第7話 夢遊状態
泰蔵は父親が愛用した、トーハツのオートバイ(東京発電機の自動二輪車)」にまたがっていた。山の麓と接する雑草だらけの道を走っていた。
田舎道を、ビュンビユンとばした。バイクが大きく跳ねるが。とても気持ち良かった。父親が死ぬと、排気量250ccの大型二輪は邪魔にされた。
乗り手がなかったのだ。
丸い大きな燃料タンクを胸の前にして、両足で挟むようにまたがって走った。
重厚なエンジン音が体に響いた。
田舎の田んぼ道は、16歳の少年が縦横無尽に自動二輪者を飛ばしても、ほとんど、支障がなかった。人通りはなく騒音も目立たなかった。
隣村との境に、「鐘つき」という険しい上り坂があった。
登りきって、右に方向を変えると、楽な坂になるはずだ。
登り終えると曲がった。急カーブのこの田舎道は、前にも通ったことがある。
右に曲がった。水たまりなど、あるはずはなかったのに、
夢の中では、大きな水面が前にあった。
遠くまで広がる浅瀬の海が眼前にひろがっていた。そして……自分は
100メートルくらいの上空に静止していることに──気がついた。
まっすぐ落ちている。景色が上下に流れている。
泰蔵は落ちながら考えた……自分は泳げない。もうダメか、
しかし次の瞬間、彼は、砂利のみえる浅瀬に立っていた……目が覚めた。
寿老人は泰蔵の守護神なのだろうか……。
星が散らばる大きな半球体の世界に、ゆっくり回転する緑色の惑星が現れた。
この星は、昔からと同じ、回転する惑星、あの地球なのであろうか。
老人が語り始めた。
「冥王星は地球から離れていて、質量も小さく、太陽系の外側の惑星とされた。
中世以前の太陽系の惑星は全部で九つ、これが常識じゃった。つまり、太陽系の
惑星は、水星, 金星、火星、木星、土星の五つで、肉眼で見ることができるのは
土星が限界だった。外側に天王星が発見されたのは、天体望遠鏡が完成した1781年のことで、天体望遠鏡を持たない古代人は知るはずがない星だった」
ところが、「シュメールの古文書には天王星が記録されていた。
しかも、水に満ちた青緑色の星という説明までもあった。
後に、米国の惑星探査船、ボイジャー2号が天王星に接近して画像を送信してきたので、それが美しい青緑色をした星だとわかった。
──古代シュメール人は天王星がどんな惑星か知っていたのだ」
星空の彼方を示しながら老人は続けた。
「のう、泰蔵。これからお前は、精霊の待つ故郷の星に帰ることになるが、この世界が、いかに生成して、どこへ行きつくのかを知っておくことは大事なことだ。
古代文明の知識を知るものは、精霊の待つ故郷の星でまた,生まれかわることに役立つからだ」
「知らなければならない常識もある。泰蔵の妻はお前に、この世を離れるための乗り物について話したろう。仏様の乗り物や生まれ変わりのかたちは、行いによってちがうと言って死んだ。お前が迷わないように案じたのだ。 ──徳の高い人には紫色の雲に乗って華やかな迎えが来るが、足りない人には仏様だけが迎えに来る。
下品下生は乗り物だけが配車され、念仏を唱えてもすぐには往生できない。
仏様は上品上生で1~7日、下品下生で12日かかる。お経によっても行き先が異なるから、一緒に行ってくれる案内人がいないと困ろう……
だから、わしがついていく』
既視感とは「過去に実際に体験した」という記憶異常で、時間の経過により落ち着かない経験として残る。
見慣れたはずのものが未知に感じられることを「未視感」と言う。
既視感と未視感とが混じり合って出現するほど、泰蔵の精神症状は変化していた。
故郷で行われた孫の結婚式の時だった。来賓の控え室からふらふら出てきた泰蔵を、木彫りの人形たちが見ていた。
その中に、長い頭部をもって杖をついた年寄りがいた。
背はあまり高くない。
寿老人は長寿の象徴で福禄の神といわれる──連れた鹿は玄鹿(げんろく)。
樹木の生命力からくる長寿の象徴で、福禄寿と似て一つの神と考えられた。
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