第4話 既視感
小高い、外れの公園に乳母車を押してきた人を、
滑り台の上から見たら、その人も自分を見上げていた。
白髪に赤みがかった光る肌、ダラリとした着物姿の年寄りが杖をついて、
坂の上に立っていた。物言わぬ、茶色の小動物も一緒だった。
その後、その人に会ったという記憶がない。
滑り台を最後に、一度も会っていない。
老人は息づかいが早かった……病気で亡くなったのかもしれない。
泰蔵が小学校にあがり、中学校を卒業して、田舎の高校に通っていた時にも
会わなかった。
後期高齢者になった泰蔵は、連れ添った老妻を亡くした。
5年振りに、生まれ故郷に帰ってきていた。
田舎に山野の景色が戻っている
──自分は昔、ここにいたのだ。神社の森が連なるところに朽ちかけた寺が、まだ、あった。二本足たちがぞろぞろ出て来る───彼らは神職たちなのであろうか。
草深い庭に覆われた古寺の構造がサワサワとよみがえる。
うなだれて通りすぎる、遠い昔、宇宙から来た人びと……。
荒れた土地で長い間、癒された後、これから星に帰ろうとする人たちであろうか。
グレイと呼ばれるロボットたちも一緒に乗り込んだ。
空中に浮かび、重い空気の中を移動する乗り物に心吸い寄せられた。
君たちは──組み立てられた生き物なのかい。何がほしい……食べ物かい、休息かい? それとも、荒れ放題のこの土地なのかい?
放射能に浸された自然を、取り戻す手立ては……もう、見つけたのかい。
ぐるぐる回る大蛸の動きが今一つ、気持ちわるい。こんな物は田舎の沼に合わない。畑には食べるものがひとつもない──好物のキュウリはなくなった。
枯れてしまったから、もう役に立たないよ。
スタートラインには、二本足が待っているから供給しよう。
五体満足で、まだ壊れていないものもいるよ。いずれ、まともなものたちは
いなくなる。
油を生成する藻があるというから、燃料をとりだせばここから抜け出せる。
回転するエンジンの響きが、懐かしい語らいを思い出させる。
赤いバラを胸に留めた女子学生が聖夜の昔にいた。
毛帽子ルリ子が、泰蔵と芳子さんとの仲を取り持った。
随分、昔のことだ……すっかり、忘れていた。
おや、恥知らずのグレイがサンタクローズの屋台にもう坐っている。
眼を瞬き続けてごらん──やめると、泰蔵の世界が消えてしまう……。
故郷へ帰ったある日、大蛸がキュウリを食いに来るという畑に、
無理に頼んで、連れてきてもらった。
持病が悪化して、寿命を悟った泰蔵は、夢見心地で支離滅裂な、
高揚した気分になっていた。
山肌の洞窟の内側に納骨堂がある。精霊が待つという星に通じている。
自分はやがて死ぬのだろう……。君たち、一緒に来るなら連れてってやる。
ほら、乗り物ガイドもある。
間違わないようにと、愛妻が…何度も話していた。
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