第1話.転生
俺が転生したと気がついたのは数えで1歳も中頃になってからだ。目も耳もロクに見えない、聞こえないので何もできなかった。
少ししゃべれるようになってやっとわかった。
あぁ、私は転生したのだと。
何の因果か『剣豪将軍』に生まれ変わったらしい。
我が家は元鹿島神宮の大宮司の子孫であり、分家が剣術道場を営んでおり、私も物心がつく前に道場に入れられて
鹿島新當流は武甕槌神の神剣「韴霊剣」を授かった国摩眞人を始祖とする「鹿島の太刀」を称する東国武術を伝承した一族であり、俗に『関東七流』、あるいは、『鹿島七流』と呼ばれた。
その第51代吉川左京卜部覚賢の弟が有名な塚原卜傳高幹である。
そう、あの有名な
卜伝は戦国期に多くの武将に剣術を指南している。
剣豪将軍と呼ばれる足利義輝を奥義である「一之太刀」を伝授したとされている。
そうだ、転生した俺のことだ。
何か因縁めいていた。
俺は気がつくと棒切れを振りましていたので、内談衆の一人が「これは良き剣術家を召喚せねば」とか騒いでいた。
自分でフラグを立てたような気がした。
足利義輝ははじめから鹿島新當流を習得していたというオチは止してほしい。
これが歴史の真実!
ないないない、思わず首を横に振る。
友人がこんなことを言っていた。
『武人、召喚や転生といっても2つ場合がある』
『どうでもいい』
『まぁ、聞け。2つと言うのは「時間逆行」と「別世界」という意味だ。この2つは同じように聞こえるがまったく違う』
『うるさい』
『「時間逆行」の場合、歴史の修正力が働くので物事が巧く運ばないようになる。一方「別世界」ではそういう事は起こない。代わりに、歴史事実と違うことが平気で混ざってくる。歴史的事実に囚われると思わぬ落とし穴に嵌る』
『試験勉強はいいか?』
『おぉ、そうだった』
どこまでもマイペースな奴だった。
最近は、あいつとの会話ばかりを思い出してしまう。
さて、俺が死んだ原因はおそらくあれだろう。
兄の結婚式の為に無理ヤリ貴金属店に連れられて行かれた。
どうして30前のおっさんの指輪を16歳の高校生が選ぶんだ?
「なぁ、どれがいい思う」
「俺が判る訳ないだろう」
「おまえは俺と違ってモテると姉さんが言っていたぞ」
「訳ない。彼女なんて一人もいない奴に聞くな。給料の3ヶ月分で無難な奴がいいんじゃないか」
「おぉ、やっぱりそうか」
運が悪かった。
俺もその強盗らも、押し入った6人組の強盗がはじめての実践となってしまった。
ダァ~ン!
一発の銃弾が店員を傷付けたときに頭が真っ白になって、普段から持っている携帯の警棒で6人を打ちのめしていた。
折れた腕や足があり得ない方向に向いており、すでに反撃能力がないと一瞬の油断であった。
意識のある奴が懐から小型の銃を取り出して俺に向けて放たれた。
ヤバぁ!
逃げる選択がない、後に子供を抱いた母親がいた。
銃弾を警棒で迎え撃つ。
やってみたが巧くゆく訳もなく、そこで意識が途絶えた。
後は乳母が俺に話し掛けている所しか記憶がない。
あぁ、おれは転生したのかぁ!
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