セッション5 雪の湯けむり温泉殺人事件。ドワーフの里で冒険者は見た!(9)
「え~さて。今回は本当に難しい事件でした~」
「お、出たでた。スポットライト準備っすね」
「ちゃーららちゃーららちゃらららー」
「…………」
わいわいと楽しそうにする一同。
こういうノリのいい風景を見ると、多少の無理を通しても、シナリオ変更した甲斐があったというものだ。
「『それで、推理とやらを伺いたいな』と、族長が言う」
「んふふ~。まあ、お慌てになられずに~。これはひじょーに、複雑な事件でしたぁ~」
エルフ師匠は似てないモノマネを始める。
独演場になっているけどいいのかこれ。
「よ、千両役者」
「わーわーぱちぱち~」
「…………」
なんか、他のメンツも変なノリになっている。
うん、ここで正気に戻すのも良くないな。
このまま勢いで行ってしまおう。
「まず~。そうですねぇ……あ、モノマネめんどうだから普通に言うね。この事件は、族長を陥れるために計画された事件です」
「族長? ゴルンへの恨みとかでは無いんですか?」
首を傾げるむにむにさん。
まあ確かに、族長を陥れる事が目的、というのは考えてはいなかった。
「『具体的に願おうか』と、ゴルン父。族長追い落としと言われて一斉に視線が集まったからね」
「犯人は、ゴルンを殺して【ドワーフ王の斧】を奪い、
「『なぜ?』と族長」
「何故なら。【石化】は強力な【呪い】によるもので。解除するためには別のドワーフに【石化】を【転呪】するしか方法が無いからでぇす。そうですね、オババさま」
エルフ師匠はちっかちっかと。物凄いわざとらしい、下手くそなウインクをこちらに向ける。
つまりはまあ、合わせてくれということだろう。
「『まあ、そうだね。その通りだ』と、オババは察したように合わせてくれるよ」
エルフ師匠はいよいよ勢いづく。
「『そこで後は簡単ですぅ。族長派の誰かを捕まえて【石化】させてしまうか。なんなら行方不明にするだけでもいい。そうすれば、ケチはいくらでも付けられます。なにしろ、完品の【ドワーフ王の斧】は確かにここにあるのですから。確実に、誰か一人は犠牲になっている。そのはずだと、ね。ええ、そのように画策したの、そう。貴方ですぅ』と、えっと反族長派の……Fか。Fに言うと」
おお、相当無理筋飛ばして来たな。
「『何をそんな、バカな言いがかりを……』。なんか推理ドラマの悪役みたいだ」
「それっぽくていいっすね」
「とんでもない言いがかりを通すのがまた、連続ドラマの醍醐味ですよね」
本当に、ここからどんな無理筋を通す気なんだろうかね、エルフ師匠は。
考えられるのは、当事者しか知り得ない事を自白させる事だけど。
そうなると、シナリオギミックである、【石化】の【転呪】先をゴルンの死体にしたのを自白させる訳か。
うーん。そう言えば、【転呪】にはドワーフ王の末裔の血が必要で、その提供者が【転呪】の対象になる。って事には触れてないな、エルフ師匠。
その辺から攻めていく感じなのかね?
「『果たして言いがかりでしょうかぁ。貴方がゴルンを背後から襲い、【ドワーフ王の斧】を奪い、
ふむ、どうしたものか。
エルフ師匠はかなりあからさまに失言を狙っている。
こちらとしても、Fから失言を出してラストバトル。という流れが綺麗に終わる。
しかし、このままエルフ師匠の想定通りの流れにするのも、不自然というか、都合が良すぎる、か。
「それじゃ、エルフ師匠。【知力】でロールして」
「【
【
これでグリフォンに騎乗していた訳なんだが。
確かレベルは3だったか。アランソンの【知力】の低さを考えると丁度いいか。
「今回に限りオッケーです」
こう言った裁量は、この時限りと釘を刺しておかないとならない。
その辺、エルフ師匠やおけさんは理解しているけれど、別の機会でも同じ裁量がされると主張されると色々困る。
これから、俺やエルフ師匠のゲームマスターでTRPGをやるとも限らない。
その時に見ず知らずのゲームマスターに迷惑をかけるという訳にもいかないだろう。
「りょうかい。……っと、成功」
ころころと、振ったD20の出目は9。
ぎりぎりに成功であった。
「それじゃこっちも……うん。よし」
マスタースクリーンの影で俺もダイスを振る。
別に意味はないロール。
何を目的にしている訳でもなければ、出目が何でも構わない。
なお、出た目は19だった。
20だったらちょっと考えた。
「じゃあ、Fはせせら笑うように言う『大体お前は何も分かっていないではないか。後で後でというが、その時にすれば良いだろう。事実、ゴルンはドワーフ王の末裔だ』」
「きらりーん」
俺のトスに、エルフ師匠がわざわざ擬音をつけて眼鏡を光らせる。
「『皆さぁん。今のお聞きになりましたね。なりましたね? ええ、族長さん。この通りですぅ。この人が犯人ですぅ』」
「族長は『いやさっぱり分からん』と言っている。他の人もあまり分かっていない感じ」
なお、ラッシュ君もむにむにさんも、あまり良く分かっていない顔をしている。
まあ確かに、シナリオギミック知らないと、訳が分からんよな。
「オババは?」
「オババはハッとした顔をしている」
同様に、おけさんもにんまりと笑っている。
いや、おけさんがオババという訳ではないけど。
「『では族長さぁん。貴方はぁ、【転呪】にドワーフ王の末裔の血が必要だと言う事を知っていましたかぁ?』」
「『いや、初耳だが』」
「『ではゴルンのお父さんは?』」
「『エングから聞いた事はあるな』で、Fがかぶせるように『ワシもエングから聞いたのだ!』と」
「『それでは、【転呪】の対象が、血の提供者である事も?』」
ふーむ、と少し考える。
まあ勿論、本来のシナリオだとゴルン父は知っていて、Fの方は知らないんだが。
「二人揃って『それもエングに聞いた』と。ゴルン父は『だから、ドワーフ王の復活には自分の血を使うつもりだった』と付け加えるね」
「おお、わりかし立派っすね」
「ゴルンのお父様ですからね」
なぜか鼻高々のむにむにさんであった。
それはともかく。
「『だから、Fが犯人なんですよぉ。【転呪】の対象者が血を提供した者である事を知っているならば、ゴルンの血を使ったのだろう。という発想は出てこない。なーぜーなーらー。ゴルンは【石化】していないからです!』」
「『それがどう、犯人に結びつくと言うんだ?』と、族長とゴルン父は興味を持った」
「『ですが、犯人だけは知っていまぁす。犯人だけは結びつくんですよぉ。【石化】していないゴルンと【転呪】が。何しろ自分でやったのですから』」
おお、と一同身を乗り出してエルフ師匠の独演会を聞く。
ゲームマスター的にはガバガバ理論もいいところだけど、まあコロンボなんかもそんな感じだ。
「『その方法を知っているのは。後になって気付いた我々と、犯人だけです。だからF。貴方が犯人でぇす』」
「ちなみに、その方法ってのは何すか?」
「前に雑談で言ったじゃん。『死体に【状態変化】をかけても何もおこらない』って」
ラッシュ君の問にドヤ顔で答えるエルフ師匠。
考えたのは俺なんだけど。
気付いたのはおけさんなんだけど。
まあ別に、俺が褒められたい訳ではないけど。
おけさんも、目立ちたいなら自分で独演会始めただろうし。
「……ねえ?」
「…………?」
アイコンタクトをするが、何を言っているのかみたいな顔をされる。
やっぱり伝えたい事があるなら口で言わないとダメだな。
「つまり、犯人はゴルンを殺して、その血で【転呪】を行ったという事ですね」
「派閥にドワーフ王の末裔がいないフォローになるし。むしろ他派閥に容疑を押し付ける事が出来る。という事っすね」
「『その通り。その通りですぅ。さぁFさん。今が年貢の収め時ですよぉ』」
まあなんか、シラを切り通せそうな気もするけど。
むにむにさんとラッシュ君は感心しているし、このライブ感もTRPGセッションというもので。
まあ、後でリプレイにして他人のツッコミを受けたりもしないしないし。
「『ええい! かくなる上は! 者共であえ! であえぃ!』とFが言うと、物陰から完全武装のドワーフが出てくる」
パタンパタンとダンジョンフロアタイルを並べて、その上にメタルフィギュアを設置する。
さて、皆が冷静になる前に、ラストバトルでケリをつけようか。
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