権力ある美少女はいかがですか?
「いやぁ、やっぱり良いですよねえ美少女は」
「…………」
「商売するにしても色々融通が効いたりしますし? 歩いてるだけで色々貰えたりもしますし? 順番待ちだって変わってもらえますし?」
「…………」
「ピンチになったら助けが来たりもしますからね!」
「…………」
「おや? ずっと無言ですがどうしたんですか護衛の方? 美少女とタダでお話しできるビッグチャンスですよ?」
「街に着くまでの我慢……街に着いたら殴る……街に着いたら殺す……四肢を引き裂いて顔面をグチャグチャにして最終的には熱した鉄を塗り込んで像にしてデコに『醜い少女』って書いたプレートをつけてそれから……」
「そ、その恐ろしい呪文を止めてください! わかりました大人しくしてますから!」
結局俺は少女を護衛しつつ彼女の指し示す街へと向かっていた。
背に腹は変えられない。
俺のコレクション達は皆一点ものなんだ。
少女を護る護らないなんて下らない理由で壊されてたまるものか。
こうなったら少女から絞り取れるだけ絞ろう。
今日の売り上げと言ってポンと100万が出てくるんだ。
それなりに蓄えがあるはず。
その中から出せるだけの金と酒と像を持って来させ、受け取り次第おさらば。
どこかに宿を借りて酒と金が無くなるまで遊び呆ける。
よし、このプランで行こう。
俺のクズっぷりを数日も見てればティーも気が変わるだろう。
こいつじゃ世界を救えないって。
それで呼び戻されればあとはいつも通りだ。
部屋でゲームしてどっかの世界を覗いて像を磨く。
俺の悠々自適、自由気儘な快適スローライフ。
「あのー」
俺の右下あたりから声がかかる。
大人しくしてるって言ってからまだ数分しか経ってないぞ。
「できれば持ち方を変えて欲しいんですけど」
俺は今少女を横に抱えて歩いている。
最初は足を怪我してようが知るか、と歩かせていたんだが余りに遅く、街に着くまでに日が暮れそうだったからだ。
ちなみに青いイモリは少女の背中あたりに乗っている。
「なんというか美少女的にも身体的にも辛いものがありまして。できればお姫様抱っこ、次点でおんぶなんてどうでしょう!」
「却下する。何故なら美丈夫的にも身体的にも俺は辛く無いからだ」
「その顔で自分で美丈夫って言うのは辛く無いですか?」
「よーし、張り切って街まで護衛していくぞぉ。道が間違ってたりしたら教えてくれよな!」
「いだだだだだ! 顔が地面に擦れてますから! 間違ってます間違ってます美少女の扱い方を間違ってます!!」
全くギャーギャーとうるさいやつだ。
静かにしろと言えばまた数分間は口を閉じているが十分と持たずに騒ぎ出す。
最終的には俺が根負けして少女を背負うスタイルに変更。
その時に「素直じゃ無いですねぇ」とかほざきつつ頰をつついてきたので、その指をあらぬ方向へ曲げておいた。
そんなこんなで三、四時間。
やっと俺は少女の言う精霊国アスライヤの副都、ネルアルアの前までやってきた。
外から見た限りでは高い外壁に囲まれた堅牢な都市。
内部は平坦では無いようで、高い場所に作られた建物のみが壁の外からでも確認できた。
そして何より中央には何やら植物の根のような物がでかでかと鎮座している。
あれは精霊の木、か?
「ふふ、すごいでしょう。あれは首都にある精霊樹アスライヤの根です。ここまで伸びてきているんですよ」
頭の後ろから声をかけられる。
俺はそんなに物珍しそうにしてただろうか。
「首都はここから近いのか?」
「んー、今日護衛してもらった距離の半分ぐらいですかね」
となれば歩いて二時間ほど。
近いと評せる距離では無いな。
「ふーん、それは確かにすごいな」
「……その割には興味なさそうですね。もっと馬鹿みたいに騒ぎ回るのを美少女的には期待してたんですが」
「悪かったな知的なクールガイで」
「いえいえ、痴的で稚的で魑的な感じも嫌いじゃ無いですよ」
「なんか馬鹿にされてる気がする」
「気のせいです」
微妙なモヤモヤを感じつつ、街に入るための列へと並ぶ。
さすが副都と呼ばれるだけあって人の数は多い。
商人風の者もいれば、剣や斧などを背負った武芸者の姿も。
さらには肌の色が青黒い者や、体の一部が獣と一体化している者など、多種多様な種族の姿が見えた。
「あ、ここじゃ無くてあっちに並んでください」
少女が指を差すのは明らかに特別枠っぽい列。
並んでる人もおらず、すぐに中に入れそうだがそれだけに近寄り難い雰囲気がある。
なんかムキムキのおっさんが二人ほど守衛として立ってるし。
念のためと少女にもう一度確認するが、「美少女的に全然大丈夫です」と言うばかり。
まあ並ばなくて済むならそれに越したことはないし、いざとなったら少女に全ての責任をなすりつけて逃げよう。
列を移動して、マッチョ二人の前へと立つ。
「おい、俺だ。入れてくれ」
「……ここは特別な方のみが使える優先入街手続き所だ。お前のような変な格好の奴が来ていい場所じゃない。大人しくあっちの列に並べ」
「らしいぞ。じゃあ俺はこっから入るから変な格好のお前はあっちに並んでこい」
「頭湧いてるんですか。美少女的に考えなくても変な格好なのは貴方です」
上下を像ブランドで決めている俺と、戦闘でグチャグチャになったよくわからん服を着ている少女。
どう考えても変な格好なのは後者だろう。
一度こいつに色眼鏡ない世界というのを教えてやりたい。
「チャミーフィオ様!? そ、その格好はどうされたのですか!?」
突然右側のマッチョ、すなわち右マッチョが声をあげる。
誰だよチャミーフィオって。
「ちょっと色々あったんですが、まあそんなことはどうでもいいので街に入れてもらえますか?」
「も、もちろんです! こ、こちらの男は?」
「この人も一緒にです。問題ないですよね?」
「他ならぬチャミーフィオ様の連れられた方ですから、問題ありません」
右マッチョが左マッチョに指示を出して扉がオープン。
俺達はマッチョに左右を挟まれる形で小さな室内に通され、特に何かするわけでも無くそのまま街の中へと入った。
外壁によって押し留められていた熱気と、喧騒さが一つになって押し寄せてくる。
見上げた先には数分前に見たよりも圧迫感のある根が聳え立っていた。
「ふふ、どうですか権力を持つ美少女は? 思わず無償で全ての施しを与えたくなったでしょう?」
「いや、全く。今すぐ全てを搾り取って野山に捨てたい」
「何でですか!!」
背中でジタバタと暴れる少女。
今すぐここで放り出してやろうか。
たださっきのやり取りでこいつが本当に権力を持っていると言うこと、そして名前が判明した。
「お前、チャミーフィオとかいう名前だったんだな」
「あれ、名乗ってませんでしたっけ。チャミーフィオ・ケイルバーンとはこの美少女のことです! ふふ、この名を聞いてピンとくるものがあるでしょう?」
「いや、全く」
「だから何でですか!! ケイルバーンですよ!? あのケイルバーン!!」
「知らんな」
「この田舎者!! ケイルバーンと言えば精霊国が誇る大商会の名前です!! つまりこの美少女はその大商会の御令嬢なわけですよわかりましたか!?」
「いいから早く金目のものを寄越せよ」
「今の話を聞いた反応がそれですか!?」
大商会だろうが何だろうが、世界を超えて名が轟くなんてことは滅多にない。
ただ大層な肩書きを聞いて、こいつを救ったことがどこかで世界救済につながってくるんだろうと理解させられた。
やっぱりこいつとはあまり関わるべきじゃないな。
「はぁぁ、全くどこから来たんですか貴方は……。ケイルバーンを知らないとなると同盟国のヴァシュヘイムやバルマードじゃ無さそうですし。やっぱりニムアとかですか?」
「だから俺はこの世界の住人じゃ無いって言ってるだろ」
街に来る道中で出身を聞かれて、俺は正直に答えていた。
別に隠す必要もつもりもない。
相手が信じてくれるかは別だが。
「またそうやってすぐ誤魔化すんですから。使ってた魔法も特殊でしたし、精霊を介さない四魔素以外の魔法なんて初めて見ましたよ。あ、この道を右です」
少女の案内に沿って街を歩く。
ついでに後で寄る酒場に目星をつけるのも忘れない。
「魔法なんかと一緒にするな。あれは超能だ」
「チョウノウ、ですか? 聞いたことないですね」
「周りの魔素に頼らなきゃいけないクソみたいな力と違って、いつだってどこでだって有用な力だ覚えとけ」
「うわぁ、この魔法社会を真っ向から否定するような言葉ですね。聞く人が聞けばブチ切れますよ。まあ、美少女的には非常に興味のある話ですが」
「教えはせんぞ」
「……まだ何も言ってないじゃないですか」
絶対にこいつは言い出すつもりだった。
まだ短い付き合いだがそれぐらいはなんとなくわかる。
超能についても他世界から来たことと同じく隠すつもりはない。
力を隠してコソコソ生きるなんて馬鹿らしいし、魔法と偽るのも真平ごめんだ。
俺は俺が楽しいようにやる、ただそれだけ。
「じゃあチョウノウのことは聞きませんが、一つ教えて欲しいことがあるんです」
「好きな異性のタイプはおっきいおっぱいとおっきいお尻」
「いやそんなことは毛ほども興味ありませんし、それ好きなタイプってよりただの体の一部ですから。名前ですよ名前。ま、まあこれも別にどうでもいいんですが、美少女的にこちらの名は知られてるのに相手の名は知らないってNGなんです」
「お前のNGなんて――」
知るか。
そう言おうと思ったがギリギリで踏みとどまる。
今ここで名前なんて教えてやるか的なスタンスを取れば、絶対にティーがそれを逆手にとった指示を出してくる。
名前を教える教えないなんてどうでも良いことで、わざわざ恥をかきにいく必要もない。
「ルアだよ。ルア・シェード、これで満足か?」
「おや、意外にも素直ですね。ルアさん、覚えましたよ。ああ、この美少女のことは気軽にチャミーフィオさんと呼んでくれて構いませんから。両親によれば『チャミー』が可愛い、『フィオ』が妖精と言う意味らしいです。美少女的にぴったりな名前でしょう」
「おいチャム、ここもまだ真っ直ぐでいいのか?」
「話聞いてました!? 道は真っ直ぐで大丈夫ですけど!」
チャミーフィオとか普通に考えて長すぎる。
チャムぐらいで十分だろ。
どうせ金をもらったらもう呼ぶことのない名前だし。
それからもしばらく問答しつつ街中を歩くこと十分。
やっと目的地へと到着した。
「見てください! ここがケイルバーン商店ですよ!」
人通りの多い場所にでかでかと建てられた白い建物。
無駄に大きく開けられた入り口からはひっきりなしに人が出入りしていた。
精霊国が誇ると言うだけあって、確かに繁盛しているようだ。
「チャミーフィオ様!!」
「おや、ハゲ爺が表にいるなんて珍しいですね」
チャムの言う通りハゲた強面の爺さんがドスドスと駆けてきた。
腕にはいかつい龍の刺青をしており、確かに表にいては客が逃げ出しそうだ。
そんなハゲ爺が俺の前までやってくると、背中のチャムをひょいっと持ち上げる。
「連絡があったんです。チャミーフィオ様が負傷しておられると! それを聞いて迎えに行こうと出てきたところでして。ああっ、こんなにもお怪我をなさって……! さあ奥に来てください治癒精霊持ちを控えさせてますから! お前達! チャミーフィオ様を丁重にお運びしろ!!」
奥からさらに同じ顔をしたハゲ爺が三人登場。
チャムを神輿のように持ち上げてわっせわっせと進んでいく。
なんだこの商会はハゲの増殖でもやってんのか。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
「チャミーフィオ様ぁああああ! 今すぐ、今すぐ治療しますぞぉおおお!」
「す、すみませんルアさん! ちょっと待ってて下さいすぐ戻りますからぁ!」
その言葉を最後にチャムは店の奥へと消えていった。
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