本なんだ」
「えっ……じゃあ……!」
「あぁ、だから読みたいならまた明日来てくれないか? 今日はもう時間が遅い。明日来てくれるならこの検索に出てきた本を全部準備しておくから」
まさか借りることが出来ないなんて……。でも、ただの化け物の話なのになぜ、大半が『禁帯出』扱いになっているのだろうか……? たしか、『禁帯出』って重要な本とかがなるものだったような……
だが、とにかく情報は手に入りそうだ。外はもう暗くなってきたし今日はもう帰ろう。
「……分かりました。ありがとうございます」
そう言って僕は椅子から立ち上がる。
「ああ。それじゃあ、また明日」
僕は頭を下げて司書室から出た。
僕は外の方へ足を進めながら考える。
よし! とりあえず明日もこの図書館に来ることは決まった。明日は早起きして朝一番からその本を読むことにしよう!
外に出た時、外の景色はもう真っ暗だった。
だが、その階段の上から見える街並みは黄色い明りで照らされており、遠くには空にある大きな根に向かって、いくつもの明かりが伸びている巨大なコロッセオが美しくそこに建っていた。
「綺麗だ……」
僕はその夜景を見てそう呟いた。
この景色を月ノ宮さんにも見せてあげたい……。そのためにも……!
そして僕はあの病院に向かって、明日に向かって歩き出した。
と思ったその時だった。
病院に向かって街の中を歩き始めたとき、建物の間にある路地から突然人が飛び出してきてぶつかった。
飛び出してきた人物はとても図体が大きく、ぶつかった瞬間僕の身体は横に吹っ飛んで尻もちをついた。
「痛てて……」
顔を上げるとそこにはぶつかってきた一人のオッドアイの男性が立っており、その男性は僕の顔を見ながら言ってきた。
「すまんボウズ! 匿ってくれはしないか!?」
「…………え?」
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