第18話 何か食べ物はないか?
うーん、すやすや……。
「むっ……」
むくっ。
夜更けすぎの深夜1時に龍牙が目を覚まし、重い上半身を上げる。
「トイレ……」
体が身震いし、不意に突然の尿意に襲われる。
様々な栄養を口から取り込み、体内で分解され、血液にて隅々まで送った栄養素から、不要になった老廃物の排出。
これは本能であり、避けられない行為。
動物として生きていくゆえの宿命だ。
いそいそとベッドから抜け出し、トイレを済ませる龍牙。
「しかし、腹へったな」
やはり、夕食がハンバーグとポテトサラダの缶詰だけでは腹も鳴る。
やんちゃな育ち盛りには物足りない。
「何か、食べ物あったかな」
備え付けの白い冷蔵庫の中身は、ほぼ空っぽで、左端に横倒しな飲料水の二本のペットボトルの隅に隠れ、透明なタッパーに入った黄金色のあの物体があった……。
「たくあんか」
そのタッパーを開けてパリポリ。
計5枚ある輪切りの数切れのたくあんをリスのように頬張る愛らしい姿。
そんなキュートさを裏切る神聖な空間に響き渡る奇妙な
何か、虚しい……。
「むっ!?」
残り2枚と、残りわずかなたくあんを噛みしめながら何かを発見したようだ。
視線の先には弓の下着が入っていた草網のかご。
距離からしておよそ10メートル。
昼の音楽室からのほのかな光といい、一体、彼の視力はいくらあるのだろうか。
2.0飛んで、海外先住民による6.0は軽くいけるだろう。
龍牙がこそこそと怪しい下着泥棒のように(今は弓が着けているから当然ない)近づくと、かごの中にはこげ茶色の殻に覆われた木の実があった。
色や艶といい、さらにサイズといい、ちょうどあのくるみあたりにそっくりである……。
「これは、食べごたえがありそうだぜ……」
その木の実を掴み、壁の角に軽くぶつけて殻を割り、中の茶色の実を食べる。
むしゃむしゃ……。
「……地味に旨いな」
ほんのり甘い風味に少し苦味がある。
食感はチョコにコーティングされたアーモンドに近い。
「さて、寝るか……」
食べ終わった龍牙が二段ベッドに戻る。
下のベッドには弓がぐっすりと寝ていた。
その彼女の枕元には、昼間から被っていた茶色のボブカットのかつらと、あの大きな黄色のリボンが置いてあった。
また、ベッドの壁の奥にある白のカーテンの隙間からは微かな月明かりが漏れ、彼女の白い寝顔が照らされていた。
思わず、ほぅ、とため息が漏れそうな美しい表情。
月夜に浮かぶお姫様。
あのかぐや姫のように月へと帰ってしまいそうだ。
それともアポロのように月面探索をして、お土産の月見団子でも買うのだろうか。
もちろん、弓は月に残り、お土産は宅急便で送るとか……。
しかし、いくらロボットで遠隔操作出来る時代になったとはいえ、最終的には人が関わらないといけない。
いつの時代も運送会社は大変だ。
「おやすみ。弓」
龍牙が似合わないニヒルな笑みを浮かべて、二階の寝室へと静かにはしごを上る。
たどり着いた安息の地。
欲望は満たされたせいか、彼の睡魔はすぐにやってきた……。
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