俺は少女をめちゃくちゃ〇〇


 金のためならば少女を助けるのも吝かではないと思ったが。

 こんなものを見せられたらそんな気は煙の如く失せた。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP1:目の前の幼気な少女を助けよう!


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 何がSTEP1だ。

 語尾に付けられたビックリマークが最高にイラっとする。

 というかこの指示の書き方、絶対こっちの様子を見ながら言ってるよな?

 ティー達のニヤニヤする顔が浮かんできてさらにやる気がマイナス。


「た、助けてくれるんじゃないんですか!?」


 少女が両生類に守りを任せつつこちらに顔を向けて叫ぶ。


「そのつもりだったんだけどな。やっぱりやめた」


「な、何でですか!? お金ならちゃんとあげますから!」


「そう言う問題じゃないんだ。俺はどうしてもお前を助けたくないだけなんだ」


「だから何でなんですか!! 美少女ですよ!? お金持ってるんですよ!? 助けたくなる存在ナンバーワンじゃないですか!」


「俺の中では世界で唯一助けたくない存在オンリーワン」


「くっ! この熟女好き!!」


 誰が熟女好きだ。

 俺はむっちり系が好きなだけで別に歳は関係ない。

 そう言い返してやろうと思ったが助力を諦めたのか襲撃者達へと向き直っていた。


 さて、じゃあどこか近場の街でも目指すか。

 幸いにもすぐ側には街道がある。

 と言うか少女達はそこで争ってるんだが。

 この道を辿っていけばどこかには辿り着くはず。


 お金のことは惜しいがしょうがないな。

 俺は世界なんて絶対に救わない。


「いや待てよ……?」


 よく考えたらお金を諦める必要はないかもしれない。

 なんだ簡単なことじゃないか。

 イラっとする指示やら少女の嘆願のせいで冷静な判断ができていなかった。


 俺は最初に寝転がっていた場所に再び座り込み、少女と襲撃者達の戦闘を眺める。


 少女、襲撃者共に主だった攻撃手段は魔法だ。

 地水火風の魔素を吸い込み、糧とすることで超常現象を引き起こす。

 不完全で不安定な力、それが魔法。


 体内に溜めておける魔素の量は決まってるし、全て吐き出してしまえば再びチャージするまで何もできない。

 さらにはチャージしようにも周りに欲しい魔素が無いなんてこともある。

 どう考えても超能の方がいいな。

 

 となるとあの青い両生類は精霊か。

 特定の魔素を吹き出し、契約者へと与える外付けバッテリー的な存在。

 精霊自体も戦えてるところを見ればそれなりに上位の奴なんだろう。


 この様子を見るにこの世界は魔法発展主体っぽい。

 ティーの奴ふざけやがって。

 俺が魔法嫌いなのを知ってる癖にわざとこの世界に送ったな。

 戻ったらあの柑橘もろとも裸にひん剥いて、どっかのジャングルにでも放逐してやる。


「ぐぅッ!!」


 精霊の守りを貫通した攻撃によって少女が大きく吹き飛ぶ。

 そして俺が三角座りしている横にちょうど落下。

 起き上がったところで再び目があった。

 

「まだそこに居たんですか!? 助けもせず、移動もせず、もしかしてこの変な格好の人達の仲間だったりします!?」


「ふざけんなよく見てみろ。俺の方が格段にお洒落だろう」


 両手を広げて服装をアピール。

 本日はヌメンケルア像がプリントされたTシャツと、ズゥペパ記念碑を意識した黒のパンツを着ている。

 ファッションポイントはズボンのお尻の部分にプリントされたズゥペパの凛々しいアップリケ。


「いや美少女的にはどっちも変ですけど!?」


「…………」


 これだからむっちりしてないガキは。

 ファッションのファの字もわかってないな。


「というか関係者でも無いなら助けるか、早くどっか行って助けを呼ぶかして下さいよ!!」


「いや、実は名案を思いついたんだ」


「ど、どんな案ですか!?」


 少女が期待したような目でこちらを見る。

 倒れた荷車の横では精霊が必死に襲撃者達と対峙していた。


「俺はお金が欲しい」


「はあ」


「そしてお前を助けたく無い」


「あれ、録でもない案の匂いがすごくします」


「ならお前が死んでから積荷やら見ぐるみを剥げばいいなって」

 

「クズ!! このクズ!! 期待したこの美少女が馬鹿でした!!」


 期待に満ちていた目がドブに捨てられたゴミを見るような目に。

 これは俺にとっての名案だからな。

 他の奴にとってはどうだかなんて知ったこっちゃない。


「ッ!! ドラゴちゃん!」


「プスィ……」


 少女の肩に小さくなった両生類が現れる。

 単独行動できるだけの魔素が無くなったか。

 このサイズで見ればただの青いイモリだな。


 そして勿論、足止めをしていた精霊がいなくなったとあれば、襲撃者達はこっちにやってくるわけで。

 風の魔法を使用した一人が突出した速さで駆けてくる。

 周りを置き去りにする勢いのまま、何故か俺に向かって持っていた剣を振りかざした。

 それを適当に手で受け止める。

 

「何でこっちなんだよ。お前達の狙いはこのガキだろう。俺は見てるだけだからさっさと殺ってくれ」


「ふんっ、こんな美少女にお願いされたら助けたくなるのもわかる。だが今回ばかりはその不運を呪うんだな!」


「耳に石でも詰まってんのかお前」


「聞きましたかほら! 美少女って言ってますよ! 助けましょう!」


「あれ、お前らグル? そういうステマなの?」


 二人して美少女美少女と。

 確かに顔は整っている。

 ぱっちりとした二重に涙袋、内側にカールした肩までの髪も男受けは良いに違いない。

 だがしかし、こちとら世界を幾つも渡ってんだ。

 並大抵の可愛さじゃ揺るがない精神の持ち主。

 何より特定部位のボリュームが足りない。


「死ねぇええええ!」


「これも大義の為ッ」


 難聴男の後ろからさらに二人が飛び出してきた。

 どちらも身体能力強化に魔法を使うタイプのようで、攻撃自体は物理。

 手に持ってるのは飾りのついた双槍と、最初の男と同じ直剣だ。


 今度は手も使わずにその攻撃を受け止める。


「……いい加減にしとけよ?」


「なっ!?」


「う、動けないッ」

 

 こっちはただでさえ無理やりこの世界に送られてイライラしてんだ。

 少女を救わない為と思って何もしなかったが。

 数人消えても精霊が使えない状態なら問題ないだろ。

 そう思って斬りかかってきた男達の首を飛ばす。


「よし、ちょっとスッキリ」


「め……」


「め?」


「め、めっちゃ強いじゃないですか! てっきり戦えないから助けないだけかと思ってましたのに。じゃあ残りもお願いします!」


 俺を盾にするような形で後ろに回る少女。

 その頭を掴んで持ち上げる。


「あ、ちょっとやめてください。美少女的に頭を掴むのはNGです」


「よーし行くぞー」


「ど、どこにですか?」


「そんなの決まってるだろ。お前がここにいるから俺が襲われるんだ」


 今はこちらを警戒するように様子を伺っているが、またいつ襲いかかってくるかわからない。

 ならその原因を遠ざけるのが一番。

 少女の頭を掴んだまま手を伸ばし、回転して勢いをつける。


「さーん、にー」


「ま、待ってください! わかりましたお金だけじゃなくて体も多少触っていいですから! 美少女のぼでぇーですよ!!」


「いーち」


「投げないですよね!? 冗談ですよね!?」


「ゴー!!」


 最後に体を思いっきり捻って手に持った少女を投擲。

 「ふざけないでくださいよこの男色!!」と聞こえてきたが、俺のことではないだろう。

 そのまま放物線を描いていき、着地地点は倒れた荷車のもう少し向こう側。


「ほら、行ってこいよ。お前達の目的はアイツだろ」


 あっちに行けと周囲に佇む襲撃者達へ手を振る。

 しかし背を向けた途端に俺が襲うとでも思っているのか、中々動かない。

 ならばと俺はその場に寝転び、目を閉じた。


 それでようやくこちらの意思が伝わったのか、遠ざかっていく幾つもの足音。

 その時口々に「し、信じられねえ」とか、「美少女だぞ? 投げるなんて」とか、「クズ男め」とか。

 うるせえよ。

 お前達自分のことを棚に上げすぎだろ。


 しばらく目を閉じていれば、遠くからまた争う音が聞こえてきた。

 ようやく少女討伐が始まったか。

 三人削れたとはいえ、精霊も使えない状態。

 すぐに決着は着きそうだな。


 ふっ、見てるかティー。

 お前の考えた世界救済プランは最初の段階で頓挫しそうだぞ。

 ちゃんと世界を救いたければ俺を戻して他の救済者を送るんだな。


 ピコン。


 そんな俺の思いが届いたのか、再び無機質な音が。

 メッセージが強制的に表示される。


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 【ティーレリアが教える世界の救い方!】


 STEP1:目の前の幼気な少女を助けよう!


 〈備考〉

 失敗した場合はルアの所持している像を一つ破壊します。

 今回の破壊対象は、コレだっ!!


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「…………」

 

 添付されていたのは俺が今日並べ替えに満足していたセリアンド像の横で、ハンマーを持って親指を立てているティーの写真。


「ふ、ふざけんなクソがああああああ!!」


 その後、俺は少女をめちゃくちゃ助けた。

 

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