第8話.技術チートなんてそんなもんだよ。

がははは、粗銅より金を取り出して、豊富な財力でチート街道をまっしぐらだ。


なんてことはならない。


うん、知っていた。


アイツも言っていたからね!


『考えてみろ!』

『どうでもいい』

『粗銅から金が採れるといっても97~99%は銅な訳だ。多くて3%、少なければ1%としかない。これががっぽがっぽといくものか!』

『だからどうした』

『チートはチートと成り得ない』


下らないと聞き流した昔の俺を恨みたくなる。


粗銅の相場は、粗銅1 斤(600g)が銀6分(銅銭60枚)になる。

(銀1両は銀100分であり、銅銭1,000枚)


一方、金の相場は、銀1に対して金12から13で交換できた。


金の含有率は平均3%もあった。

粗銅1 斤(600g)に対して、3%に当たる18gの金が採れる。18gが12倍の価値に跳ね上がり、銅の分を引いても銅銭20枚を稼ぎ出す。


銅銭60枚で買い取って、銅と金を合わせて80枚で売れる訳だ。

(正確に違うが誤差なので、試算表はこれでいった)


粗利益率25%もある。


しかし、運搬費と作業費を引くと利益率10%くらい減ってしまう。


問題は朽木家の財力が乏しいことであった。


一度に1万貫とか捻出できない。


今回預かったのは10貫文(60万円)のみであった。


成功したので、500貫文(3,000万円)を捻出させる。


金を売った銭で新たな粗銅を購入することで、1年間の取引総額は約5,000貫文(30,000万円)と試算できた。


5,000貫文(3億円)は、粗銅の重量で50トンになる。

ゆえに粗利益1,250貫文(7,500万円)であり、

人夫20人が50kgを背負って50往復する運搬費、

最低の護衛10人に払う警備費、

一軒屋には20人の職人に支払う必要経費、

これら引くと、

純利益が500貫文(3,000万円)となる。


500貫文(3,000万円)、これがチートで生まれる限界であった。


500貫文は500石高に相当する。


大金であるが、浅井25万石、六角100万石に比べると、焼け石に水のはした金であった。


とりあえず、200貫文は鉄など備品を買う銭として使い、200貫文で200人の土木作業員兼戦闘員を難民から募集する。


残りの100貫文で規模を拡大し、いずれは投資額を増やしていって粗銅による利益を1,000貫文まで引き上げてゆく。


結局、これも三カ年計画になってしまった。


土木作業員200人で河川の改修を進めて行けば、氾濫の危険性と開墾地の拡大に広がり、収穫増が見込まれる。


ちらも本格的な工事に着工するのには、最低でも2,000人くらいの作業員が揃うまで取りかかることがでない。


『できることから、こつこつと』


このフレーズはあまり好きじゃない。


椎茸を育てるにも苗処を育てるのに1~2年も掛かり、最速でも収穫は3年後だ。


それも成功した場合に限る。


稲の正条植は実験田んぼしかやっていないので今年は無理であった。


本格的に収穫できるのは来年の秋以降になる。


新しく開墾した畑には冬場に小麦を植えて、少しでも収穫を増やす。


小麦の後に麻を植える。


麻を植えると土地が回復させる作用があるので連作障害を防止するのに丁度いい。


麦畑を増やすのは冷害対策も兼ねている。


他にあわ・ひえなどの雑穀を増やしている。


蕎麦の苗も手に入れば、それに加える。


粗雑な開拓で土砂崩れを起こせば元も子もない。


丁寧に進めてゆくしかない。


なんちゃって石鹸は前も言ったが銭にならない。

ハーブを入れたくらいで臭みが取れない。


菜種が大量生産できる3年後を待つことになる。


これも3年後だ。


リバーシ(オセロ)はアイツから駄目と言われていたがやってみた。


囲碁や将棋が流行るのなら、リバーシ(オセロ)もいけるのでは?


などと、完全に考え違いをしていた。


囲碁や将棋は流行っているのではない。


書道、茶道などと同じ教養の1つなのだ。


伊達や酔狂で学んでいる者は少ないのだ。


リバーシ(オセロ)を堺の納屋衆(堺商人)の一人である納屋宗次と伊勢貞孝に見せて聞いた所、同じ答えが返ってきた。


俺が将軍になってリバーシ(オセロ)を嗜めば、売れる商材になるだろう。


何年後の話だ?


俺はリバーシ(オセロ)を布教したいんじゃない。


銭を稼ぎたい。


チートで簡単に稼げる物は何もなかった。


将軍の息子でこれだ。


農民などに生まれ変わったら、チートで稼げる額などしれている。


少し儲ければ、のし上がる前に消されそうだ。


 ◇◇◇


もちろん、嬉しい誤算もあった。


金の販売を興聖寺こうしょうじが引き受けてくれた。


禅寺の興聖寺は仏師を多く抱えており、仏師が掘った仏像に金箔を張って売っている。


仏師が金を売り買いするのは日常らしい。


この仏師網を使って金を捌くことになった。


カモフラージュに敦賀と小浜の海賊からも金を購入する。


二か所から買うのは金の購入量を相手に知られないようにする偽装に過ぎない。


朽木家で金を生産していることがバレ難くなった。


興聖寺も無料で運搬を請け負う配送屋を手に入れた。


決して損ではない。


さらに、近江高島郡海津村の東にある峰山、西濱山で石灰石が見つかった。


浅井と国境を挟んでいるのが嫌だが、採掘できる距離であった。


同じく仏師が仏を掘る為とか言って許可を貰った。


ちゃんと代金は払う。


これで硝酸作りを『培養法』から『硝石丘法』に替えることができる。


どうして俺が硝酸作りを知っているのか?


疑問に思うかもしれないが、すべてアイツのお蔭だ。


俺の実家は農家をやっていたので土地が余っていた。


アイツは親父を説得して山の土地を借りて、『培養法』と『硝石丘法』の硝酸作りを試した訳だ。


俺は親父に借り出されて臭い目にあった。


「昔の苦労を知るのも1つの勉強だ」


なんて言われて小学生から5年間も付き合わされた。


壮大な迷惑な話だった。


試しに作った火薬を実験した。


見事、成功!


ちゃんとした火薬だった。


残った物は堆肥としてありがたく親父が貰っていった。


ともかく、『培養法』と『硝石丘法』では最終的に手に入る硝酸の量が違う。


『硝石丘法』で作れるのは吉兆である。


火薬は切り札に使える。


でも、完成は5年後も先だ。


しかも、これを売って儲けるのは危険だ。


財政難の解決にならない。


地味にいくしかない。


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