セッション5 雪の湯けむり温泉殺人事件。ドワーフの里で冒険者は見た!(7)

「という事で状況をまとめよう」

「必要無いでしょ」

「まあ、確実ですよね」

「これは言い訳出来ないっすよね」

「…………」


 いやまあ、確かにその通り。

 不自然に籠城をする容疑者。

 踏み込んでみれば、盗まれた被害品が完品で隠匿されている。


 これで犯人ではないと言うのは無理な話だろう。


「『待て。俺の話を聞け!』とエングは言うけど」

「言い訳は牢屋で聞く」

「ここでなきゃ話せない、なんて事は無いですからね」

「さっさと拘束するっす」


 まあ、こうなるよね。

 本来のシナリオでは、ここでエングの情報開示だったけど。

 まあ、牢屋の中でも変わらんし、ここは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応だ。


「じゃあ。多少の抵抗の末、エングは君たちに捕らえられて、牢屋に入れられる」

「おら、キリキリ歩け」


 等と言いつつ、エルフ師匠はアランソンのメタルフィギュアで、エングのメタルフィギュアに蹴りを入れる。

 やめようNPC虐待。


 まあ、そんな事はどうでもいい。


「えっと、牢屋の中でエングが自白したのは以下の通り……」


 という事で情報開示。


 1:エングのアリバイはオババと一緒にいた

 2:【斧】は事件後、石化解除された状態でエングの部屋に投げ込まれていた。

 3:【斧】もある事だし、自力でドワーフ王を復活させて、船を作ってもらって自分の手柄にしたかった。

 4:【斧】がどうして自室にあったのかは分からないし興味もない。


「こんな所ですね」

「もうちょっと厳しく尋問したら吐くんじゃない?」


 指の爪に何かを刺す仕草をしながらエルフ師匠が言う。

 うんうんと頷くおけさん。

 何言ってんだこの人、という顔をするむにむにさんとラッシュ君。

 この辺は世代差だなぁ。


「拷問は禁止です」

「ちぇー」

「当たり前でしょうが」

「最近だと、拷問自体あまり意味が無いって話もありますね」

「聞き手の言わせたい答えを言わせるだけの行為になってるってやつっすね」

「そんな訳でゲームマスター権限で拷問は禁止です」


 まあ、この辺はきっちり行こうと思う。

 TRPGという遊び、悪ノリしようと思えばどこまでも行ってしまうという危険もある。


 ローフルグッドじゃないんだから。

 みたいな決り文句でどんどんやる事がエスカレートして、野盗みたいな事を延々続けるだけのパーティが誕生する。

 なんて事も以前はあった。

 それはそれで楽しいけれど、やっぱりそういう時のメンツは選びたい。


 むにむにさんだとかの、年少の女性がいる時は、やっぱりそういうのは避けておきたい。

 なんだかんだで俺もいい歳のおじさんなので、そこはしっかりしておこうと思う。


「まあ、何にせよ冤罪を主張する訳っすよね。とりあえず【ドワーフ王の斧】は回収するとして、これからの方針を決めましょか」

「エングはコトが済むまで牢屋ですよね」

「そだね。それで情報をまとめると……どんな感じ?」


 考えるような顔をして、エルフ師匠はむにむにさんに全部投げる。

 付箋やらなんやらを貼り付けたボール紙の表を見て、うーんとうなるむにむにさん。


「ゴルン殺害の強い動機がある者は無し。アリバイは全員身内の証言のみ。族長派は裏は取れそう。ドワーフ王を復活させる強い動機があるのはエングのみ。【斧】を持っていたのもエング。【斧】の解呪が出来るのはエングとオババ……」

「こいつじゃん」


 ひとしきりむにむにさんの言葉を聞いてから、きっぱりと言い切るエルフ師匠。

 まあ、現時点で一番怪しいのはこいつなのは間違いない。


「後、Fとは面接まだですね」

「それともうひとつ。『だから、こうなる前にコトを収めたかったんじゃ』と、オババが面接にやってくる」


 さて、ようやく情報開示の時間だ。


「そう言えば、オババが言いたいことがあるって言ってましたね」

「そうだね。オババとしてはその辺を教えるのと、やっぱり前回の提案を言いに来た感じ」

「提案って。全部無かった事にしようぜ。ってやつっすか」

「まあ、それは後で考えるとして。情報開示から先に」


 と言う事で情報開示。

 これまで無駄に長かった。


 1:ドワーフ王と【ドワーフ王の斧】にかかった【石化】は単純な石化ではなく【呪い】によるもの

 2:【解呪】には超高レベル【白魔法】と様々な準備が必要。また、それを行える【白魔法】の使い手もいない。

 3:【転呪】であればオババが可能。オババがタネを作ればエングや他の【黒魔法】の使い手でも可能。


「ここまでは知ってる」

「知ってるというか、予想はつきましたよね」


 まあ、この辺の情報は前に流していたからね。

 問題はここから。


 4:【転呪】には触媒としてドワーフ王の血筋の者の血液が必要。


「あー。それでゴルンが狙われたってワケっすか」

「じゃ、ドワーフ王の血筋が身内にいないヤツが犯人。族長だ」

「族長派にはゴルンのいとこがいますよ」

「んー。復古派は復活させたいだけで派閥バラバラなんだっけ。それじゃ、復活させたくて血筋の無い奴……こいつじゃん」


 またしてもエングが該当してしまう。


「やっぱこいつが下手人でしょ」

「状況証拠が揃いすぎていますね」

「素直に謝ったら、他の人たちの説得やるっすよ」

「…………」


 確信が深まってしまった。

 いやまあ、違うんだけどね。


 という事で最後の情報開示。


 5:【転呪】を行うと、血の提供者に【呪い】が移る。


「んー。って事は?」

「ゴルンの血を使ったら、ゴルンが石化してなきゃおかしい……という事ですね」

「石化してた?」

「してないですね」

「じゃ、誰かが石化してるって事か」


 うーん。と腕を組んで考えはじめる一同。

 ふふふ、ここはシナリオギミックの部分だから、ちょっと悩んで貰えるとゲームマスターとしては嬉しい限り。


「……あ……」


 と、思っていると。おけさんがぼそりと声を上げる。

 やばい。

 気付かれた。


 思った瞬間視線を合わせる。

 アイコンタクト。

 視線で黙っていてくれと伝えると、おけさんもにんまり笑って応答する。

 小さく『貸しだからね』とおけさんの唇が動いていた。


「おけさん、どうしました?」

「ああ、ちょっとこの後の予定を思い出しただけ。なんでも無いよ」

「予定あるんですか? 時間大丈夫ですか?」

「明日の話だからね。今日は一日フリー」

「それなら良かったです」


 ほっと胸を撫で下ろすむにむにさん。

 しかし、おけさんの誤魔化しも手慣れたもんで感心するしかない。

 これも日頃のロールプレイの賜物……と言いたい所だけど、おけさんはロールプレイしてないしな。

 普段から、そういう受け答えをやる仕事だったりするのだろうか。


 まあ、深く詮索するのはマナー違反だ。


「そう言うワケで、オババは【石化】を【転呪】された人間がいるはずだから探し出して欲しいと。それで結局犯人も分かるだろうと言っているよ」

「オババは犯人を捕まえるつもりは無いんですよね」

「そうだね。【石化】した人をなんとかしてやりたい。ってのがオババの目的。このままだと闇から闇に葬られて、永遠に【石化】。という事になっちゃうからね」

「いい人っすねぇ。ひ孫はオババを見習うべき」

「一族の長老だからねぇ。それで、【石化】した人を探しに行くでオーケー?」

「はい、ちょっと待った」


 シナリオを進行しようとする俺を、エルフ師匠はビシッと指差し止めて言う。


「くっくっく。さすがドワさん。中々のマスタリングだったが、この名探偵明知小五郎には通用しなかったようだねぇ」


 棒読みで、そんな事まで言い出すエルフ師匠。

 果たして何に気付いたというのか。


「それで何だってんですか」

「うん、一人尋問してなかったじゃん。えっと、Fだっけか。名前忘れたけど」

「フーバね」

「そうそうF。こいつの尋問が先。それが正解ルートと見た」


 全然、正解ルートじゃないんだけどなぁ……。


「なるほど、新しい情報を与える事で、真犯人から目を逸らせる高度なマスタリングテクニックですね!」

「それに気付くとは。エルフさん……やはり天才か……」

「そうだろうそうだろう。もっと褒め称えてくれたまへ」


 鼻高々のエルフ師匠と、それを讃えるラッシュ君とむにむにさん。

 こいつはちょっと、困った事になったなぁ。

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