明乃島攻略戦 中編
第24話 引率よろしく
「引率アリでも未成年はダメ」
両腕でバツを作り、カキが首を振る。
「いいじゃん! 私らも連れてってよー」
「ダーメーでーすー!」
「姉さん、もうそのくらいで……」
椿は楓の制止を振り切り、カキに食って掛かる。
徹進を始めケイにメイ、朝霧やツバメも遠巻きにしているが、最初にはっきりと拒絶を口にしたのはカキだけであった。
「ツバメちゃんも未成年じゃん!」
「はい、残念! ツバメは今回連れていきません!」
「えっ」
「ぐぬぬ、隙が無い……」
「それに、あんな店に連れていけば親御さんが悲しみます。非行、ダメ絶対!」
「!!」
カキが正論を振りかざす。
すると周りが瞬時に勝ち負けを悟り、カキに憐みの視線を送りだす。
弟の楓は苦い顔をするが、姉の椿はお構いなしだ。
「私たち、両親いないんだよね……」
悲しげな表情を作った椿に、カキは動揺する。
地雷原に誘い込まれたと気付いた時には趨勢は決して、誰の援軍も得ることは出来ずに孤立した。
「わ、私も……」
流れに任せて斗貴子もおずおずと手を上げる。
カキは当然、拒絶の意思を顕にしようとしたが、徹進が先んずる。
「保護者の許可を取れ」
根回しと世間体の大切さを嫌と言うほど味わってきた徹進は、壬生狼との戦端が開かれる前に後々問題になりそうな箇所を潰して回っていた。
協定書の作成もその一つであり、未成年である三岳姉弟の参加の可否も非常に重要な事柄だと判断した。
二人に両親はおらずとも保護者はいて、既に一度接触を終えている。
徹進は彼の人となりに直感的な信頼を置いていた。
「じーちゃんに許可取れってこと?」
三岳静――二人の祖父は初期入植者の子供で、明乃島の黎明期を戦い抜いた古強者である。
管理局が幅を利かす前は有力者の一人として島民の信頼を集めていた老人が、まさか夜遊びを許すはずもないと踏んでの言葉であった。
「ラッキー! ちょっと電話してくるね」
スマートフォンを取り出した椿は満面の笑みを浮かべて場を離れる。
読みを外したと悟った徹進に、楓が決定的な情報を耳打ちする。
「実はうちのじいさん、常連客なんですよ」
「え、マジ?」
「なんでも鉄火場に身を置くことで昔味わったスリルを思い出すとか」
話題に挙がっている施設、アリーナはカジノとバーを併設した闘技場は賭け事や荒事を好む腕自慢やギャンブラーが集う代物であった。しかし三年前にアリーナを買収した現支配人のクロスは、幅広い集客能力を見抜いて家族連れの観光客も楽しめる総合アミューズメントパークに作り変えている。カジノの大部分と闘技場を地下に移設することで従来の客を手放さず、プールや海水浴場、ホテルを建設にまで手を伸ばして南国リゾート事業を成功させている。
昼間なら海水浴やゲームセンターを盾に言い逃れも出来るだろうが、夜はそれ目的でしか集まらない。
「じーちゃん、オッケーだってさ」
手渡されたスマートフォンから快活な老人が声が響き、徹進の逃げ道を塞ぐ。
椿が満面の笑みを浮かべ、楓とハイタッチを交わす。
「引率よろしく、おにーさんたち」
メイは額に手を当ててやれやれと首を振り、腕を組んだケイは呆れ顔を隠そうともしない。
返り討ちにあった男二人――徹進とカキは用意周到さと読みの深さを戦場に置き忘れたのではないかと。
「そもそもテツたち幼馴染三人組も来てたよ、未成年の頃に」
「そうね。しかもいきなり声かけてきたね。ご法度なのに」
「確かあの時はバニーガールと――」
こそこそと昔話に興じるケイとメイの口を二人は慌てて塞ぐ。
幸い椿の耳には入ることはなかったが、楓やツバメにはばっちりと聞こえていた。ジトッと湿った視線の背中を濡らす一方で朝霧はフォローしようと躍起になる。男なら仕方ない、あれだけの美人が相手なら誰でもそうなる、と。
「分かった、連れていく!」
「やったー!」
「ただし、忘れてはならないことが二つ」
折れた徹進は、それでも譲れない事柄を徹底する。
「これは遊びじゃない。何人もの人生を左右する行動であることを頭に入れておくように」
ぎろりと椿に釘を刺す。
「それと保護者の許可がない子は絶対に連れていかない。俺たちが向かうのは賭場でもある。多くの人生を狂わせてきた場所だ。お前たちのこれからが狂う可能性を前にしたら、全てが些事なんだ」
椿、楓、斗貴子、と順に目を向け、拒絶を含む溜息を吐き出す。
「納得はしなくていい。理解もいらない。ただ、忘れるなよ」
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