めのまえが まっくらに

「だからやめときなって言ったのに」


 店の前で倒れる俺の頰をラミスがツンツンと指先で突く。


「……うっせぇ。男には引けない時ってのがあるんだよ」


 俺は三馬鹿達からしっかりめにボコされた。

 具体的に言えばまず数発殴られ、指示を確認。

 まだ達成になっていのを見て、立ち去ろうとしている三馬鹿を罵る。

 そしてまた殴られては指示を確認して罵倒の繰り返し。

 最終的には身体中痛くない場所が無いぐらいにボッコボコだ。


「全くそんな状況には見えなかったけど?」


「お前にはわからんだろうが、これで救われた命(像)があってだな……」


「ふーん? あ、私の忠告を聞かずに絡みに行ったから、揉み放題撫で放題の権利は没収ね」


「そ、そんな馬鹿な……。ラミス、お前まで俺をいじめるって言うのか……!」


 勝手に別世界へと送られ。

 ティーから救世とは名ばかりの嫌がらせを度々受け。

 三馬鹿にボコボコにされ。

 それをやっと耐え切ったところで得たものが権利の喪失とか。

 くそっ、涙が溢れてくる。


「ちょ、ちょっと。そんな本気で泣かないでも……」


「うるせー! 結局俺の味方は酒と像だけなんだ!」


 痛む体を引きずってずるずると宿の中へ進む。

 今日は浴びるどころか、浸かるほど酒を飲もう。

 それであの馬鹿達のことも、自分が救済者だってことも全部忘れるんだ。

 俺は古来から続く像磨き一族の末裔、ルア・シェードさ。

 明日も像を磨くお仕事頑張るぞっ。

 ハハッ。


「……もう、しょうがないなぁ。ほらっ」


 むにゅっ。

 頭が何か柔らかなものに包まれる。

 顔を上げてみればすぐ鼻先にラミスの顔が。

 柔らかいものの正体は彼女の胸で、どうやら正面から押し当てられてるらしい。


「どう? ちょっとは元気でた?」


「……お尻も触っていいですか?」


「ダメです。権利没収なのは変わらないからね」


「チッ」


「舌打ちしてもダメなものはダメ。元気出たならほらさっさと中入って。簡単にだけど怪我の処置してあげるから。後でちゃんと治癒精霊のところに行くんだよ?」


 ラミスに頭を抱えられたまま、ずるずると酒場の中へと引きずられる。


「放っておけば治るからいらねえ」


「行・く・ん・だ・よ?」


「わ、わかったわかった!」


 特に何の力もないただの給仕なのに、時々ラミスからすごい迫力を感じる。

 放っておけば治るのは嘘じゃないし、これぐらいの怪我なら一日もすれば綺麗サッパリのはず。

 でもとりあえず今は頷いておくのが良さそうだ。


 そのまま俺はカウンターの定位置に座らされ、ラミスの手当てを受ける。


「あれだけボコボコにされてたのにどこも骨は折れてないなんて、ルアは丈夫だね」


「ボコボコにされたとか言うんじゃねえ。ボコボコにされてやったんだよ」


「どっちも一緒じゃん」


「全然違う。俺が本気を出せばあんな馬鹿共、数秒で消炭だぞ。それをあえてせずにボコボコにされてやったんだ」


「ふーん。じゃあ何で本気を出さなかったの?」


「そりゃお前……」


 誰かに指示を出されてたから、ってのはなんか格好がつかないな。

 何物にも縛られないロンリーウルフ。

 そんな感じで世間からは崇められたい。


「……俺は女は殴らない主義だからな」


 ふっ、と自慢の黒髪を掻き上げる。


「ほんっとルアってそう言うセリフが似合わないよね」


「うるせえよ殴るぞ」


「うん、そっちのが似合う似合う」


 馬鹿にしたようにカラカラと笑うラミス。

 くそっ、こいつに俺と言う人物がどれだけ恐ろしいかわからせてやろうか。

 こちとら生まれた世界をぶっ壊した救済者様だぞ。


 ひとまずデコにチョップでも叩き込んでやろうと手を上げた瞬間、あの音が耳に届く。


 ピコン。

 

 ……確かもうSTEP4の達成アナウンスは流れたよな?

 ってことはこれはまさか。

 嫌な予感がする。

 頼むからもうあの三馬鹿と関わるような指示だけはやめてくれ。

 もうお腹いっぱいなんだ。

 馬鹿は救済者にもいっぱいいたし、わざわざ新しいのを開拓しなくたっていいじゃないか。


 俺は心の底から願いつつ、表示されたメッセージに目を通す。


 ====================


 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP5:バルマード三勇姫(笑)が受けた勇者組合のクエストに同行し、その達成を見届けよう! 

 〈特殊条件〉同行中、サイコキネシスの使用禁止


 〈備考〉

 失敗した場合はルアの所持している像を一つ破壊します。

 今回の破壊対象は、コレだっ!!


 ====================


 ぼくは めのまえが まっくらに なった。


「あれ、死んだ?」


 ラミスの声を後頭部に受けつつ、俺の意識は途絶えた。

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