セッション6 ありったけの夢航路(5)

 『深淵の海神わだつみに祝福されし世界樹』号の航海は続く。

 そして、ランダム数値の荒ぶりも続いていく。


「それじゃ次っすね『宝箱』、『ダンスバトル』……?」


 また厄介な組み合わせが来てしまった。

 しかし誰だ、ランダム表にダンスバトルとか入れたヤツは。


「あ、私がリクエストしたやつ。ダンスバトル」


 むにむにさんか。

 むにむにさんなら良い。許します。


「宝箱……を巡ってダンスバトル」


 適当な事を言い出すエルフ師匠。


「こう、ほら。腰ミノつけて頭に羽飾りつけた原住民が、太鼓をドコドコやって。太鼓の音に合わせて打ち合わされる竹の間をステップしながらダンスをするヤツ」


 エルフ師匠の脳内では、謎の儀式が始まっている。


「すごい……何か、邪悪な儀式みたいですね」


 若干引き気味のむにむにさん。


「足を挟んで酷いことになりそうですね……」

「古代中国では竹ではなく刃のついた棒を使っていたのだよ。その名も【蛮武断剃バンブーダンス】。そう、こんな漢字を書く……」

「民明書房ですか」

「出典は『世界の奇拳怪拳』」

「民明書房じゃないですか」


 バカ話を続ける俺とエルフ師匠。

 むにむにさんも、ラッシュ君もいまいちついてこれていない様子。

 ちょっと話題の年齢層が高すぎたかもしれない。


 なお、おけさんは『私も理解出来ませんよ』みたいな顔をしているけれど、普通に知っている年代なのは周知のことだ。


「で、まあ。イベントっす」


 仕切り直すラッシュ君。

 1回目に比べると自信も出てきた感じ。

 やっぱり、実戦経験は若者を成長させるなぁ、とおじさんは感慨深くなってしまう。


「立ち寄った小島で水や食料の補給をする君たちは、島の中で石造りの祭壇を発見する。こんな感じっすね」


 ラッシュ君が広げてみせるのは、ネットで拾ってきたフリー素材のマップ。

 探してみると、『朽ちた祭壇』だとか『ダンスホール』だとか、シチュエーションごとに使えるマップがあってゲームマスターをやる上で重宝する。

 製作者様に感謝しつつ、有効利用していこう。


「で、この辺にでっかい宝箱がポツンと置いてあって、君たちが近づくと宝箱から声がする『なんじ、宝物を求める者か?』」

「【ミミック】ですね」

「っすね。【ミミック】っす」


 【ミミック】はお馴染みの宝箱に擬態するモンスター。

 強さの方はピンキリで、だいたい大きい宝箱ほど強いミミックという事になっている。


「サイズはどれくらい?」

「【特大】っすね」


 ニヤリと笑うラッシュ君。

 【特大】サイズの【ミミック】となると、戦って負ける相手ではないけれど、ちょっと面倒な相手になる。

 戦闘リソースを気にする必要は無いんで、戦うなら戦うでもいいけれど……。


「【ミミック】は語りかけてくる。『なんじ、宝物を望むのであれば……ダンスバトルで我に勝つのだ!』そう言って立ち上がる」

「立ち上がるのか……」


 うーんと言う顔をするエルフ師匠。

 【ミミック】の外見は特に決められたものはない。

 宝箱を殻にするヤドカリみたいなモンスター、とかは一般的だけど。他にも宝箱の形状のまま襲いかかってくるとか、中に触手がいるとか、なんか棍棒みたいな馬の脚的なものが生えているとか。

 まあ、それぞれの心の中に、それぞれの【ミミック】がいるのだ。


「えっと、こいつはアレっす。宝箱部分が顔で他は黒い全身タイツの、反省を促すダンスをしそうな感じの……」


 と、サラサラとノートに【ミミック】を描いて見せるラッシュ君。

 なるほど、たしかに頭部が宝箱で他が黒ずくめの人型の……その、あれだ。


「ゴレンジャーの怪人みたいだぁ」


 ねえ、と同意を求めてくるエルフ師匠。

 さすがに俺もゴレンジャーはリアルタイムでは見てないです。

 でもまあ、なんかイメージはそんな感じ。


「まあ、その変態みたいな【ミミック】がダンスバトルを挑んでくる、と」

「そうっす」

「それならば受けて立とう! ララーナが」


 他人任せを高らかに宣言するエルフ師匠。

 ここまで来ると立派に感じる。

 やはり、TRPGは言ったもん勝ちの世界という事か。


「え、ララーナですか?」

「うん。【種族特徴(エルフ)】でなんかそんな感じで」

「エルフなら踊り得意そうですし、判定はそれでいいっすよ」


 あっさり許可するラッシュ君。この辺はもう、ノリだけの世界だ。


「じゃあ、ゴルンも【種族特徴(ドワーフ)】で太鼓でも叩いて……」


 ついでに判定のサポートをする。

 そんなこんなで、程なくダンスバトルに勝利する。


「『見事。この宝物を持っていくが良い』と【ミミック】は言って……えっと、ランダム表振るっすね……」


 そう言って、公式データの財宝表を振るラッシュ君。


「ほい、出たっす。【獣呼びの鈴】っすね。鈴を鳴らすと、音を聞いた陸上動物が寄って来るというモノっすね」

「海シナリオだと役に立たない」

「これが何かの伏線とかは無いですかね」


 ホントにランダムだから無いと思うよむにむにさん。


「【ミミック】はアイテムを君たちに託すとまた祭壇に戻る『我はまた、次の挑戦者を待つとしよう』」

「倒せばアイテムがっぽりでは?」


 キラーンとメガネを光らせるエルフ師匠。

 ちょっと俺も同じことを考えた。


「ダメっす。なんか異次元的な所から出しているんで、ダンスバトルで勝たないとダメなやつっす」


 慌てて付け足すラッシュ君。

 まあ、それでさらにアイテムがっぽり、なんて望んでもしようがない。


「そういうワケで、サクサク次の島に行くっすよ!」


 声を張り上げ先に進めるラッシュ君。

 すでにくるりとビンゴマシーンを回している。


 なんか雲行きが怪しくなったら、自信ありげな大きな声でシナリオを強制進行させると良い。

 エルフ師匠と俺の教えが生きている。


「そいで、次は『【ジャイアントタートル】』と『甲板磨き』か……うし、それじゃあ君たちは、航海途中遭遇した巨大な亀に背中の掃除を依頼された……」


 だんだんと、慣れて来たのだろう。

 ランダムで出たお題をイベントにするまでの時間も短くなってきた。

 俺達プレイヤーのあしらいも上手く出来ている。


 ゲームマスターは初めてだと言うけれど、色んなもので「予習」してきたのだろう。

 それが上手く行った部分もあれば、ラッシュ君には向かない部分もあるだろうけれど。

 それを実行して身につけていく。

 そうやって、若者は成長していくんだなぁ。


 おじさんらしく、そんな事を思ってしまうのであった。


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