セッション2-10 駐留所と襲撃

「えーさて。なんやかんやで5日目。君たちは苦労の末に聖都軍駐留所に到着した」

「いやぁ、道中は大変でしたね」


 ノリよく答えるラッシュ君。

 行間を読んでくれるのも、良いプレイヤーの条件だ。


 もちろん、道中に戦闘だとかイベントかは発生してない。

 いや、あったかもしれないけれど、プレイ上では何もやっていない。

 後はもう、言ったもの勝ちの世界だ。


「行く先々で待ち受けていた数々の罠……アランソン、やはり恐ろしい男……」

「ラッシュの宿命のライバルに相応しい敵よ……っ!」

「まあ。そんなこんなで駐留所入り口だ。こんな感じの、高さ10メートルくらいの物見櫓つきの木製の門で、駐留所は柵で囲われている感じ」


 俺は手元の資料を見せながら情景を説明する。

 与太話をさせておくと、いつまでも続きそうだったし。


「門は扉なんかは無いけど、脚をつけた丸太が斜めに置いてあって、馬車とか馬が侵入しづらくしている。物見櫓から君たちの接近は気付いていたのか、10人くらいの騎士が出迎えてくる」


 俺の説明に頷く一同。

 やっぱり、イラスト資料があると分かりやすい。

 こういうのが、自宅プレイの良いところだ。


「敵対的な感じですか?」


 むにむにさんが質問してきた。


「まずは、エレンデル姫が顔を出すかなんだけど」

「出します」

「じゃあ有効的。出迎えの先頭には立派な髭のいかにも聖騎士って人がいる」

「騎士団長的なヤツっすね」

「そうだね。駐留所の司令官だね」


 本来は敵でした。

 外見ももっと若くて格好いい系だった。

 というか、アランソンの外見がそれだった。


 と言う事で、『立派な髭の聖騎士風』以外の外見は設定していない。

 髪の毛の色とかも考えていない。

 まあ、必要になった時に考えればいいか。

 その時には忘れずメモをしておこう。


 前に出たNPCの外見をメモし忘れて、次に出た時には別人になっていた。

 なんて事はゲームマスターをやっていたら、何度もある事だ。


 そして、何度もあるからと言って何度もやっていいものでも無い。

 避けられるものは出来るだけ避けなくてはいけないのだ。


「『出迎え大義である』と指揮官に」

「『姫君こそ、よくご無事で。ささ、こちらえ。まずは旅の疲れを流されたい』と、司令官は君たちを駐留所内に案内するよ」


 とりあえず、駐留所内の情景描写だ。

 そうでないと、折角用意した粉塵爆発のギミックがふいになる。


「『無用です。人数分の早馬と迎撃の準備を。闇の勢力はすぐそこまで迫っております』と、馬がいそうな所に向けて歩き出します」

「続きます『敵は騎士団副長のアランソン。兵力を集め、すぐにでもこちらに攻め入って来ます』」

「…………」


 エルフ師匠に続くラッシュ君とおけさん。

 そしてむにむにさんと言えば。


「そう言えば、何でアランソンはグリフォンに乗って攻撃してきたりはしなかったんでしょう」


 関係ない事を思い出す。

 特に理由等は無いです。だって、グリフォンライダーだって設定すら無かったんだし。

 敢えて言えばあれだ。


「グリフォン単体でも、このパーティ全滅出来る」


 エルフ師匠の解説の通り。

 だから、グリフォンを戦わせなかった。それだけです。


「……それは……今後の伏線だ!」

「ちみつなふくせんを期待」


 分かって言っているだろう、エルフ師匠。

 この件は、次にゲームマスターをやるエルフ師匠に全部投げる事にした。


「えー、さて。門のすぐ近くには円筒形のサイロ、こんな感じの奴ね。があって、そこに兵士達が小麦粉入れた麻袋を大八車で積み込んでいる。そのすぐ横には井戸。で、さらに奥側。右手は大きい建物で、まあ宿舎みたいな感じ。左手は運動場みたいになっている。奥の方には聖都に続く道の門が続いている」

「馬はどこにいるかな?」

「司令官が『こちらの奥に』と案内するね」


 駐留所の見取り図を取り出して説明。

 実はファンタジー系資料のコピーだったりする。

 うん、便利だ。持っててよかった資料集。


「で、馬房に向けて歩いていると『敵襲ー!』って見張り櫓から声がする」

「来た」

「戦闘準備ですか?」

「ここは逃げの一手っすね」

「『ここは任せて早く行け』って司令官が」

「『こいつを……倒してしまってもいいんだろう?』って司令官が」

「死亡フラグが乱立してます」


 実際そんな感じだしね。これからの展開。


「さて、遠くからは鬨の声。闇の勢力のモンスター達だ。駐留所の兵士達も応戦する。そして上空をグリフォンが通り抜ける」

「グリフォン……馬房……あ」


 ぼそりと呟くエルフ師匠。

 どうしたのかとラッシュ君とむにむにさんがエルフ師匠を見る。

 おけさんの様子は変わらず。

 流石に年季の長い分、予想はついているのだろう。


「通り抜けたグリフォンはそのまま馬房に飛び込んでいく。そして中からは馬の悲鳴が」

「おうふ」


 ラッシュ君がうめく。

 そう、忘れられがちな設定だけれども、グリフォンの大好物は馬なのだ。

 F3のルールブックにも、魔法等によって命令を受けていないグリフォンは、優先的に馬を狙うと書かれている。

 フレーバーテキストだと言われるとそれまでだけど、そういうモンスターの生態があるとなんだか嬉しい。


「グリフォンが荒れ狂う馬房の中から一人の男が現れる。黒色に輝く板金鎧。顔には真新しい白い仮面。腰には二本の剣を下げている」

「よーし来たな。今度こそ決着をつけてやる」

「やる気だね、ラッシュ君。一騎打ちする?」

「みんなで頑張ろう」


 うん、それが正解。


「『姫君。冒険の旅もこれまでにございます』とか言いながらアランソンは剣を抜いて近づいてくる。背後の戦局は、駐留軍側一人ひとりは健在だけど、モンスターの数が多くてジリジリ後退している感じ」

「数に押されて抜かれる展開?」

「制限ラウンド内でなんとかしないとダメ系のあれ」


 円滑なゲーム進行のためには、ぶっちゃけ力が必要だ。

 ぶっちゃけせずに、上手くプレイヤーが誘導出来る技術は俺には無いし。


「それじゃあまた、シュトレゼンの【黒魔法】とラッシュの連携で行きましょう」

「…………っ」


 ぐっと親指を立てるおけさん。

 やる気まんまんだ。


「司令官も戦力にしよう」

「今後も戦うライバルキャラなんですよね……」

「シナリオブレイク。楽しいよ」


 にんまりわらうエルフ師匠に、ちょっと引き気味のむにむにさん。

 まあ基本的に、プレイヤーとしてのエルフ師匠は性格が悪い。

 ゲームマスターとしても性格が良いとは言えないけど


『ちょっとシナリオ外して困らせてやろう』


 という悪戯心が抑えられないタイプの人だ。

 まだ純真なむにむにさんには毒気が強いらしい。


「すると、反対側の道を塞ぐようにバタバタっとハーピーが……えっと8匹飛んでくる」


 ダイスを転がしハーピーの数を決めたようなフリをする。

 なお、最初から出てくる数は決まっている。

 プレイヤーは分からない事だからどうでもいい事だけど。


「それで、司令官が『サイロの横の井戸が隠し通路になっている。ここは私にまかせて行け』と、剣を抜いてアランソンと打ち合い始める」

「『ここは任せて』いただきました~」

「司令官。良い奴だったのに……」

「娘の作ってくれたお守りを懐に入れていて……」

「『おとうさんぶじにかえってきてください』って書いてあるやつー」


 死亡フラグを爆上げる一同。

 やはりお約束は素晴らしい。皆が分かってわいわい出来るのがとても良い。


「それはともかく、井戸に逃げましょう」


 むにむにさんの軌道修正。ゲームマスターとしては非常に助かる。

 このメンバー、脱線すると際限が無いんだもん。


「仕方ない。逃げよう」

「了解」

「…………」


 3人もそれに続く。

 とは言え、簡単に逃がしてあげるつもりも無い。

 戦闘らしい戦闘も無かったしね。


「じゃあ、ハーピー5匹が追ってくる。距離があるから、井戸まで全力移動すれば……シュトレゼンとエレンデル姫以外は間に合う」

「姫様逃がせないなら意味ない」

「迎撃っすかね?」


「「「…………」」」


 ラッシュ君の言葉に一同沈黙。

 それから、堰を切ったかのように同時に言う。


「私、いい考えが」

「わたしにいい考えがある」

「…………」


 言ったのはむにむにさんとエルフ師匠の二人で、おけさんは手を挙げただけだけど。


「実はボクにもあるんですが」


 顔をにやけさせてラッシュ君も手を挙げる。


「……では、男塾の作法に乗っ取り」

「男塾なんだ」

「作法なんすね」


 エルフ師匠、そんな作法は知らないし、男塾でもないですここ。


「それでは皆さん声を合わせて……せーの」


 エルフ師匠の音頭に合わせて皆が言う。


「「「「粉塵爆発」」」」


 当然のように、全員同じ言葉を発する。

 やっぱり露骨すぎたかなぁ。

 流石にちょっと思ったりもした。

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