背中で語るは男の夢

 足元に転がる襲撃者達。

 生きてはいるが、意識はなく立ち上がれる者はいない。


 ピコン。


 苛立たしい音と共にメッセージが現れる。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP1〈達成〉:目の前の幼気な少女を助けよう!

 

 STEP2:現在考査中


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 無事に達成となっている。

 これで俺の像も守られたことだろう。

 新しく追加されたSTEP2はまさかの考査中。

 世界の救い方ガバガバだな。


 しかし、現状はよくない。

 あいつは俺に対する人質ならぬ像質の効果を知った。

 今後も恐らく同じ手を使ってくるだろう。

 どうにか次のSTEPが解放される前に対抗手段を考えねば。


「いやぁ、何だかんだ言って結局助けてくれるんですね。まあ美少女的にはもう少し早い方が嬉しかったので、次から参考にして下さい!」


「おっと、ここにまだ討ち漏らしが」


「いだだだだ、違いますよく見て下さいそれ美少女です」


「関係ないな、死ね!」


「問答無用で!?」


 大体こいつがこんなところで襲われてるから俺が送られるハメになったんだ。

 許せない、諸悪の根元め。

 再びどこかへ投げ飛ばしてやろうと手を伸ばしたが、意外にも俊敏な動きで避けられた。


「全く、油断も隙もない人ですね」


「いいから今すぐ死ぬか、有り金を全部よこせ」


 やる気は全くなかったが、助けたことには違いない。

 なら貰うもんはしっかり貰っとかないと。


「完全に賊のたかり方じゃないですか。まあ、お渡ししますけど」


 片手で持てるほどの小袋を受け取る。

 見た目によらず中々の重量感。

 中を開けてみれば、この世界のものと思われる銭貨が入っていた。


「これで幾らぐらいだ?」


「えーっと、今日の売り上げプラス私の個人的なお金なので……100万ケイラぐらいはあると思いますよ」


 ケイラなる単位にはもちろん馴染みがない。

 引き続き尋ねてみれば、大体庶民の一食にかかるのが300〜500ケイラぐらいらしい。

 ならまあ100万ケイラはたいした額だ。

 しばらくは毎日飲んで暮らせるな。


「他に酒とか像は持ってたりしないか?」


 倒れた荷車に近づき、適当に物色してみる。

 だが物はほとんどなく、残っている中に惹かれるものもない。

 『今日の売り上げ』と行っていたので、どこかで既に売っぱらった後なんだろう。


「美少女本体を放っておいてその所有物を漁るとは、すごい神経してますね。酒も像?も無いですよ。、ですが」


 何やら指を立ててしたり顔を見せる茶髪。

 ここに無いのならもうこの少女に用はないな。

 街に行って酒を飲もう。


「役に立たねえな。まあいい、じゃあな」


「しょうがないですねじゃあ街まで護衛を……って何でですか!? 今のは『じゃあどこにあるんだぁい? おじさんに全部寄越しなよぉ』ってゲス顔で言うところじゃないですか! そんな潔く引き下がるなんてらしくないですよ!」


「うるせえしがみつくな! お前に俺の何がわかるんだよ。俺は今すぐにでもお前を視界から消したいんだ。だからここに無いものまでは要らん!」


 まとわりついて来る少女の顔を手で強く押すが中々離れない。

 実際のところ少女に付いていけば俺にだってメリットはある。

 街の場所もわかるだろうし、街についてからも何かと便利に違いない。

 でもそうじゃないんだ。

 顔を見てるとどっかのゴリラの笑う姿がチラついてムカつくんだ。

 だからメリットを捨ててでも俺はここで別れる。

 何だか嫌な予感もするしな。


「街まで護衛して下さいよぉ! もう魔力がすっからかんなんです。足も怪我してますし、戦えない普通の美少女なんですよぉ!」


「知るか!」


「ちゃんとお礼はしますからぁぁ!」


「いいから離せ、この!」


「うごっ!!」


 超能を使って無理やり剥がすと、美少女らしからぬ声と共に地面へと伏した。

 しかしすぐさま顔を上げて口を開こうとしたので、先んじてこちらが言葉を放つ。


「美少女だか何だか知らないが、お前がこの先誰かに襲われようとも殺されようとも俺には関係の無い話なんだよ。さっき助けたのも別に善意でも何でもない。だから俺にそう言った類のものを期待するな。それでもまだ嫌だ嫌だと叫ぶなら――」


 周囲に落ちている襲撃者達の武器。

 それらをサイコキネシスで持ち上げて全てを少女へと向ける。


「――護衛なんて要らないようにここで殺してやる」


 半分本気で半分脅し。

 もしここでまだ騒ぎ立てるなら実際に命は取らないまでも、多少は痛めつけてやろう。

 その後結果として少女が命を落としたとしても知ったこっちゃない。

 俺は正義の味方じゃないんだ。


「わかり、ました……。わがまま言ってすみません」


 地面にへたり込んだまま頭を下げる少女。

 冗談で言ってるわけじゃないと彼女も感じ取ったようで、先程までの勢いは無くしゅんとしている。

 よし、今のうちに立ち去ろう。


 無言のまま一歩二歩と。

 壊れた荷車の横を通り抜けてさらに歩いていく。

 俺の足取りは重く、なんてこともなく軽やかだ。

 理由はポッケに入れてある巻き上げたお金。

 救済者として送り込まれたのは尺だが、あの場所にない酒を飲めるのは素直に嬉しい。

 久々に新しい像も仕入れちゃったりなんかして。

 それを見ながら飲む酒はきっと最高に美味い。


「あの!」

 

 後ろからかかる声に足を止める。


「助けて下さり本当にありがとうございました! 美少女的とか関係なくこの恩は忘れません!」


「…………」


 少女は別に悪い奴ではない、それは最初からわかっていた。

 やろうと思えば無理やり俺を巻き込んで、なんてやり方だってできたはず。

 結果的には巻き込まれたが、それは俺があそこで観戦しており、たまたま少女がそこに飛ばされてきたから。

 ちょっと美少女美少女うるさいが、彼女自体の落ち度はそれぐらいだろう。


 しかしそれがわかっていても俺は振り返らない。

 少女が悪い奴でなかったのと同じように、俺も良い奴じゃないんだ。

 馬鹿みたいに困ってる人を助け、馬鹿みたいに世界を救う。

 そんなのはもう百年前に辞めた。


 少女の礼に対して背中をむけたまま軽く手を振り、また歩き出す。

 もう呼び止められることはなかった。


 そうして少女と別れて数分。

 嫌な音が耳に流れる。


 ピコン。


 はぁぁ。

 ちょっとした後味の悪さも薄れて、頭の中が酒と像に染まってきたってところで嫌な現実を思い出させてくれる。

 全力で無視したいがメッセージは非情にも勝手に表示された。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP2:さっき助けた少女を街まで護衛しよう!


 〈備考〉

 失敗した場合はルアの所持している像を一つ破壊します。

 今回の破壊対象は、コレだっ!!


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 文章の後には前回とはまた違う像にハンマーを向けるティーの写真が。


「…………」

 

 いやいやいやいや。

 いや無理だろ。

 さっき散々護衛なんかしないって言って、脅しまでかけたんだぞ?

 その後に『なんか今までごめんね』『ううんこっちも気にしてないよ』的なやりとりもしたし。

 しかも背中で。

 なのに今更どの面さげて護衛になんて立候補できるか。

 あの少女の感じからして色々と勘違いされてウザそうだし。


 無理です、却下します。

 でも像を壊すのも却下です。


 ピコン。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP2:さっき助けた少女をすぐ側で街まで護衛しよう!


 〈備考〉

 失敗した場合はルアの所持している像を一つ破壊します。

 今回の破壊対象は、コレだっ!!


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 うるせえよ、無理だって。

 というかちゃっかり『すぐ側で』とか増やして、遠くから護衛する手段潰してんじゃねえよ。

 そんなに護衛したいならお前が行ってこい金髪ゴリラ。

 どうせ今もこっちの様子をバナナ食べながら見てるだけだろうが。


 ピコン。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 像を破壊します。

 本当によろしいですか変態クソ野郎?

 

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 誰が変態クソ野郎か。

 よろしいわけない。

 NOだ、いいえだ。


 な、なんかカウントダウンが始まったぞ。

 待て待て落ち着けティー。

 わかった金髪ゴリラって言ったのは取り消すから、今回はそれでチャラにしよう。

 なっ?


 カウントダウンは一向に止まらない。

 無駄に30からとか長いのが腹立つ。

 くそ、俺にだって人並みに恥じらいってもんがあって、あれだけキメた後にその言葉を撤回するなんてそんなの……。

 



■  ◆  ■




「あああああああああ! クソがあああああああ! 俺の像は誰にも壊させんぞおおおお! 像だけにいいいい!」


 今さっき通ってきた道をひた走る。

 別れてからそれほど経っていなかったこともあってすぐに追いついた。

 というか少女はほとんど荷車の場所から移動していない。

 片足を引きずっているからそれが原因だろう。


「な、ななんですか!? 美少女的にまだ殺されたくはないんですけど!」


 気づいた少女が怯えながらこちらを振り向く。

 そんな彼女に向かって中指を立てながら俺は吠えた。


「うるせえ! 俺はお前を護衛しに来たんだよ殺すぞ!!」


「どっちですか!?」


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