第3話 彼岸花

年中になったころ、近くのバレエ教室に入った。

踊ることが好きになってセンターを任されたこともあった。


バレエを習い始めるより前から母にピアノを教わっていた

朝起きるとオーケストラが流れていることもあった。

だから絶対音感までいかなくても普通の人より音感はあるほうだった。


音楽を聴くのが好きだったから歌を好きになるのにそう時間はかからなかった。


学校の音楽の授業では誰よりも真剣に発声練習をしていた

合唱コンクールでも大きい声を出して歌っていた


いつしか歌を仕事にしたいと思い始めた


そんな時に好きになったのが本格的に踊り本格的に歌うグループ

少し大人っぽい歌詞には背伸びをして聞き込んだ


いつか私もこの人みたいに


中学二年生の時事務所は違うけれど募集オーディションに応募した


ファッション雑誌で見つけたそれを母親に見せ、父親に写真を撮ってもらった

でも返事のメールは来なかった

パソコンの前に座り何日も何日も待ち続けた答えは来なかった


乗り気ではない微妙な表情をした両親の顔を思い出した

無理かもしれない と


この人たちはこお夢を良いと思っていない 理解してくれてない


それは確信に近いものだった


16歳の春に進学する高校は芸能活動が禁止だった

中学生のうちに書き溜めた、メロディーのない歌詞はすべて無駄になってしまった


その高校はあまりに居心地が悪かった

馴染めないまま夏を迎えて、私は新しいグループと出会った


大人を嫌う少女の抗うための歌

人を殺せるほど鋭い視線

風に揺れる緑色のスカートとほどかれた髪の毛

切り裂かれた制服のスカート


衝撃

何か鋭利したもので心臓を貫かれた感覚


両親の表情で打ち砕かれた初めての夢

青い制服を着た少女たちにこぶしを突き付けられたとき

二つ目の夢ができた


「誰かを感動させられる人になりたい」


その方法は歌でもダンスでもお芝居でも何でもいい

とにかく、誰かの記憶に残ることができる人になりたいと思った。


校則に縛られている中、両親にも言わずにたくさんのオーディションを受けた

でもすべて顔面を見ただけで落とされた


同じ時期に応募した人たちが次々に誰かの記憶に刻まれていく中で

ただただそれを眺めるしかできなかった


生まれ持ち、変えられない顔

生まれた時点で決まってしまう将来

ブスなだけで叩いてくるSNS依存者たち


負け組顔面の人間は望んではいけない夢


最後に深い絶望を与えたのはネットの声でもない、自分の両親だった



私が憧れる理由


普通の人なら「自分を変えたかった」「誰かのために輝きたかった」

というだろう


私はたぶんただの自己満足。欺瞞。


期待されないこと。存在価値への不安。


ただ、好きなことをやりたいだけ。

一番は


『誰かの記憶の中に残っていたい』


ビジュアルだけで階級や仕事が変わる時代。

『圏外』の私は自分のために、儚き夢を描く。

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