第3話 夜警員
LPガスの会社の夜警になって夕空が見える高い場所にいた。
医薬品業界に復帰して定年まで頑張った、その二年後、プロパンガスの販売会社に応募したら採用された。就職難の時代で運が良かった。
長い鉄梯子を登って、夕焼け空が見える円筒形のタンクの横にいる。
銀色に光る大きなタンクが三本もあった。一番端のタンクには、燃えるガスではなく延焼防止用のガスが入っている。
見かけが同じだから、教えてもらわないとわからない……当たり前だ。
夕焼け空に星のような黒いものが浮いていた。
足の悪い青年が屋根の上に立っていた。
ネコには、寝たりくつろいだりするエリアとハンティングテリトリーがある。
顔を合わせただけでは、喧嘩にならない。
夜中に集まり、顔やにおいを覚えて喧嘩が起きるのを防いでいる。
こんなことを話している。
「リバティーバランスをやったのは、誰だ!」、
「奴を、見えないところからオレが撃った」、
「頭を出したところを撃たれたのだ」、
「手袋が飛んできたところに青年がいて、彼が銃を渡した」と。
足の悪い青年はピョンピョンはねて外に逃げたという。
ネコがいなくなった……自分も今、どこにいるのかわからない。
反り返った立派な屋根が見える大きな建物の中にいた。
若者たちの話す言葉がわからない……年寄りの脳に何かが起きている。
──結婚式場でわからなくなった。
──歩いて行くと、写真や記念品がうず高く積み上げられた廊下に出た。
壁面が大型の鏡になっていて、土台が物入れになっている。
勝手口のような木製の戸があった。
若い男が顔を突き出した。
「大変だ!おいちゃんが、倒れている]。
病院では延命治療を拒否された──あの時と同じ景色が見える。
まだ死んでいない……血圧が低くなりすぎただけだ。
見たことがない景色をまだ見ている。
裸眼では見えないはずのところに黒い星のようなものが浮いていた。
白内障の手術で眼医者に連れて行ってもらう予定だった。
簿暗い中で動くのが、ネコなのか、男の看護士なのかわからない。
瞬きをしないでくれと言われた。
それがわかるようなるまでじっと待っていた。
腎臓病が持病の年寄りは、すぐには死なないが、そのままでは永く生きられないと
専門外の医者に言われた。医者には前立腺の癌が加わったことを話していない。
細く、永く生きようとしてはダメ!太く、短かく生きるのよと、老妻が、
死の床で何度も言っていた。
思い出すと涙がこぼれる。
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