この美少女がぶん殴りますよ!?


 チャムが奥に消えて行ったあと、俺は商会の中をうろついていた。

 どうやらケイルバーン商会とやらは手広くやっているようで、食料品、嗜好品、消耗品、魔法品など様々な物が売られている。

 それぞれの値段も様々で、魔法品だけとっても数百ケイラの風魔素を吸い取ってそよ風を出すだけの物もあれば、数十万ケイラの火魔素を吸い込み火柱を立てる物まで。

 入れないVIPゾーンなどもあったので、さらに高価な物も取引してるんだろう。

 正直よくこれだけ幅広くできたなと少し感心した。


 しばらくの後、商会の従業員らしき女性に連れられて応接室へ。

 そこにあの生意気な少女の姿はなく、まだしばらく待っていて欲しいと。

 それなら準備が出来てから呼べよと思わなくもないが、あえて口にはしない。

 俺の手にはさっき商会で買った酒があるからな、少しぐらいは大人しく待っててやるさ。

 

 ソファに座って酒瓶の蓋を開ける。


「っ!?」


 俺を連れてきた従業員がぎょっとした目でこちらを見た。

 まだ十代後半ぐらいと思われる顔つきで、赤髪のセミロング。

 俺は『何か文句あんのか?』と睨み返す。

 するとすぐに視線は逸らされた。


 一口また一口と酒瓶のまま口に運び、飢えを満たす。

 安物を買ったのであまり美味くはないが、アルコールには違いない。

 カッとした熱量が喉元を通り、胃へと落ちる。


 しばらく酒を呷る音だけが応接室に響き、会話なども特になし。

 俺は酒瓶を半分ほど飲み干したところで、他に購入したものへと手を伸ばした。

 もちろんおつまみだ。

 何やらよくわからない海産物の干物。

 それを応接室の机の上にどっかりと置く。


「ッ!?!?」


 またもや驚きと共に視線を向けてくる赤髪従業員。

 俺が同じように『文句あるか?』と睨み返しても、今度はすぐに引かなかった。

 つまみと酒と俺の顔を順番に見て『え? だ、だってここケイルバーン商会の応接室ですよ? 正気ですか?』と言わんばかり。

 だから俺も目線で『うるせえこっちは無理やり連れて来られたようなもんなんだよ、飲まずにやってられるか』と。

 それに対して赤髪従業員は『だからっておつまみまで広げて、頭がおかしいとしか思えません!』と目で語っている気がする。

 

 俺は酒瓶を持ったまま立ち上がり、ゆっくりと従業員に近づいた。


「そこまで言うならお前にも飲ませてやるよ。話はそっからだ、おら飲め!」


「ひ、ひぃいいい!」


 赤髪従業員の頭を掴んで酒を流し込もうとした瞬間、隣の扉が開いた。


「すみませんお待たせしましたーって……ルアさん、商会内で性犯罪は止めて下さい」


「誰が性犯罪者だ。ちょっとこいつに酒を飲まそうとしただけだろ」


「立派な性犯罪の入り口じゃないですか! ほら、もう行っていいですよ」


 チャムが横に少しずれると、逃げるようにして赤髪従業員が走り去って行った。

 くそ、言いたいことだけ言って逃げやがって。

 実際には何も言ってないので全て俺の想像でしかないけど。


「な、何でここで酒盛りを始めてるんですか!? 頭湧いてるんですか!!」


 部屋の現状を見たチャムが声をあげる。


「そのやり取りはもうさっきしたんだよ。いいから早く護衛代を寄越せ」


「はぁぁ、本当にルアさんはブレないと言うか何と言うか……。綺麗になったこの美少女を見て言うこととか無いんですか!」


 チャムは確かにボロボロだった服を着替えて、令嬢らしい青いドレスを着ていた。

 ハゲ爺が言っていた治癒精霊とやらで足も直したのか、しっかりと自分の足で直立している。


「金いっぱい持ってそうだな」


「違います!! 圧倒的に言葉選びが違いますよ!!」


 地団駄を踏んで抗議するチャム。


「俺におべっかを期待してるなら諦めろ。お前が突然むっちりでもしない限りありえない」


「ああもうハゲ爺! この変態に礼金を渡して下さい!」


 半ばやけになって叫ぶ少女の声を受けて、後ろに立っていた強面ハゲが動く。

 強面ハゲによって差し出されたのは、以前受け取ったよりも随分と大きな袋だ。


「5000万ケイラ用意しました。これで満足してくれますか?」


「酒と像は?」


「商会のを適当に持って行っていいですよ。像とかはあんまり無いですけど」


「随分と太っ腹だな」


 正直なところ5000万も貰えるとは思っていなかった。


「ルアさんに感謝してるのは本当ですから。この美少女に靡かないのは癪に触りますけど、それを差し引いてもすごく助かりました」


 深々と頭を下げるチャムと背後のハゲ爺達。

 こんな素直な感謝を正面から受けるのは何年ぶりだろうか。

 少し、居心地が悪い。


「こっちはこんだけ金も物も貰ってんだ。言葉での礼なんていらねえよ」


「いえいえ、そういうのはちゃんと言っておかないと。だってそっちの方が美少女っぽく無いですか?」


「知るか。美女になってから出直してくれ。じゃあ俺は行くぞ」


 机の上のつまみを再び袋にしまい、金の入っている大きい袋に突っ込む。

 そして立ち上がって部屋を出ようとしたところで、後ろから呼び止められた。

 

「あ、ちょっと待って下さい。これも渡しときますね」


 渡されたのは便箋を入れるような小さな袋。

 中を開けてみると葉書ほどの金属プレートが入っていた。

 プレートにはケイルバーン商会を表す大樹の紋様と、何やら文字が刻み込まれている。


「この美少女の、つまりはチャミーフィオ・ケイルバーンの紹介状です。何か困ったことがあったら使って下さい。役に立つかもしれません」


「……見せたら急に殴りかかられるとか無いよな?」


「この美少女がぶん殴りますよ!? そんなわけないじゃ無いですか! 全く美少女的に気を利かせて渡してあげたって言うのに。文句言うなら返してもらいますよ!?」


 鼻息を荒くして叫ぶ茶髪少女チャム。

 この様子からして気を利かせたと言うのは事実なようだ。

 俺はプレートを少し眺め、ポッケにしまった。

 

「まあ、使うかどうかはともかく一応貰っとくわ」


 荷物になる程でかいとかって訳でも無いしな。

 

「じゃあもうさっさと出てって下さい! ほらほら!」


 最終的にはチャムに押し出されるような形で応接室を出た。


 ピコン。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP2〈達成〉:さっき助けた少女を街まで護衛しよう!


 STEP3:現在考査中


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