第4話 いないはずの人

次の日の朝、とおるから着信があったことに

気付き、とおるに電話をかけた。


もえか「とおる?昨日夜電話

    してくれてたんだね。

    ありがとう、寝てたよ」

とおる「ううん、いいよ。

    朝ごはん食べた?」

もえか「食べたよ、とおるは?」

とおる「食べたよ、今から仕事に

    行ってくるよ」

もえか「うん、頑張ってね。

    いってらっしゃい」

とおる「うん、行ってきます」


もえかは現在フリーのイラストレーターの

仕事をしている。

小さい頃から絵を描く仕事をする事が夢で

会社で働いている頃も絵を描いていたが

本格的に絵の仕事をしようと、会社を辞めて

今に至る。


今日も依頼されているイラストの仕事を

していた。

お昼になって少し休んでいると、とおるの

友達の、よしとから電話がかかってきた。


よしと「もえか?今電話大丈夫?」

もえか「うん、どうしたの?よしとが

    電話なんて、珍しいね」

よしと「それがさ、大変なんだよ」

もえか「どうしたの?」

よしと「とおるが、さっき交通事故に

    あったってさ」

もえか「え?」

よしと「だから今すぐ○○病院に行けよ」

もえか「とおるは大丈夫なの?」

よしと「オレは今連絡もらって聞いたから

    とおるが大丈夫かは、まだ

    わかんない」

もえか「え、とおるが死んじゃったら

    どうしよう」

よしと「とおるなら大丈夫だよ。

    心配するな」

もえか「うん。

    とりあえずタクシーで病院に

行くね」

よしと「気をつけてな」


もえかはタクシーを、つかまえて○○病院に

向かった。

病院に着いて、とおるの安否を確認しようと

ナースセンターへ行こうとすると

とおるから電話がかかってきた。


もえか「え?とおる?今どこ?」

とおる「今職場だけど、オレ朝急いでて部屋の

    電気つけたまま家出てきたから

    あとで消しといて」

もえか「え?今病院じゃないの?」

とおる「え?なんで?」

もえか「だって、よしとがね、さっき電話で

    とおるが交通事故にあったから

    病院に行けって」

とおる「は?よしとが?」

もえか「うん」

とおる「よしとってオレの友達だったけど

    2年前に交通事故で死んだじゃん」

もえか「え?知らないよ」

とおる「あれ?言ってなかったっけ?」

もえか「うん」

とおる「だからさ、その電話の相手は

    違う奴だよ。しかも嘘言ってくる

    なんて最悪だな」

もえか「確かに、よしとの電話番号

    だったのにな」

とおる「え?それおかしくない?」

もえか「だよね。おかし過ぎるよね」

とおる「うん。何かの間違いだよ

    気にするなよ」

もえか「うん」

とおる「じゃ、仕事に戻るよ」

もえか「頑張ってね」

とおる「ありがとう」


さっきの、よしとからの電話は何だったのか

わからないまま病院を出て行こうとすると

急患が運ばれてくるのを見た。


運ばれていく患者の顔がちらりと見えた。

とおるだった。


もえか「え?え?とおるじゃん。

    は?なんで?さっき電話で話した

    ばかりなのに」


すると、よしとから電話がかかってきた


よしと「病院行ったか?」

もえか「ねぇ、よしと、あんた2年前に

    死んだってほんと?」

よしと「は?誰が言ったの?」

もえか「とおるだよ」

よしと「そっか」

もえか「え?そっかって?」

よしと「そうだよ。オレは2年前に死んだよ」

もえか「じゃあ何であたしに電話

    出来てんの?」

よしと「おまえ、前から、とおるが

    好きじゃん?」

もえか「それがどうしたの?」

よしと「おまえの大事な人が危ない目に

    あう前に知らせたくて電話した」

もえか「え?」

よしと「それじゃあな。もう電話する事は

    これから先ないからな。

    とおるにオレが死んだ事

聞いてるのにオレと電話して

    怖かったよな、ごめんな、でも

    電話しなきゃいけなかったんだ」

もえか「うん、ほんとにありがとう。

    天国でも元気でね」

よしと「うん、とおると、これからも

    幸せにな」


よしとからの電話が切れて、とおるのいる

病室へ向かった。

看護師にとおるの安否を聞き、とおるは

軽い怪我で済んで命に別状はないと

言われた。


夕方やっと、とおると面会出来た。


もえか「ねぇ、やっぱりあの電話

    よしとだったよ」

とおる「え?ほんとに?」

もえか「うん、なんかね、とおるが

    危ない目にあう前に

    知らせたかったって」

とおる「そうだったのか」

もえか「うん」

とおる「よしとらしいな」

もえか「え?」

とおる「ううん、何でもないよ」

もえか「そっか」

とおる「うん」

もえか「怪我は大丈夫なの?痛い?」

とおる「ううん、大した事ないから

    大丈夫だよ」

もえか「良かった、大きな怪我じゃなくて」

とおる「うん」

もえか「でも、ほんとに不思議だった」

とおる「よしとの事?」

もえか「うん」

とおる「そうだね、こういう事って

    あるんだね」

もえか「うん、不思議だったけど

    良かった」

とおる「なにが?」

もえか「とおるが危ない目にあうことを

    事前に知れて」

とおる「そうだね、心配かけたね」

もえか「ううん、早く良くなってね」

とおる「もう明日には退院できるよ」

もえか「そうなの?良かったね」

とおる「うん」

もえか「今日は私も病院に泊まって

    とおると、ずっと一緒にいるね」

とおる「うん、ありがとう」


時間はもう夜中の1時を過ぎていた。

もえかは、とおるの手を握って、ずっと

とおるの寝顔を見ていた

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