第2章 ボケに生きた男と穢れを知らない少女
第3話 ボケとツッコミな男子
『ピーンポーン、パーンポーン~♪』
とある学園内に響き渡る高らかなチャイム音。
『本日の朝の活動は終了しました。これから一時間は昼休憩の時間です。各皆さまは昼からの活動に向けて、英気を養って下さい。皆さま、お疲れ様でした』
無機質なリノリウムの床に感情のない機械音声の女性の声が響き渡る。
『ピーンポーン、パーンポーン~♪』
「さてと。腹へったな。飯にするか」
ここは周りを海に囲まれた一つの孤島、『
その名前を『ヨスガの高等学園』で今年で創業100年にもなる学校でもある。
だが、初夏の昼下がりにも関わらず、太陽光が大地を照らすことはほとんどない。
校内の窓から映る、毎日曇天な曇り空に隠れる事もなく、負けじと老舗なたたずまいをかもし出している。
また、この学園内は高校生の10代の若者が作業服やジャージ姿で建物内を行き交いをしているが、なぜか女子生徒や大人の姿はない。
戦乱により住む場を失ったたくさんの人々などがこの学園に避難して、ここで生活をしているはずなのだが……。
──その学園の一階にある花畑からの草取り作業から重い腰をあげた一人の少年がいた。
彼の名前は
年齢は18歳。
黒の短髪に褐色な肌に男らしい目鼻が整った顔立ち、180センチにもなる中肉中背。
誰から見ても魅力的な男子でもあったが……。
「今日は何を食おうかなー」
龍牙は、まったく私の言葉(地の文)に聞く耳を持たない。
今までの作業がさまになっていた、長袖、長ズボンによる夏用の薄手な、灰色の上下の作業服が空しくうつる……。
──この『ヨスガの高等学園』の最高階の三階からは窓から素敵な海岸線が拝めて、遥か昔、近辺では若者達のデートスポットとしても有名であった。
ちなみにここは二階にある家庭科室。
別名『ヨスガのキッチン』。
「そんな下らない説明より、俺の紹介の続きをしようぜ♪」
もう私をさしおいて、すぐこれだ。
龍牙の自意識過剰にも困ったものである……。
「それよりもこれ見ろよ。今日入った新商品だぜ!」
龍牙が手のひらサイズの長方形の銀の缶詰を私に見せつける。
いや、私は状況説明の姿のないナレーションなのだが……。
缶詰のラベルには『納豆餃子缶』と記載してある。
この島には度重なった大戦の影響で放射能に侵されており、外出もろくにできない食糧難。
食材はこの部屋の三台ある自動販売機で売られている缶詰しか取り扱っていない。
食材の調達先は週に一回。
この島より北の遠方にある東京大学院と、この学園の三階の放送部からの無線のやり取りで、向こう側から遠隔操作をした人形のロボットが陸軍のヘリで海を渡り、注文した分だけ配達してくれる。
私からも詳しい事は不明だが、遥か彼方にある大学院に対して、尊敬の念をぬぐえない。
「うまそうだな。イタダキマス♪」
さて、龍牙が缶詰のプルタブを器用に引き開け、中身を開けると……。
『ムワーン!』
大量の紫色な臭みが缶詰を
「うわっ、臭いぞ!」
「ひょっとしてアイツか!?」
「食事中に屁をこくとか何を考えてる!?」
「彼は、肉ばかりの偏った食生活をおくってないか!?」
いや、龍牙だけでない。
周囲の同じ年代の男子にも被害がおよんでいる。
しかし、龍牙はそんなことは気にしていない。
「もぐもぐ♪」
いつのまにか空いていた片方の手には、自販機で購入したであろう200グラムサイズの白い飯の缶詰。
それと一緒に、この匂いの元を缶詰にセロハンテープでついていた割り箸で掴み、美味しそうに食べている。
「ガツガツ!」
いや、余程空腹だったのか、一心不乱にライオンのように、捕らえた獲物をかきこんでいるようにも見える。
10分経過……。
「ふぅ。腹ふくれたぜ」
まるでカラスが餌を漁ったかのように、周りには大量の缶詰の空が散らばっている。
食事を終え、その目の前の自称イケメンは爪楊枝をくわえながら、出産間近な妊婦のように丸々となった腹をさすっていた。
「んっ?」
その満腹で満足げな龍牙が何かに反応した。
「今、向こうで何か光ったよな?」
一瞬だけ目に映った光源は、この部屋を抜けて奥にある誰も利用していない古ぼけた音楽室のはず……。
「もしかしてベートベンならぬ、魂を抜かれた弁当ベンの仕業かもしれないな」
『やれやれ、しかたがないな……』と呟きながら、龍牙はゆっくりと立ち上がり、その光のした先へと足を進めた。
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