セッション5 雪の湯けむり温泉殺人事件。ドワーフの里で冒険者は見た!(8)
推理系シナリオで困るのは、間違った結論を決め打ちされた時だ。
もちろん、決め打ちされてもそのままに。
当初のシナリオどおりの犯人、ギミックで進めていくのが基本路線ではある。
ただ、TRPGというのは、いかにプレイヤーに楽しく遊んでもらえるか。というのが一番重要な遊びでもある。
決め打ちしました、大外れでした。では、徒労感が強くなってしまう。
しかし、シナリオを変更した場合はどうなるか。
そう。そんな時は、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しなければならない。
それはそれで大変な話であって。
うーむ、なんとも悩ましい。
「じゃ、Fを捕まえに行きます」
「お、おう……」
困惑する俺。
どうしよう、Fが犯人という事にするか。それとも元のシナリオどおりで行くか……。
「お、困ってるっすね」
「ふっふっふー。鋭い推理にドワさんも参ってしまっているようだね。今、マスタースクリーンの向こう側では、シナリオの組み換えが行われている頃だろうて」
「……うーむ。じゃあ、Fの所に行くと」
まあ、しゃあない。
基本はシナリオ通り。
後は反応を見つつ、臨機応変対応。
つまりはいきあたりばったりだ。
「フーバ……Fは反族長派。とにかく、族長へのイヤガラセがしたくてたまらない奴」
「いるっすね。そういうの。政治カテゴリなんかでよく見かける奴」
ラッシュ君にしては珍しい、吐き捨てるような発言。
何か嫌な事でもあったらしい。
まあ、政治カテゴリ関連は近寄らないに限るというのが、今まで生きてきた実感だ。
「復古派というよりは、単独の反族長派という感じだね。活動場所も、少し離れた自分達のテリトリーで、同じ主張の者達で固まっている」
「ますます怪しい」
「テロリスト的なにおいがしますね」
「組織的犯行の可能性がぷんぷんするっす」
「…………」
疑いを深める一同であった。
さーて。本格的にどうしたものか。
そう思っていると。
ちょんちょん。
と膝を小さく叩かれる。
見下ろすと、膝の上に黄色い付箋が貼ってある。
座った場所から考えるに、エルフ師匠の仕業っぽい。
『シナリオブレイクしていいよね?』
付箋にはそう書いてある。
『いいよね』かい。
お伺いではなくて、承諾願いかい。
まったくもってエルフ師匠らしい。
エルフ師匠がゲームマスターをする時。ガチガチ一本道にシナリオを固めるのは、自分がプレイヤーの時に自由過ぎるからなのではかなろうか。
そんな気がしてならない。
『ブレイクって、どんな?』
『F:黒幕。E:騙されて石化解除。転呪のギミックはおけさんから聞いてる』
メモを返すとすぐに付箋が戻ってくる。
最初から用意してたなこれは。
しかもおけさんも共犯か。
気付かない間にメモの交換がされていたらしい。
「じゃあ、君たちはFのテリトリーに向かうワケだけど」
「念の為フル装備で行くっす。戦闘がある事前提で」
「挑発をして、あえて戦闘起こさせた方がいいかもしれませんね。一度捕らえた後にゆっくり証拠を探せばいいんです」
「やぁ、むにむにさんは過激だなぁ」
「そんな事無いですよぉ」
メモのやり取りをする間にも、卓の上ではシナリオが進行していく。
あまり、迷っているワケにも行くまい。
最悪、いくらか辻褄が合わなくなってもボスモンスター出して倒せば格好がつくもんだ。
『いいですよ。やってみて下さい』
『りょ』
メモを交換して、それからお互いアイコンタクト。
決めた以上は進むだけ、だ。
「では、フーバが陣取る反族長派閥の部屋だ。派閥のリーダーであるフーバと、その左右にドワーフが一人ずつ。格好は普段着に斧を腰から下げているだけ。部屋は薄暗くてタバコの煙が充満していて、何か剣呑な雰囲気に包まれている」
「護衛が二人だけって事は無いですよね。【種族特徴(エルフ)】の聞き耳で何か分かりますか?」
「いいよ。振ってみて」
「はい……成功です」
「それじゃ、奥の物陰にさらに三人隠れている。この三人は鎧もつけた完全武装だね」
ロールの結果に、やっぱりという顔をするむにむにさん。
本来のシナリオでは、フーバはゴルン殺害事件には関わっていない。
ただし、この混乱に乗じて族長派にダメージを与えたいと思っている。
ここでは、プレイヤーに対して、『族長を犯人という事にでっち上げろ』と持ちかけてくる。
隠しておいた手勢は、その時に脅すために用意したものだ。
交渉決裂で手勢&鎧を着ていないフーバとお付き2名と戦闘。
プレイヤー勝利で、フーバは引っ立てられて投獄される。
ついでに、本来シナリオのネタバレをしてしまうと。
ゴルン殺害は復古派のゴルンの父デイル。
殺害理由は、『安全な石化解除方法の実験のため』。
現状、実質解除不可能な【石化】を【転呪】するしか無い状況ではあるのだけれども。
以前、雑談で出た通り、F3システムだと死体に状態異常はかからない。
【石化】も【呪い】もだ。
つまり、【転呪】の対象者が【死亡】状態にある場合、【呪い】は対象者に【転呪】された上で無効化される、という事になる。
ゴルンへの説明は、実験成功後でいいだろうというドワーフ的短絡思考により、デイルはエングを説得して実験を実行。
問題無く【転呪】には成功するも、【レジェンダリー・ゴルゴーン】の【呪い】の力は強く、【呪い】の魔力が実体化(【ゴルゴーン】相当のモンスター)。
エングはその時点で逃走。
デイルは単独で【呪い】と戦闘。ようやく倒すも、人の気配を感じ、【斧】を持って逃走。
通りがかりの見張りは、殺害にも戦闘にも気付かず通り過ぎる。
後ほど、エングへの嫌がらせのために【斧】をエングの自室に設置。
という流れ。
次の調査で【石化】した者がいない事を情報公開。
オババが大げさに「【転呪】の対象になった者は、つまりは【呪い】の魔法を受けたのと同じ事だ。相当な準備やマジックアイテムで【呪い】を阻害しない限りはどうにもならない」みたいな露骨な事を言わせれば、おけさんがエルフ師匠は気付くだろうし。
気付かなかったらオババを使ってネタバラシでもいい。
カラクリをエングに突きつけると、事実を話しはじめ。
事が明るみになったデイルは自らの行為を侘びながら、自分自身の血でドワーフ王を復活させ、自決。
【呪い】が実体化してプレイヤーキャラクターに襲いかかって来るので撃退してエンド。
後は復活したドワーフ王と、ドワーフ達によって無事に船が作られて、めでたしめでたし。
そういう流れだ。
さて、エルフ師匠はどういう風にブレイクするつもりか。
「『丁度良かった。わしもお前らと話したい事があったんだ』とフーバが言う」
「ちょっとストップ。その前に、レンくんは一緒にいるって事でいい?」
エルフ師匠が手を上げる。
「まあ、いる事にしていいですよ」
「じゃ、レンくんに言います。『関係者を集めて来てくれ。犯人が分かった』」
ドヤァと。自信たっぷりに言うエルフ師匠。
大丈夫か?
本当に大丈夫か?
エルフ師匠の得意顔を見ていると、なんだかとっても不安になる。
「推理ドラマみたいですね」
「関係者を集めた所で、舞台が暗転してスポットライトで、『さ~てみなさん。今回の事件は本当に難しい事件でした~』ってやつっすね」
「そのドラマ見てました。再放送で」
俺は本放送だったなぁ……。
まあ、それはともかく。
一つ気になった事がある。
エルフ師匠の持ちキャラだ。
「アランソンが?」
「うん、アランソンが」
「頭いいキャラだっけ?」
「【知力】8だけど?」
「……まあいいか」
【知力】値でプレイヤーキャラクターの行動を制限しちゃいけないと、どのTRPGの本にも書いてあるし。
「それじゃあ、レンくんによって関係者全員が集められた」
さて、藪をつついて何が出るか。
高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変対応の準備をしよう。
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