第17話 ニビルに到着

 シュメール文明の滅亡により、アナンヌキと人類の歴史は終わりをつげた。

アナンヌキと人類の歴史はシュメール文明の滅亡後も続いていたのかもしれないが、それを記録するものが、いなくなってしまった。

 

(これからが創作の世界です) 


霧が地上を漂い、取り残されたように存在している。

太陽光が届かない陰りの中に何があるのかわからない。

ペクタイトのような黒い小石が敷き詰められた地表に何が……隠れているのか。

 

冥王星の外側で、太陽に迫る超長楕円軌道を持つというこの星は──木星より大きく、太陽になり切れなかった星(褐色矮星)ではないかと言われてきたが、人類は正確な存在位置を知らない。


暗く寂しいこの星に何があるのだろうか。アナンヌキの姿は見えない。

朗々として歌うような声が聞こえる……耳に慣れたお経のよう……でしむこう、

じんみらいさい、ふせっしょう、ふちゅうとう、ふじゃいん、ふもうご、ふきご、ふあっく、ふりょうぜつ、ふけんどん、ふしんに、ふじゃけん……

──(十善戒)とは、生きるための戒めを説いたもの、仏の教えに出会えた不可思議に感謝するもの、と老妻が話していた。

神さま、仏様、いや、アナンヌキは、ここでまた、核戦争を起こしたのでしょうか。そして、この星にまだ、いるのだろうか。


つつかれた指の感触で目を覚ました。

到着していた。

( ... お前の同期はみな来ておる。やりたいことが何もなくとも、お前はこの星で、過ごすことになる。あとのことは、また、考えればよい。

ここの一年は地球の何千倍も長いからすぐに飽きが来る。時が過ぎる前に生まれ変わりの達示も来る) と、あの老人の声がした。


「泰蔵さんが死んだ……」

遺体を前に泣き悲しむ人びとが、地上に見えた。

自分そっくりの人間が横たわっている。病室にひとが集まって、泣いているのだ。

幽界から、迎えのひとたちが現れる。

十数年前に死んだ父親と母親が現れて、

「お前は死んでいる」と教える──死の自覚が生まれた。


他界した親族や知人が付き添って霊界入りの手伝いをしてくれる。

太陽の近くに存在する乗り物が見える。親しかった人たちが歓迎して──幽界まで

迎えに降りてくる。生前の姿形で、霊界入りのものに身元を知らせる──幼くして先に入った子供は子供の姿で現れる。


アナンヌキは、この星から、去って行ったのであろうか。

自分のDNAから創り出したものを、放射線の灰にしてしまった。

人間であれば、痛く反省して向上しようとするところだ。


人間の寿命は短かいから、精霊から再生して人間がやり直せればアナンヌキよりも有利にならないだろうか。

人間の一生はアナンウキの3600分の1だから、何回も生き変わってやりなおせる。人生を何度も塗り替えることができれば、神様が望む方向にだって成長できるかも

……人類には何度でも学ばせればいい。泰蔵はいろいろ考える。


 生まれ変わりの候補は偉大なる協議会が決めて発表するとある。

それが、霊魂の出発点なら、──過去を悔いて再生をこころがけよう。

人が精霊から再生するこのシステムを残したのは、逝ったアナンヌキたちだと記念碑にある。地球を保護区にした後、人類の向上を望んで顕彰碑を立てたと、

去った彼らの刻まれた伝言がのこっている。──精霊に命を与えて放つシステムを利用せよ──地球に送り返せと。 


「戻ってやり治すのはむずかしいが、新しく生まれた系統になら再生できる。

お前は全部、知った。ここの一年は地球の3600年に当たる。

地球上では常時、新しい系統が誕生している。

生まれ変わりのコースは〔偉大なる協議会〕が、お前に合わせて決めるだろう。

無理強いされないから、やりなおす気持ちが大切になる。

それが修業なのだから。


( わしの役目はこれで終わりだよ、泰蔵)

寿老人は去って行った。

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