閑話
其の16.5・馬車の中で
馬車に揺られながら、僕らは進む。
この馬車には当時無かった技術がふんだんに使われているらしく、揺れを全く感じず、とても快適だ。
ただ、一つ悩みどころがあるとすれば……
“気まずい”
僕は馬車の車内にいるのだが、一緒に乗っているのは八重さんとリードさん、そしていまだ意識が戻らない月ノ宮さん。
そう、女性ばかりなのだ。
八重さんとリードさんは、月ノ宮さんの様子を見ながら八重さんがセントラルに不在だった時の話をしていて、伊能さんは外の操縦席で運転している。
月ノ宮さんはネノクニに来た時からずっと静かに寝息を立てている。
女子トークとかが繰り広げられている訳でもないのだが、どうも気まずく居心地がよくない。
そう思っているとき、前から伊能さんの声が聞こえてきた。
それは、操縦席に乗ってみないか?という提案だった。
********************
馬車の外は風が心地よかった。
あの森を抜けた先には広大な草原が広がっており、目の前には巨大な根っこが少しずつ、少しずつ、本当に近づいているのか気づかないほどゆっくりとだが近づいている。
伊能さんの話によると、セントラルの中心はあの根っこの中心の真下にあるので到着するにはまだまだ時間は掛かるらしい。
伊能さんが僕を操縦席に呼んだ理由は「気まずそうだったから」と「暇だったから」らしい。伊能さんは今の日本はどんな様子なのか聞いてきた。伊能さんは名前の通り日本人だが、セントラルにはリードさんを含めて様々な国の人が多くいるため、あまり日本の人と話せたことが無いらしい。
僕は自分が教えられる範囲で今の日本のことを教えた。伊能さんは終始ずっと興味津々で聞いていた。
そしてそのお礼にということで僕は伊能さんの話を聞かせてもらうことにした。
なんと伊能さんはこんな若々しい顔なのだが実は八十三歳で亡くなった方らしい。話によると、死んでネノクニに来ると、その人の人生の中で一番身体が元気だったころ、一番体力、能力があった時の姿で現れるらしい。俗にいう「全盛期」というやつだろう。
そう言われてみると八重さんもかなりのご高齢で亡くなったはずなのに、今ここにいる姿はとても若々しい。
そんな話をしていると後ろからリードさんが顔を出して、「男同士で何を話しているノ?」と、話を割って入ってきた。
僕は揺れる馬車の上で、空が暗くなりキャンプを始めてからも、二人にネノクニに来て起きたことを夜通し話した。
その夜見た空の根は今までより大きく美しかった。
セントラルまでの道のりはまだまだ長い
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます