第7話 決闘
決闘の合図があった瞬間ジョセフの行動は早かった。
躊躇いを見せることなく心臓目掛けて剣を突きにきたのだ。
いたぶるつもりはないという覚悟を一瞬で感じた。
だがあたしは伊達にプロレスファンをやっていないのだ。
ジョセフは確かに素早いが、小回りのきく選手は新日本プロレスに沢山居るという事実を彼は知らないのだろう。この速度は見慣れている!行ける!
あたしはギリギリの間合いで剣先を避けた。その勢いのままジョセフは3歩ほどよろめいた。
【敵が背中を見せたらチャンスですわ!的確に狙っていきましょう】
リアーナの言葉が頭を過る。今しかもうチャンスはないだろう。
あたしはそのままジョセフの背中に抱きついた。
ジョセフは目を見開き剣を落としてしまった。
ジョセフにとってアナスタシアは愛しい人なことに変わりないのだ。
アナスタシアはジョセフを皇太子として見ることが一度もなかった。皇太子だと知っても「そうだったのね!知らなかったわ」と言っただけなのだ。知ってからの態度も何も変わらなかった。その無垢さに癒された。アナスタシアの前では自然と笑顔になった。どんな手を使ってもアナスタシアと結ばれたかった。だが、ジョセフには婚約者が居た。
この国で下手したら国王より金持ちの公爵家で非の打ち所がない令嬢だ。子供の頃から将来結婚すると決められていた。勿論嫌いではなかったが、自分を皇太子としてしか見ないエリザベスを疎ましく思ってしまうようになった。
そんな時エリザベスがアナスタシアを虐めるようになった。
怒りで頭が真っ白になった。今すぐ婚約を破棄したい。だがそれは難しかった。エリザベスに落ち度は何もないのだ。
だから敢えてエリザベスが感情的になるよう仕向けた。エリザベスに見えるようにアナスタシアにスキンシップを取った。アナスタシアに夜会用のドレスを贈った。
贈った碧色のドレスに身を包んだアナスタシアを一人にしておいた。
案の定エリザベスは激怒した。
何故アナスタシアがこの色のドレスを着るのか!誰に贈られたのか!皇太子の意味が分かっているのか!
普段は冷静で感情的にならないエリザベスが捲し立てていた。
そんな大声だから必然的に周りの証人が出来た。これで婚約破棄の理由が1つ出来た。令嬢らしからぬ行動を取ったということだ。国母が感情的になってはいけないのだ。
頃合いを見計らって出ていこうとした時、あろうことかエリザベスがアナスタシアを突き飛ばしたのだ。しかも階段の上から。
必死になってアナスタシアを助けた。こんなにホッとしたことはなかった。エリザベスを泳がせた自分に後悔しつつ、これで破棄出来ると安堵した自分も居た。
でも…どこかで気づいていたのだ
アナスタシアはジョセフを皇太子として見ていない
だけど同時に恋愛対象としても見ていないということを
ドレスを贈った時喜んでいた。ただ彼女はその意味を理解していなかった。
スキンシップの多さに注意されたこともあった。
そう、気付いていたのだ。
この気持ちが独りよがりであることに
だからこそ、先走って皆の前でアナスタシアを守り、婚約破棄をし、既成事実を作ろうとした。
そうすることで守ろうとしたのだ。自分の気持ちとちっぽけなプライドを
そして決闘を申し込まれた時、アナスタシアをひとおもいに楽にしてあげたいと思ったのだった。投獄された日々やエリザベスを庇う優しさ…そんなアナスタシアを自由にしてあげるにはそれしかないと思ったのだ。
これも自分のプライド故だ。
でも柔らかくか細い腕で抱き締められて再度確認してしまった…
何をされてもアナスタシアを嫌いになれないのだ
自然と涙が溢れる
「ごめん、アナスタシア…それでも俺はっ、お前を愛してっ」
「チェストーーーーー!」
バックドロップが見事にきまった。
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