第19話 過去の戦いから学んだもの

 目が覚めた私がいる世界は地獄絵図だった。


 辺りは業火に覆われて、たくさんの建物が破壊されていた。  


 微かに照らす太陽の角度からして、曇り空の昼過ぎだろうか。


 そんな風景の南方の遠くから一人の人物がやって来る。


 体には薄汚れた灰色の防具に身を纏い、腰には大きな剣をしまった鞘を身に付けていた。


 また、反対側の北側からは円陣を組みながらたくさんの人がやって来る。


 こちらは青色の防具で1メートルくらいの白銀の槍を抱えている。


「来ましたね」


 ただ一人の灰色の防具の仮面から凛とした高い声が響く。


 仮面からはみ出した金髪といい、声からして女性だろうか。 


「……ダル、お前もここまでだ。おとなしく、あれを渡せ」


 一番先頭にいた青色の防具の仮面から、低い男性の声が響く。


「嫌です。これは命にかえても渡さないわ。どうせ、あなたたちのことだからロクなことに使わないんでしょ」

「そうか、それなら仕方がないな」


 その一人の男が槍を構え、前傾姿勢になる。


「なら、お前を殺して奪うだけだ」

「ふふっ、私を甘く見ないでください。

私には、あの系統の血が流れているのですから」

「……だから、何だというんだ」

「ならば、食らいなさい!」


 女が剣を引き抜いてから、それを地面に突き刺し、両手を胸元に置き、細かく体を震わす。


 すると、体全体から眩しい光が発せられて、周囲が無機質な灰色に染まる。


「やあっ!!」


 その女が叫び声とともに地面から剣を引き抜くと、颯爽さっそうと男の首に向かって剣を振りかざす。


「その首、私がもらいました!!」


「がはっ!?」


 ──だが、その声の主は、


「残念だったな。

……ダル」


 女の胸に槍を突き刺している男が屈託くったくもなくニヤリと笑う。


 そう、勝ったのは男の方だった。


「……がはっ、どうして……そんなはずでは…。

私たちの、秘伝の技が……通用しないなんて……」

「愚かな女だ。その力は俺には効かない」


「がはっ!?」


 男が女の体から槍を引き抜くと、顔面蒼白になった女が胸を押さえ、うめき声とともに大量の血を散らし、その場に倒れこむ。


「お前らが得意とした突き刺した剣の振動から耳の神経の鼓膜を通じて、時を止める技か」

「……所詮しょせん、人間技だったな」


 女が息を止めた瞬間、灰色の情景が元の色に戻り、再び世界はまわり出す。


「……ファン、無事だったか」 


 時が動き出した一人の男の兵士が声をかける。


「俺は何ともない。

それより、皆はあれを探しだせ」

「分かった」

「……ファン様、了解しました」


 皆が彼に一瞥いちべつして、倒れた女の周りを血眼になって調べ始める。


『ピカッ!』


 ──ふと、何かが光る。 


「何だ?」


 死んだはずの女の体が光っている。


「しまった、あの兵器は女の体の中に隠してあったのか!?」


『カッ!!』

 

 世界は激しい光に包まれた……。


****

 

「……はっ」


 私は目を覚ます。

 どうやら悪い夢を見ていたようだ。

 でも、何の夢だったのかは、もう思い出せない。


「大丈夫ですかね……」

「案ずるな。一瞬で終わるわい」


 私の耳から聞き覚えのある声が聞こえる。


(誰?)


「んんー!」


 私は叫ぼうとして動こうとしたが、身動きがとれない。


 よく見ると体の両手足が紐で縛られており、口もガムテープで塞がれている。


 でも、分かるのは私が寝ている上で何かが起きているということ。


 何者かが龍牙さんに何か悪さをしているのは間違いない。


 私は、何とか転がりながらベッドの柵を乗り越え、無造作に地面へと着地する。


 幸いにもベッドの下の床には分厚い絨毯じゅうたんがあり、着地した時の衝撃を吸収してくれた。


「んんんー!」

「……あっ、石垣さん。

彼女が起きてしまったみたいですよ」

「心配するな。

きちんと手はうっておる。

今はこっちを、ちゃっちゃっと済ませるぞ」


 どうやら、声の主の一人は石垣教師らしい。

 

『バチバチバチ!!』


(龍牙さん!?)


 龍牙さんが寝ているベッドで何かの発光と炸裂音が響く。


「こんな計画、いつまで続けるんでしょうか……」

「それが、ケドラー様の命令だから仕方がないわい」

「……さて、今度は彼女だな。

毎回、骨がおれるわい」


 はしごから降りてくる二人に、私は恐怖で怯えていた。


「やあ、弓君、おはよう」


 穏やかに接する石垣教師に続き、おどおどした態度で側による眼鏡の青年。


 私はヨロヨロと立ち上がる。


「んんー!」


 身の危険を感じた私はありったけの声を吐き出した。


(……何とかして、龍牙さんを助けないと!)


「んんんんー!」

「いかん! 北開!」

「はいっ!」


『ピカ……!!』 


 私の体が光り出し、髪の色が金髪に変わろうとする。

 一体、この力はなに……?


『バリバリバリ!!』


「んんっ!?」


 そう思った私の全身から力が抜ける。

 まさか背後に、もう一人いたとは……。

 そのまま力を無くし、その場に崩れ落ちる私……。


「ふぅ。間一髪。俺に感謝しろよ」


 ──携帯式の黒のスタンガンを持った後ろの若者がニヤリと笑う。


「……沖縄さん、ありがとうございます。危なかったですよ」


 同じく、黒のスタンガンを握った北開がヘナヘナとその場でへたれこむ。


「二人とも、まだ終わっとらんぞ」


 石垣が白のヘルメットを気絶した弓に被せる。


「……そうでしたね。石垣さん、すみません。すっかり忘れていました」

「なら、早くしようぜ。俺はもう寝てえよ」


 そして、ヘルメットから発した青白い光とともに、この部屋の光は再度、暗闇へと閉ざされた……。





 

 







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