セッション2-11 粉塵爆発大成功
「と言う事で作戦タイム」
手を交差させてTマークを作るエルフ師匠。
勿論、ここがハイライトだ。じっくり考えて欲しい。
「あと、駐留所のマップ」
「はいはい。準備してますよ。敵は入り口を中心にぐるっと、こんな感じで柵を越えようとしていて……」
コピー用紙4枚を重ねて作ったマップに凸マークを書き込んで説明する。
折角作った力作のマップである。ここで思う存分活用したい。
「それを薄く広く布陣した聖都軍が侵入を阻止している感じ」
「縮尺」
「これくらいで10メートル」
「意外と広いですね、駐留所」
「運動場なんてこんなもんだよ」
「普通の運動場で一周200メートルくらいっすからね」
マップを前にプレイヤー一同は腕を組む。
さて、しっかり作戦を考えてもらいたい。
「やっぱり、出来るだけ沢山の敵を巻き込みたいですよね」
「マップ兵器の醍醐味っすね」
「頑張っている聖都軍が、むしろ邪魔」
「…………」
おけさんがルールブックを開いて魔法を示す。
2レベルの【黒魔法】、【狂乱】だ。
「それ」
びしりとエルフ師匠も指を立てる。
【狂乱】の魔法は横一列の対象を【狂乱】状態に変える魔法だ。
【狂乱】状態は、【攻撃】判定とダメージ値にプラスがつく代わり、【回避】判定にマイナスがつき、【知的行動】がとれなくなる。
味方前衛を【狂乱】にする事で攻撃力を増したり、敵の【知的行動】を阻害したりするのに使う。
他にも、群衆を暴徒化させたりとか、色々と悪い事に使う人もいる。
そして、おけさんはそんな悪い事を好んでするプレイヤーだった。
「これで敵を【狂乱】状態にさせて、強行突破させるわけですね」
「そして【白魔法】の【簡易幻影】でエレンデルの紋章を浮かび上がらせる」
【簡易幻影】はその名の通り、簡単な形状の幻影を出現させる【白魔法】だ。
音や匂いは出ない。
戦場での旗印の代わりとか、幻影で簡単な指示をするとか、そう言う風に使う。
フレーバー的に使われても、実プレイではあまり使われない魔法の代表格だったりもする。
「『エレンデルはここにいるぞ!』って大声で叫んで。それでサイロに敵を集めるんですね」
「そして爆発。井戸に飛び込む」
「ハリウッド映画みたいな感じですね」
いかにもな感じの絵面が浮かぶ。
冒険者一行が、慌て顔で井戸に飛び込み、その背後でサイロが炎を上げている。
そんな光景。
本日のハイライトとしては十分に派手な光景だ。
「じゃ、それで」
「エレンデル姫の横にはラッシュが付きます。【ファランクス】でガードします」
「では、追撃してくるハーピーはララーナと……」
「ゴルンでいいんじゃない?」
「では、ララーナとゴルンで少し留めて、それからわざとらしく通します」
「…………」
マップに直接シュトレゼンの移動経路を描くおけさん。
さて、方針は決まった。
「それじゃあ、作戦開始でいいかな?」
「おっけーです」
ぐっ、とダイスを握るむにむにさん。
「では、ハーピー5匹が接敵。戦闘順はララーナ、ゴルン、ハーピーの順か」
「ハーピーよりも速いドワーフがいるらしい」
「やっぱりラッシュが遅いワケでは無いんすよ、絶対」
ゲームシステム上、ドワーフが素早くなるんだよなぁ。このゲーム。
「手近なハーピーに【弓使い】で攻撃。命中しました」
「ハーピーは……避けた」
「足止め目的ですからね!」
その割には悔しそうなむにむにさんである。
「ゴルンの行動も、むにむにさんが決めていいよ」
「えっと、キャラクターシート見ますね。うーん、武器で攻撃より【錬金術】の方がいいでしょうか……」
「いいんじゃない? 使うのはドワさんのお金だし」
さらっと酷い事を言うエルフ師匠。
「そう言われると使いづらくなりますよ」
「そう?」
わたしは気にしないけど、とエルフ師匠。
むにむにさんは心優しい中学生なんですから。
「斧って投げられないんですか?」
「ロードス島では投げていた件」
「アニメ版だけね」
「原作者の知らない魔法が出るアニメ」
ガーゴイルをまとめてディスペルする魔法は結局実装されたんだっけ?
いや違う。違わないけど、そんな話をしている場合ではない。
「斧を投げるとしたら、【投擲】スキルを使うしか無いね」
「冒険者の基本スキルですね。それなら0レベルか……」
「空を飛んでいる相手に斧で攻撃するとしたら?」
「【攻撃】判定にマイナスがつくね。後、空を飛んでいると前衛後衛どちらにも攻撃出来る」
「飛行キャラつえー」
ラッシュ君が呟いた。
そうなのだ。
飛行クリーチャーは低レベルでも強敵で、飛行が出来るマジックアイテムはそれだけ貴重なアイテムなのだ。
【飛行マント】とか【空飛ぶ絨毯】は、一流冒険者だけが持てるアイテム。みたいな扱いがされていた。
「外れてもいいです斧で攻撃します」
「では、マイナス補正がこれだけ」
「……命中。ぎりぎり」
「そして【回避】成功」
「……うむう……」
微妙顔のむにむにさん。
攻撃が外れまくるのは、プレイヤー的にはストレスがたまる。
とは言え、そうそうバンバン当てさせてあげるのもゲームが成り立たない。
その辺はやっぱりゲームマスターの腕だろう。
「まあ、時間稼ぎだから……ハーピーの攻撃。ゴルンに3体、ララーナに2体が……それぞれ1体だけはずれ」
「それじゃ、ララーナは【回避】します」
「ゴルンは堅い」
空を飛び圧倒的に有利なハーピーは、その分攻撃力を低く設定されている。
まともに食らっても、ゴルンの装甲を通す事は出来ないだろう。
「では、ゴルンは受けます。ララーナの【回避】は成功」
「それじゃ、1順目ダメージはなし、と」
「2巡目攻撃。命中です」
回答が早い。
戦闘になると血気盛んな所が出てくるむにむにさんである。
「行動回数無し。回避できない」
「ダメージ出します。14点」
「瀕死だけど生きてる」
なお、F3では瀕死であっても、判定値は変わらない。
この辺は、ゲーム的な都合で仕方ない。
とあるTRPGシステムでは、ダメージを受けると各能力値が減少する、ってものがあったんだけれども。戦闘の煩雑さに公式リプレイで「雑魚敵を複数出すと処理しきれない」と言われていた。
史上最弱(物理)と言われたシステムである。
閑話休題。
「じゃあ、ゴルンの攻撃でトドメ……」
「むにむにさん。足止めでいいんすよ」
完全戦闘モードに入っていたむにむにさんを、ラッシュ君がいさめる。
「そうでした。えっと、それじゃあ別のハーピーに攻撃ですね……はずれ」
「じゃあ、2ラウンド目。エレンデルとラッシュは目的地到着。シュトレゼンは次ラウンド」
「では【白魔法】【かっこいいポーズ】」
エルフ師匠の宣言。
違う、それは光魔法だ。
大体同じだけど。
「【簡易幻影】ですね」
「うん」
「なんか言います?」
「セリフ考えるから、戦闘進めてて」
「了解です。では、通常通りララーナ」
水を向けると首を傾げるむにむにさん。
「ここで倒してしまっていいですか?」
「はっぱりマップ兵器を使うなら、出来るだけ多くを巻き込みたい」
答えるラッシュ君の気持ちも分かる。
「経験値は変わらないぞ」
「気分の問題っす」
「では、頑張ったけど突破された体裁で。とりあえず攻撃。命中です」
と、無傷のハーピーにダメージを与えていくむにむにさん。
マップ兵器前には、ダメージ調整は必須だよね。
「ゴルンは様子見で」
「ララーナが攻撃されたら身を挺してかばう感じでいいかな」
「やだ、このドワーフイケメン……」
俺の言葉にラッシュ君が乙女チックな仕草で答える。
やめよう。大の男がやるとキモチワルいだけだ。
むにむにさんにやられても別な意味で困るけど。
「異種族間恋愛の波動がする……」
「エルフ師匠はバカな事言ってないでセリフを考える」
「うん」
素直にメモにセリフを書き出すエルフ師匠。
実は割とアドリブが効かないタイプの人なのだ。
「では、ハーピー移動。次はラッシュ」
「【ファランクス】で姫様をガード」
「やだこの【戦士】イケメン……」
「ドワさんもやめようよ」
結構楽しいなぁ、こういうムーブ。
「では3ラウンド目でよろしいか」
「りょ」
「セリフできた」
「大丈夫です」
「…………」
大丈夫らしい。
「では3ラウンド目」
「【狂乱】」
すかさず、おけさんの宣言。
既に行動順が無茶苦茶になっている。
まあいいか、TRPGはこういう時に融通を効かせるもんだ。
「じゃあ、包囲してくる闇の勢力の軍勢が、勢い込んで突っ込んでくる」
「【魔力】と【耐久力】が続く限り【狂乱】」
【狂乱】の代償は【耐久力】の消費だ。むしろ、【魔力】以上に【耐久力】を消費する。
【耐久力】が低めの【魔法使い】であるシュトレゼンは何発もは撃てなかったりもする。
「じゃ、ムービーシーン発動。エレンデル姫の演説」
そしてエルフ師匠が宣言する。
「『見よ、我が紋章を! エレンデルはここにいる! 逃げる事も隠れる事も無い! 我が身を護る神の威光を恐れぬ者よ! 疾く来たりてこの首を狙うがいい! そして神の雷に撃たれるが良い!』」
朗々と響く声。
ボイストレーニングでもしているのか、エルフ師匠はこういう時に別人のように綺麗な声でハキハキ喋る。
ゲームマスターをしている時も、ここまででは無いけれど、妙に目立って聞き取りやすい声を出す。
普段の小声のボソボソ喋りとは大違いだ。
「朗々と響くエレンデルの声。闇の勢力のモンスター達が、応えるように咆哮を上げて走り出す。聖都軍兵士の槍が肩や腹に刺さるも気にする様子も無く、サイロに向かって全力で殺到する」
「井戸に飛び込む」
「逃げるし隠れるんすね」
「闇の魔物に何かを約束した覚えは無いし」
冒険者としてはいい事だけど、姫様としてはどうなんだろうかそれは。
「それでは、【突風】を……そう言えば、届きますか?」
「届くし。届かなかったら移動したって事でもいいや」
ムービーシーンなので判定は不要です。
多少以上、プレイヤーに有利なように動いていいだろう。
「では【突風】でサイロの小麦粉を巻き上げます」
「小麦粉が舞い上がり、サイロが白いベールに包まれる」
「頃合いを見計らって【ファイアブラスト】を」
「はい。それじゃ闇の勢力はこの辺」
マップ上で凸マークを動かす。
「もうちょい」
「3秒前」
「3秒前なんすか?」
「てきとう」
「適当っすねエルフさん」
エルフ師匠はゲームマスターやる時以外は適当なんだよラッシュ君。
「んで、今はこの辺」
「まだ早いですね」
「2秒前」
「ずいぶん長い2秒前っすね」
「2秒と宣言したら2秒」
TRPGにおいて、ゲームマスターがそう言ったら事実となる。
5時間くらいかけて、たった数秒の戦いだけをプレイする人たちもいた。
それもまた、TRPGの一つだ。
「そして包囲だ」
凸マークがマップのサイロを包囲する。
「【ファイアブラスト】」
むにむにさんが宣言する。
「【ファイアブラスト】」
エルフ師匠も宣言する。
「【ファイアブラスト】」
おけさんも宣言する。
【魔力】残ってたか。
「白くけぶるサイロに3つの【ファイアブラスト】が吸い込まれる。そして、一瞬の沈黙……」
と、俺は声を潜める。
それから、1、2の3とタイミングを図って。
そして全員で声を合わせる。
「「「「「どかーん!」」」」」
本日のセッションは大成功。
色々問題あったけど、大成功だった。
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