セッション5 雪の湯けむり温泉殺人事件。ドワーフの里で冒険者は見た!(10)
「まずは族長達を下がらせるっす。重要な目撃者っすから」
ラッシュ君の声に合わせて、皆も自分のメタルフィギュアを並べていく。
前衛はラッシュとアランソン。
後衛はララーナとシュトレゼン。
いつもの隊列に、オブザーバーはその後ろだ。
対するF陣営は、Fを中心に左右に二名ずつの5人。
全員前列で完全武装。
本来のシナリオよりは重武装だけど、その辺は臨機応変対応と言う奴だ。
まあ、一応シナリオラストバトルだしね。
「行動順は、アランソン、ララーナ、ドワーフF、ラッシュ、ドワーフ1~4、シュトレゼンだよ」
「敵の数が減るまで、ラッシュはガード中心で行くっす【ファランクス】っす」
「ドワーフ2、3も【ファランクス】。Fを守る感じ」
「ボスを倒したかったら左右の二人を先に倒さないとダメな奴っすね」
「ボス戦っぽい」
「盾ごとぶち抜けばいいだけの話です!」
「…………」
やったるわいと気合が入る一同。
いそいそと、とっておきの戦闘用のダイスを取り出すむにむにさん。
キラーンと眼鏡を光らせるエルフ師匠。
おけさんは、使う魔法をもう決めたのか、マジックブックをパタンと閉じる。
「じゃ、アランソン。【二刀流】、【豪打】、【兜割り】、【全力攻撃】を2の盾に」
まずはエルフ師匠。
【盾使い】との戦いでの定石の盾への攻撃。
というか、全力攻撃。
大丈夫? 【回避】なんかも出来ないけど、その辺は全部ラッシュくんに任せるって事なんかね。
「自動命中です」
「ふっふっふ、死ぬがいい。105点防御貫通」
「死ぬわ……2の盾が砕けました」
アランソンが使った【二刀流】、【豪打】、【全力攻撃】は全て一撃の威力を上げる【特殊行動】。
そして【兜割り】は防具への攻撃を行う【特殊行動】で、敵本体にダメージが行かない変わりに防具自身の防御点が半減する。
強力な分、かなりの【命中】ペナルティを課せられる【特殊行動】だが、構えている盾を殴る分には何の問題も無いと言う訳だ。
「よし、半分剥げた」
「これでFは半身出たって事ですよね」
「まあ、F自身も結構強いから……」
【種族敵特徴(ドワーフ)】と、盾による【身体を半分隠す遮蔽】によって、Fに攻撃を命中させるには、かなりのペナルティを伴う事になる。
とは言え、盾による【身体を半分隠す遮蔽】だけが守りなのはアランソンも一緒。
むしろ【回避】出来ない分、ずっと危険とも言える。
さて、どうしたものかね。
「次、ララーナです。Fを攻撃【鷹の目】です。命中」
【鷹の目】は【命中】判定にボーナスを与えてくれる【特殊行動】。
ここは当てに行って、Fの行動回数を減らす作戦か。
「では【回避】。回避成功」
「【行動回数】を減らせただけ良しとしましょうか」
むう、と小さく唸ってからむにむにさんは言う。
多分、むにむにさんはシューティングゲームのステージボスはコアを集中して狙うタイプだろう。
それで、飽和攻撃を食らって乙るやつだ。
プレイヤーとしてのエルフ師匠もそのタイプ。
ボス攻略はやっぱり、時間がかかると思っても部位破壊から進めていくのが王道だと俺は思う。
おじさん臭いと言われても、やっぱり急がば回れが一番だ。
「次はFの行動。アランソンを普通に攻撃」
ゲームマスターは、最終的にはプレイヤー側の勝利を目的としなければならない。
だけれども、あからさまな手抜きや手加減もまた、やってはいけない事の一つだ。
この辺はプロレスに近いのかもしれない。
幻想の美しさ楽しさを保ち続ける努力。
それこそがゲームマスターの仕事というものだ。
と言う訳で、Fはアランソンを集中して狙う事にする。
「普通に攻撃っすか?」
「普通に攻撃だね。【特殊行動】はなし」
「じゃあ、当たったらラッシュが【かばう】で受けるっす。……ていうか、【特殊行動】使うより普通に殴り続けた方が強いっすねこれ」
うーん、と唸りながらラッシュ君が言う。
そこに気付くとは、やはり天才か。
「じゃあ、命中。ダメージ48点。【行動回数】と【特殊行動】は使い所を考えないと無抵抗にボコられるから気をつけてね」
F3のシステムの構造を考えると、いかに相手の【行動回数】を削るか。というゲームだと俺は思っている。
【特殊行動】は、その後の有利を増やすためのものであって、戦局を打破する類のものではない、とまで思う。
まあ、この辺は人によって考え方が違うんだけど。
「はーい」
素直に答えるラッシュ君。
「エルフ師匠も気をつけて下さい」
「ん」
気にする様子も無いエルフ師匠。
自分がゲームマスターをする時は、システムを良く利用するのがエルフ師匠のスタイルなので、この辺の理解はしっかりしているとは思うけど。
果たしてどこまで考えているのやら。
「次はラッシュっすね。と言っても、アランソンのフォローなんで【待機】っす」
「了解。それじゃあ、ドワーフ1~4。盾の壊されていない3はFのフォローのために【待機】かな。【行動回数】余ったら最後に殴るか。1と4はそれぞれラッシュとアランソンに攻撃」
「どんと来い」
「ボディで受けるっす」
ドワーフ側の攻撃はアランソンには普通に命中して微ダメ。
ラッシュへの攻撃は盾の防御力に阻まれる。
「ドワ2は【錬金術】の【打ち直し】で盾を復活させる」
【打ち直し】は破壊された武器や防具の【耐久度】を回復させる【錬金術】だ。
完全復活とは言わないが、これでFは【完全に身体を隠す遮蔽】に収まる事になる。
次の攻撃でまた壊されるだろうけど、それでも数回分は遮蔽を作れる。
「……っち」
舌打ちをするおけさん。
それくらい、4レベル【黒魔法】を操るシュトレゼンの前にシナリオボスを置いておくのは危険である。
「じゃあ、1順目ラスト。シュトレゼン」
「…………」
おけさんが選択したのは【赤錆の呪い】を2に。
防具の防御点と【耐久力】の両方にダメージを与える【黒魔法】だ。
「はい、直した2の盾はまた壊れた」
「いたちごっこですね」
「そういうのもいいっすよ」
一進一退の攻防ととるか、いたちごっこととるかはその人次第。
ただまあ、リソースを奪い合うという意味では、意味は十分にあるのは事実。
じわじわと進行していく情勢が、傾いた瞬間に一気に駆け出して、そのまま決着にいたる。
そんな綺麗なラストバトルを演出するのを心がけたい。
「2巡目。アランソンは【行動回数】なし。ララーナは?」
「Fに通常攻撃です。外れ」
「3の盾狙った方がいいんじゃないっすかね」
「そっちは次のターンの頭でアランソンがヤルから」
「それじゃ、しつこくF狙いで行きます」
パーティ内の役割分担も出来てきた。
連携さえちゃんとできていれば、もう一枚の盾を順当に潰して、そのまま普通に押し切るのも容易いだろう。
「それじゃあ、Fはアランソンに攻撃」
「ラッシュが受けるっす」
「ダメージ40点」
「盾の防御点で弾いて……と、ちょっと痛くなってきたっすね」
「回復要員が欲しいねぇ」
いつもならゴルンの【錬金術】で回復させていたかな。
まあ、次の順番でシュトレゼンの【黒魔法】で回復も可能だ。
【黒魔法】故に、代償なんかも必要だけど。
「次、ラッシュは防御専念だったね。それならドワーフ1~4。ドワ2は【錬金術】で盾回復」
「くっそ。しぶとい」
「【錬金術】使った後に、となりの3から素材を受け取っている」
ここで、リソースが削られている事を示してやる。
何度も同じ攻防が続くとプレイヤーの方も飽きてしまうしね。
「つまり?」
「つまり?」
「つまり、後何回割ればいい?」
ストレートに聞いてくるエルフ師匠。
まあ、別に答えてもいいか。
「渡された素材が最後なら後2回ですね」
「つまり、最大6回?」
「そこはノーコメントで」
ちなみに、予定では1と4はそれぞれ1回分の【錬金術】素材を持っている事にしている。
とは言え、必要に応じて増減はするだろう。
ダレた戦闘をしてもしようがないし、かと言って簡単すぎてもつまらない。
「それじゃ、1と4は1順目と同じく攻撃……」
アランソンとラッシュに微量のダメージ。
その後、シュトレゼンが【黒魔法】で2の盾を破壊して、次順で【錬金術】で2が盾を直す。
という感じに、同じような事を繰り返して1ターン目は終了。
結局、ドワーフF側は【錬金術】素材は残2にまで削られ。
代わりにプレイヤー側はラッシュの【耐久力】が半減した。
「【行動回数】余ってる人いない? それじゃ、1ターン目は終了」
そんな訳で、大きく状況が動くであろう2ターン目。
エルフ師匠はふんすふんすと鼻息を荒くして。
ラッシュ君もむにむにさんも、ダイスを握る手に力が入る。
にんまり笑うおけさんは、まあいつもの事として。
短期決戦を挑む一同に、ゲームマスターとして、果たしてどう対処したものか……。
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