セッション5 雪の湯けむり温泉殺人事件。ドワーフの里で冒険者は見た!(11)

「それじゃ3ターン目だ」


 途中経過を飛ばすほど、2ターン目は何も起きなかった。

 ドワーフ側の【錬金術】素材が尽きたのと、最後にシュトレゼンの【黒魔法】でラッシュの【耐久力】が全快したくらい。

 なお、回復に使った【黒魔法】、【天秤の秘薬】の効果により、Fの【耐久力】も全快している。


 一度も攻撃が当たっていないので、Fの【耐久力】は1点も減らされてはいないけど。


「我慢の2ターン目だった」

「でも、ドワ2は盾を無くしていますから。ここから一気に攻めましょう」


 えいえいおー、とむにむにさんが手を上げる。

 一同も、それに合わせて気合を入れ直す。


「じゃ、アランソン。ドワ3の盾をぶっ壊す。【二刀流】、【豪打】、【兜割り】、【全力攻撃】」

「はい、ダメージ出して」

「103点」


 まあ、それだけのダメージ食らえば割れるわな。

 実際データ通りだと割れている。


 ちょっとだけ、データをなんやかんやしてギリギリ【耐久力】が残ったとか答えようかとも思った。

 しかし、それをやって何かが面白くなるわけではない。

 単純に戦闘をグダらせるだけなので、やめた。


「割れた」

「よっしゃ」


 これにてFは丸裸。

 攻撃を集中されれば、割と容易く落ちるだろう。

 それこそ、次のターンには。


「ラッシュは【待機】だね」

「うっす。ここが正念場っすから」


 親指を立てるラッシュ君。

 ドワーフ側の攻撃はほぼ全てラッシュが捌いている。その上で、致命的なダメージは食っていない。

 仕事をきっちりやってくれるタンク役は、やはり頼もしいものだ。


「じゃ、Fは後列に下がる、と」

「えー!」

「きたないさすがドワーフ汚い」

「それは無いっすよ」

「…………」


 ブーイングの嵐である。

 まあね、有利と思ったら、あっさり逃げられて、嬉しいプレイヤーはいないだろう。


 だからと言って、撤回はしない。

 ここで甘い顔をしても、プレイヤーは手加減されたという気持ちだけが残るだろうし。

 やっぱり、達成感を得てもらうためには、それなりの苦労をしてもらわないとね。


「……仕方ないなぁ。ララーナ射ちます! 標的はF。判定は成功」

「通常の攻撃だね。こっちも【回避】……おっと失敗。ダメージ出して」

「えへへ。初ヒットいただきました。43点です」

「ほいほい、結構痛いなと」


 Fは独自に【錬金術】素材を持っている。

 【回復薬】を使って回復してもいいし、【錬金術】を使って攻撃してもいい。

 もしくは、手持ち武器を【投擲】するのも選択肢の一つではある。


 今まで普通に殴り合って、じわじわと削られてきた経緯を考えると、【錬金術】で何かやる方がいいか。


「ドワ1~4は通常の攻撃。1、2がアランソン。3、4がラッシュだ」

「盾で全部受けてやるっす」

「あー、いやいや。1順1発でおっけい。後はボディで受けるから」

「大丈夫っすか? それならそうするっす」

「むしろ、【行動回数】無くなったラッシュが集中攻撃受ける方が怖いから」


 珍しくそれらしい指示をだすエルフ師匠。

 ちょっとはこっちの本気度も伝わったかな?


「じゃあ。1から順にあたり、はずれ、はずれ、はずれ」

「アランソンに当たった奴を【かばう】っす」


 折角当たったドワ1の攻撃も、ラッシュの盾に阻まれる。

 くっそ、やっぱり【盾使い】は強いなぁ。


「1順目ラスト。シュトレゼン」

「…………」


 じゃあ、とばかりに【黒魔法】の【錬金阻害】をFにと宣言するおけさん。

 【錬金阻害】はその名の通り、【錬金術】を一定ターン使用出来なくする【黒魔法】だ。

 標的が1体なのと、代償として同一ターン間、術者も【錬金術】が使えなくなる。しかも、代償の重複は不可。


 つまり、一度【錬金阻害】を使用すると、該当ターンが終了するまで別の対象に【錬金阻害】をかける事は出来ないという事。


 代償自体は、【黒魔法】一本伸ばしのシュトレゼンにはあまり関係の無いけれど、重複不可の事を考えると使い所は考えないといけない。


「こう来たかぁ……」


 判定は成功。

 大げさなくらいに頭を抱える俺。


 これで、後衛に下がったFが出来る行動は一気に減った。

 サブウエポンの手斧を【投擲】をするくらいだ。

 【帰還】の魔法がかかっているので、繰り返し使えるが、魔法の回数に限りもあるし、威力も低い。


 さて、困った。

 そして、困った時にはゲームマスターは困った事をしっかりとプレイヤーに見せる事、これが重要なのだと思う。


 TRPGは戦闘を楽しむゲームではあるけれど、必ずしも勝利を求めるものではない。

 いわんや、ゲームマスターはプレイヤーに楽しんでもらう事が勝利条件だ。


 プレイヤーが上手いムーブをしたら、全力で褒めるのもまた、ゲームマスターの仕事だと、俺は考えている。


「うーん。どうしたものか……とりあえず2順目だね、ララーナから」


 考えながらも戦闘続行。


「ララーナは変わらずF狙いで行こうかと思うんですが、いいですか?」

「おっけおっけ。盾も割れたし」

「余裕があったらラッシュも攻撃に回るんで、前衛は任せて欲しいっす」

「…………」


 卓を見回すむにむにさん。皆の同意を確認してから行動宣言。

 ララーナの弓矢がFめがけて飛ぶ。


「Fの【回避】は成功」


 まあ、【行動回数】が残っている限りは避けるけどね。


「【行動回数】削れましたから」

「うむうむ、ポジティブシンキング」


 という事でFの行動。

 行動順が来るまで考えていたけれど、やっぱりやれる事は【投擲】くらいだ。


「Fは手斧を取り出して。それじゃ攻撃目標はダイスで決定と……ララーナに手斧を【投擲】。判定は成功」

「【回避】します。成功」

「【行動回数】は削った」


 ドヤァと自慢げに言う俺。


「いっしんいったいのこうぼうせんだぁ」


 棒読みで答えるエルフ師匠。

 ボケた時にはこういう返しがありがたい。


「あ、投げた手斧は【帰還】の効果で手元に戻るよ」

「ゴルンも持ってるやつですね」


 というか、俺が作成するドワーフキャラは大体持っていたりする。

 まあ、手癖みたいなもんだ。


 一人で大体なんでも出来る、マルチ的な運用が出来るキャラクターは、やっぱり好きだし、ついつい作りがちになってしまう。

 ただ、TRPGという場では、一点突破型に役割分担されたキャラの方が大体において強い。


「ラッシュはこのターンは防御専念っす」


 そのいい例がラッシュだ。

 あっちこっちに器用貧乏なゴルンでは、模擬戦をやったら勝ち目は無いだろう。

 それくらいには、ラッシュというのはこのパーティの要と言える。


 まあ、4人パーティでは誰が欠けてもキツいんだけど。


「それじゃあ次はドワーフ1~4と……」


 攻防はじんわりとプレイヤー有利にと傾いていく。

 アランソンの攻撃が前衛の壁を削りはじめ、1体が倒れた後はラッシュも攻撃に加わる。

 シュトレゼンは何かを待っているのか、サポートに徹している。


「じゃ、これで最後の前衛も落ちて、Fが前衛に出てくる」


 しかも、ララーナの攻撃で【耐久力】は半減している。

 このまま大きな山場も無く普通に負けるのも盛り上がりに欠けるか。

 プレイヤー側には余裕もあるしな。


「それじゃあ。Fは『貴様らさえ居なければこの国は俺のモノだったものを。奴らとも約束したのに! 許さんぞぉ』とか言って、なにやらアイテムのようなものを……」

「…………」


 元々準備していたシナリオボスを出してやる事にして、俺は召喚シーンの描写をはじめる。

 ちょいちょいと、おけさんがそんな俺を止めて言う。


「【呪詛封じ】」


 【黒魔法】の発動を阻害する【黒魔法】だった。

 発動代償として【魔力】の他に【耐久力】も消費するが、発動してしまえばすべての【黒魔法】は使えない。

 いかにも【黒魔法】で作ったようなこのアイテムも同様だ。


「……負けました」


 そして俺は素直に敗北を認め。

 すったもんだの推理シナリオは、無事終了と相成った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る