セッション6 ありったけの夢航路(6)
セッションを進めるほどに、ラッシュ君も手慣れてきた。
「次は『幽霊船』と『釣り勝負』っす!」
「まんまだ」
「タイム制限ありで、釣った魚の量で勝負っす!」
出てきたお題を、時間もかけずにイベント化する。
釣り勝負は出目が走ったエルフ師匠操るアランソンの大漁で勝利した。
「次。『ゴブリン』『艦隊戦』。【ゴブリン】海賊団の登場っす!」
「よーし。戦闘ですね!」
「海戦での飛行ユニットの恐ろしさを思い知らせてやろう」
「え、ゴルンの【呪い】まだ解いてないの?」
「…………」
ステータス的には楽勝の【ゴブリン】とは言え、艦隊戦は勝手が違う。
船の強さは乗り手のステータスとは関係ないからだ。
結局、水の上を走るゴルンと、【グリフォン】を駆るアランソンによって【ゴブリン】海賊団の船は撃沈。
攻め手もララーナの弓とシュトレゼンの【黒魔法】の前に撃退された。
「完勝ですね!」
「…………」
ハイタッチするむにむにさんとおけさん。戦闘となると元気になる2人であった。
「次。『シーライオン』『ハント』」
「【シーライオン】と言うと、シンガポールのがっかり名所?」
「それはマーライオンです」
「言ってみただけ。最近はなんか巨大化して目が光ったり、煙吐いたりするらしい」
ドヤ顔で説明するエルフ師匠。
パワーアップを続けたら、ゴジラと戦えるかもしれないな。マーライオン。
「それで、【シーライオン】って何ですか?」
「アシカの事だね。結構獰猛で人が襲われる事もあるんだっけか」
アシカはアザラシなんかと違って、後ろ脚が完全にヒレ化していなくて、地上でもそこそこ動ける。
俊敏な肉食性で、漁師の獲物を奪ったり、猟師と決闘じみた戦いをした。なんて話を昔聞いた事はある。
F3モンスターとしてもそこそこ強い。
まあ、今の俺たちの敵ではないけれど。
「【シーライオン】の革は高価だからね。それをハントする感じ?」
「いや、【シーライオン】が君たちをハントしに来た! 戦闘だ」
「普通に戦闘だ!」
そういうわけで、出現した6匹の【シーライオン】を倒し、高級革と食料をゲット。
「ちなみに、今回でリーチね」
「同じく」
「私はダブルリーチです!」
手を上げる俺とむにむにさんとエルフ師匠。
おけさんの記録紙は全然埋まっていない。斜めに3つ並んでいるのが一番ビンゴに近いやつ。
リーチしてもなかなか先に進まないのがビンゴゲームだし。
これもまた運というものだろう。
「では次っすね。『海底都市』『探索クエスト』」
「ビンゴ」
そしてビシっと手を上げたのは。
他ならぬおけさんだった。
「んふっふ。まさかダブルが来るとは思わなかったわねぇ」
ご満悦のおけさん。
やっぱり、出遅れていたのを気にしていたらしい。地蔵キャラも忘れてはしゃいでいる。
「じゃあ、この地図が正しい海図という事ね」
「それでオッケーっす。今回のイベントをクリア後、ラストイベントがあります。それをクリアすればセッション成功です」
「竜が出てこない件」
「確かに出てこなかったですね。『竜が護る海』なのに」
ランダム表相手に無理を言ってはいけない。
実は割とドラゴン関係は入れていた。
入れていたんだけど、何故か全部外れてしまった。
これもまあ、よくある話だ。
「さて、『竜が護る海』の果てを目指す航海の途中。最果ての島の位置を知るという者の噂を君たちは聞く」
「どうやって知ったんだ……」
「やっぱり、渡り鳥が新聞運んでくれたり」
「後、たまたま通りがかった【マーマン】が教えてくれたりとかっすね」
実際の外洋は他人に出会う機会なんて無いだろうけれど、ファンタジーならそうでもない。
通行人の【マーマン】もいるし、海を縄張りに商売をしている者だって、リアル世界より多いだろう。
立ち寄る島や港でも情報は得られるし、なんなら石碑や地図を発見してもいい。
ファンタジーとはそういうものだから、海を舞台にした冒険も、もっとどんどんやるべきだと、俺は思う。
「最果ての島を知る者。それこそが『海底都市』の女王である。という事で、君たちは『海底都市』に到着した」
ゲームマスターのラッシュ君はさり気なく、もう到着している事にする。
エルフ師匠の日頃の教育が生きている。
これが「という情報があるんだけど。どうする?」なんて感じに言うと、そこから意見のまとめと、その寸劇でかなりの時間を取られてしまう。
場合によっては、ゲームマスターの誘導には従わない、という結論になる事すらある。
それで結局、他の情報を出したり、大自然の脅威が起きたりして、『海底都市』には到着する事になるのだから始末におえない。
それ自体が無意味かと言うと、けして無意味でもないけれど。
消費すべき時間やリソースは、シナリオの山場で使いたい。
シナリオ途中のどうでもいい所で言ったり来たり。それで疲れてクライマックスを楽しめないでは意味がない。
だから、流すべき部分はササっと流すのがエルフ師匠のやり方。
俺もそれがいいと思う。
「ほい到着」
「『海底都市』の周辺は泡みたいなバリアが張られていて、その中では陸上生物も呼吸が出来るし寒さも感じない」
「水の抵抗は?」
「あるので、行動時のペナルティは発生するっす。まあ、その時々で知らせますんで」
なるほど了解。
「『海底都市』に着くと、出迎えの【マーマン】がいる。『おお、これは地上の方。お待ちしておりましたぞ。ささ、こちらに……』と」
そして出迎えまで来ている。果たしてコレは……?
「うむ。出迎えご苦労」
「私達有名人だったりするんですか?」
「…………」
むにむにさんの疑問に首を横にふるおけさん。
俺達のレベルを考えるともう、それなりに有名人でもいいとは思うけど、だからと言って初見の場所で出迎えが来たりする程ではない。
さて、これはいったいどういう事か・
「【マーマン】も『我々の女王が地上の方の力を借りたいと申しております。是非ともこちらにおいでください』とぐいぐいと連れて行く感じっすね」
「ああ、それで『探索クエスト』を依頼されるって事か」
「正解っす」
「ならば苦しゅうない。案内いたせ」
半強制的に連行されるシーンで、やたらと態度が大きいムーブを始めるのは、エルフ師匠ばかりではないと思う。
俺もちょくちょくやっていたし。
「さて、【マーマン】の女王の間。『地上の方よ、是非に頼みたい事があります。わらわの失われた』……えっと何にするかな。こういう時は低価値財宝のランダム表を……」
マスタースクリーンの向こうでダイスを振るラッシュ君。
その顔がひくん、とひきつった。
「『猫』」
「そりゃ逃げる」
「逃げるわね」
「虐待です」
「なんで海ん中に猫がいるんだよ」
総ツッコミであった。
いくら呼吸が出来るからと言って、海底都市で猫を飼うのは非常識……というか、むにむにさんの言う通り虐待と言ってもいいのではなかろうか。
「えーと、そう。『地上の民との友好の証として贈られたモフモフなのだ。なんとか水にも慣れ、わらわも大切にしていたのだが、ふとした瞬間に逃げてしまってな』」
「絶対慣れてない」
「逃げる機会伺ってただけでしょ」
「助け出さないとダメですよ」
「つまり女王の手より先に探索し、脱出するまでがミッション……」
腕を組んで作戦会議を始める女性陣。
いや違う。そういうんじゃないから。
「ところで、『竜が護る海』の果ての島を知ってる女王ってこの人でいいのかな?」
とにかく、女性陣はとりあえず置いておいて、セッションの進行をしよう。
「そうなるっすね」
「じゃあ、猫を探してそこまでの航路を教えてもらうと」
「教えてもらった後に猫を奪取か……」
「そこまでは求めてないです」
「猫はちゃんと幸せに暮らすんで問題無いって事でお願いするっす」
エキサイトする女性陣。
それをまあまあとなだめる俺とラッシュ君。
しばらく後。
「まあ、納得。で探索ね」
ケロリとした顔で言うエルフ師匠であった。
「えっと、このマップのそれぞれの地点で【野伏】なんかを使って探索ロールをして下さい。探し方で判定する能力値や技能が変わったりもします。地点ごとに判定に修正がつくので、猫が行きそうな所を狙って探索して下さいっす」
「【マーマン】は猫が行きそうな所が分からないから見つけられない。と」
「そんな感じっす」
頷くラッシュ君。
んーとむにむにさんは首をかしげて。
「猫がいそうな場所というより、苦手そうな場所から弾いていきましょう」
「水ん中は全部ダメでしょ」
「そうすると、乾いている場所か……」
ふむ、とマップを見つめる俺たち。
ああでもないこうでもない。建物内はどうだ。空気のある所はどこだと話していると、呆れたようにおけさんが一言。
「【獣呼びの鈴】で一発でしょ」
ああ、そういえばそうだった。そんなのもあった。
「ちみつなふくせん」
「緻密な伏線になったっすねぇ……では、猫は無事発見になり、最終ステージに向かう航路は示されました」
どうもラッシュ君自身も気付いていなかった様子。
ランダムイベントってのは、こういう事があるから面白いんだよね。
「さて、最後のイベントは固定イベントっす。これぞ、『竜が護る』と言われる所以……」
そう言って、ラッシュ君が取り出したのは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます