第14話 始動
オーガの亡骸を美味しくいただいた(?)あと、俺は、とりあえずゴブリとボルを再召喚して、例のごとくコアのある部屋へ集めた。
倒れたカターシャも、おれに覆い被さってきたアルファも元のスライム状態に戻ったので、あらためて状況整理をすることにした。
まず、ダンジョンの状況
オーガの襲来に合わせ、特別設置した落とし穴。
これは、今後も運用を考えているため、スライム達を利用して再度セットしている。
俺がポイントを消費して作り直してもいいのだが、そうするといざというときに足りなくなる可能性があるため、ここは労働力を最大限利用させてもらう。
次に、焼き払われてしまった壁や通路。
こればっかりは、どうにもなら無いため、壁や通路は表面をすこし削るようにして、作り直した。
消費ポイントも少量で済むように
さて、そして一番の変化だが・・・
「なぜ、骸骨?」
部屋の中を俯瞰する位置に視点を移動させ、改めてコアをしっかりと確認する。
ダンジョンコア、おそらくおれ自身を指し示すそれは、いままで物言わぬ球体のもので、動くことも何か攻撃を仕掛けることも出来なかった。
だが、何をきっかけに変わったのかわからないが、今は。
人の頭蓋骨────ドクロになっているのだ。
しかも、どういう仕組みか、声がでるのだ。
そう、声が・・・出るのだ!!!
「あ、あ、あいうえお。
生麦生米生卵。」
おれは、再度確かめるように声を出す。
しっかりとおれの言葉は、ウィンドウではなく声として骸骨から発せられ、しっかりとみんなに伝わっている。
まあ、言ってる内容が内容なので、全員微妙な顔だったり首を傾げたりだが、とにかく声はしっかり聞こえているのがわかる。
アルファだけ、嬉しそうにプルプルしている。
とにかく、この変化は正直喜ばしい。
なぜなら、ようやくおれの指示がアルファ越しではなく、おれから直接伝えることが出来るようになったことだ。当然のことながら、いままでも不便だったかと言えば、そこまででもなかった。
アルファは、どういう仕組みかわからないが自分自身またはスライム達が接触している相手であれば、言葉を伝えることが出来た。
故に、“連絡用のスライム”ということで常に身体に触れているスライムをもたせ、アルファは司令塔として俺の意見や命令を伝える役をやってもらっていたのだ。
お陰で、俺の世界にいた無線通信のようなことを実現できていたのだ。
だが、それには大きな問題がある。それが、”アルファの翻訳”である。
アルファは、一度俺からの命令や指示を聞き、それを皆に伝えるために再度繰り返す、そのために、アルファがどうしても俺のそばを離れることが出来ないのだ。
現在、まだまだ戦力不足なこのダンジョン。
おそらく、今回のようにアルファを戦力として投入しなければ負けてしまうような場面は、今後頻繁に起こってしまうだろう。
そうなれば、俺の指示が届かなくなり、結果おれ自身がやられてしまう。
俺がやられた時、どうなるかは試すわけにはいかないし、そもそも知識としてそれを有している可能性があるカターシャは、どうやら破壊までは実行したことがなかったようだ。
だが、おそらくおれ自身はもちろん、ゴブリや他の皆が無事でいられるとは考えにくい。
皆が命を落とすような結果────
・・・・それだけは避けなければ。
そのためにも、このダンジョンを強くせねば。
皆を守り抜き
襲い来るものたちを退け
皆が笑って暮らせるような。
・・・そんな場所にするために
==============
「あー、あー、テステス、テステス」
【ぶもぉ】
【ギャ!】
【ガウガ!】
【こちらカターシャ、聞こえてます】
お決まりの言葉を呟きながら、俺は声を掛けるとすぐに各人から返事が帰ってきた。
現在、俺たちはとある実験をしていた。
内容はもちろん
“俺の声がどこまで聞こえるか?”
というものだ。
コアである俺の近くは、当然声が届いた。
そして、そこから各人ダンジョン内を移動してもらいながら入り口へと向かってもらい、声が聞こえたならば返事を返してもらうようにしていた。
これで、ダンジョンのどこまで声を届かせられるのか、どの程度正確に伝えることが出きるのかを検証しているのだ。
しばらく続けていて、ついに限界距離を割り出すことができた。
それが、ダンジョンの外、入り口付近である
これは、外に出たゴブリが、忙しなく声を上げながら突然黙ったり騒いだりを繰り返しているのを聞き取り、何事かと視界を入り口付近に移して発覚した。
そして、さらに面白いことがわかった。
先ほどまで、実際に声に出して話をしていたのだが、どうやら言いたいことを念じるだけで、相手に声を届けることが可能なようなのだ。
こちらも、ダンジョン入り口付近で声が途切れるようだ。
ひとまず、全員に戻ってきて貰い、詳細を確認したが、途切れたタイミング以外では綺麗に声が聞こえていたようだ。
俺の所で報告しているとき、カターシャが若干頬を赤らめて息が荒い気がしたが、おそらく歩き回って疲れただけだろう。
念のために残って貰っていたアルファは、どこか不機嫌そうな顔をしていたが、まあ気のせいだろう。
【ますたぁ、情報まとめた。
ダンジョン内、出たら、聞こえなくなる。
それ以外、全部聞こえる】
どこか誇らしげに胸を張るアルファに、感謝の言葉をかけると、なぜかカターシャの方を見ながらさらにどや顔をした。
・・・薄々気付いていたが
アルファは、カターシャをライバルかなにかだと思っているのだろうか?
俺としては、みんな仲良くしてほしいのだが・・・
まあ、本人たちに無理を言っても仕方ないなで、自然と仲良くなってくれるのを見もるしかないだろう。
何かしてやりたくても、なにも出来ないしなぁ。
【ますたぁ、次の命令
アルファ、全力、成果出す】
フンスと鼻息荒くこちらに次の指示をあおいでくるアルファに、思わず頬が緩んでしまいそうになるが、緩む顔がないことに気がついた。
なので、おもいっきりにやけておくことにする。
面白いことに、今まで発光することによって感情が読まれていたようなのだが骸骨になってからは、その様子もない。
つまり、俺の感情を読み取る術が声色のみになったのだ。
退化したのか進化したのか微妙なところだが、今回のようなときには大変便利である。
「ご主人様。
差し出がましいことですが、少々懸念していることが」
「ん?なんだカターシャ?」
「はい、もうそろそろ私は一度冒険者ギルドへ顔を出しに行くべきかと考えています。
このダンジョンに、調査へ来る冒険者もいなくはないかもしれません。
私の喧伝も、どこまで信じられているかわかりません。
今後の活動指針にもなるのではと・・・」
そこまでいうと、カターシャは口を閉じ、じっとこちらを見つめてきた。
同意を求めてきているのだとわかり、俺はカチャリと音を鳴らしながら頷いた。
「ああ、よろしく頼む。
何かあれば、すぐに帰ってきてくれ。
それと、何かダンジョンについて書かれた書物や話を持ってきてくれ。
もしかすると、俺の身に何が起きてるかわかるかもしれないからな」
俺がそう伝えると、なぜか顔をパァーッと明るくさせたカターシャが、すごい勢いで頭を下げてくる。
そして、張りきった様子で「必ずや期待に答えてみせます!!」と言い残し、ダンジョンを飛び出して行ってしまった。
やる気がある分にはいいのだが、無事に帰ってこれるのだろうか?
少し聞いた話でも、冒険者ギルドというのは、俺のようなダンジョンを専門に活動しているような奴らだ。
最悪、冒険者たちが押し寄せてくる可能性だってある。
ダンジョンはまだまだ一本道
罠やゴブリたちの連携でなんとかなっているが、不特定多数が押し寄せてきた場合や、今回のような強者が一人でもいれば、今度こそ詰みだろう。
それまでに、ダンジョンの強化と拡張をしなければ。
「課題は山積みだが、やるしかないな。」
誰に言うでもなく、そう俺が呟くと、聞こえていたのがその場にいた皆がやる気に満ちた声を挙げた。
その反応に、俺は少しだけ嬉しくなり、皆で出きる戦略やダンジョンの仕組みなんかを話し合い始めた。
そして、カターシャが帰ってきた時
何もなく報告してくれることを願いながら。
=====================
「・・・皆様、お揃いですね?
それでは、今回の依頼内容について、説明します。」
静まり返るギルドホールの中央で、男性職員が冒険者たちの顔を確認して、そう宣言した。
南の都市のギルドホール
ここには、今数組の冒険者が集っていた。
普通であれば、ギルドホールでこのような大々的な説明は滅多にない。
それこそ、モンスターの大量発生や危険性の高いモンスターが現れた場合、冒険者に召集を掛けてこのようか形式をとることもある。
だが、今回はそのどれにも当てはまらないことであるが、ギルドマスターの指示でこのような形での説明がなされることになった。
というのも、依頼内容にも関係する、とある噂。
上位冒険者
“無暴のカイゼル”の死亡説
と
期待の冒険者パーティー
“夜明けの華”
ならびに
“光魔爺”こと、高位魔術師“ライン爺”の消息不明
冒険者の間でも実力の高い者たちの、立て続けての損失に、ギルド側が警鐘をならしたのである。
これは、何かあると。
そして、いずれも“とあるダンジョン”に出向いたことで起こったことである。
それが、今回の依頼内容であろうことは、ここに集まる冒険者全てが理解していることである。
そんな張り積めた空気のなか、男性職員は、簡易的なボードに、ツラツラと情報を書き込んでいく。
「現在、皆さんご存じの通り、このギルドの有力な冒険者の“カイゼル”様と、彼の救出依頼を受けた“夜明けの華”と“ライン爺”様の消息不明。
今回は、“彼らの探索”および今回の件を引き起こした“ダンジョンの踏破”を皆様に依頼するものです。」
今回の依頼の内容に、集まった冒険者数人からどよめきが起こった。
噂の信憑性が確実になってこともそうだが、依頼内容に“踏破”が入っていることが彼らを動揺させた。
本来、ダンジョンとは見つけ次第速やかに調査を行い、情報が集まり次第、
コアの破壊による“踏破”
収益化や管理が可能なら“攻略”
このどちらかに振り分けられ、改めて依頼される。
調査依頼を未達成のまま、すぐに“踏破”の依頼が下ることの異様さに、ざわめくのも仕方がない。
もちろん、お行儀の良くない冒険者は、その場でやいのやいの騒ぎだした。
「ど、どういうことだ!!!
こんなに早く踏破だと?!
ありえねぇだろ!!」
「数か月前に出来たばかりのダンジョンだぞ?!
そんな短期間に踏破依頼なんて、気でも狂ったのか!!」
「魔物もそこまで多くねーはずだぞ!!」
「宝もないし、潜るだけ無駄だとも聞いたぞ!!」
「いやいや、道中に上位モンスターが紛れ込んでいると俺は聞いた!!」
「はぁ?!ガセだろそんなの!!!」
「てめぇこそ、適当なこと言ってんじゃねーぞ!!」
静まり返っていたギルドホールが、一瞬で怒号とヤジで埋め尽くされてしまった。
これだから冒険者は面倒だ。
小さなことでやいのやいのとわめきちらす。
ギルド職員も、慌てた様子でなだめようとしている。
これは、このままだれも依頼を受けずに終わりそうである。
そんなことを考えていると、突然ギルドホールの二階部分、唯一ある階段の奥にある部屋の扉が、バタンッと音を立てて押し開かれた。
瞬間、冒険者たちは、まるで時が止まったかと思うほどに静まり返った。
部屋から出てきたその人物の気配を感じて、皆が開かれた扉を凝視する。
そして、そこから出てきた一人の人物に、全員が息をのんだ。
姿を表したのは、一人の女性であった。
スラリとした肢体に、身体のラインがハッキリと浮き立ち、蠱惑的な肉体をこれでもかと強調しており、長く美しい髪は、頭頂部から腰に掛けてひとまとめにされており、歩く度ユラユラと誘惑的に揺れた。
だが、その魅力的な姿と相反するかのように、美しく整った顔には、鋭く研ぎ澄まされたような赤い瞳
肉厚でプルりとした唇
それらを大きく斜めに切り裂く、一筋の巨大な引っ掻き傷。
傷がなければ、王族と見まがう程の美貌の持ち主。
だが、傷があってなお、その美しさが曇ることはない。
彼女は、ギルドマスター秘書で、元最上位冒険者の一人。
名を“氷女帝 マリーアンヌ”
彼女の姿を認めた冒険者は、揃って生唾を飲み込んだ。
感情は様々だろうが、そのほとんどが恐怖で息をのんでいるのは間違いないだろう。
そんな彼女が、静まり返ったホール内のすべての人間を睥睨し、背後へ視線を向けた。
「ギルドマスター。
やはり、彼の冒険者の姿はありません。
今回も召集無視をしたようです。」
マリーアンヌがそういうと、部屋の奥から、さらに一人の人物が現れた
その人物が現れた瞬間、場の空気が一気にざわめいた。
ギルドマスター、めったに現れないその人物に、今回の依頼がどれほどの案件なのか容易に想像がつく程。
全員が、ギルドマスターの登場を心待ちにしていると、部屋から、漆黒のローブを被った人物が現れた。
その人物は、マリーアンヌどうようこちらを睥睨し、何事かをマリーアンヌに耳打ちすると、すぐに部屋へと戻ってしまった。
マリーアンヌは足音をカツカツととどろかせ、ホールにおりてきて、先程まで説明をしていたギルド職員のとなりに立った。
「ギルドマスターより、お言葉を頂戴しました。
さらに、先程嬉しい知らせが入りましたので、私の方から報告させていただきます。
心して聞いてくださいね?」
とても丁寧な口調であったが、有無をいわさぬ迫力があり、この場にいる全員が口をつぐみ、彼女から知らされることに耳を傾けた。
「まず、一つ目。
ギルドマスターより、今回の依頼については依頼完了まで取り下げない。
“永続依頼”として発令いたします。
もちろん
探索については“生死確認”か“所在報告”のどちらかで完了。
踏破については“ダンジョンコアの破壊”による、“ダンジョンの抹消”です。
この二つ、どちらも達成で依頼は完了とさせていただきます。
報酬は、通常の達成の“倍”。
さらに、“ランクの昇格”と“称号の付与”を検討しております。
状況に応じて、追加報酬も出すと、お達しがありました。」
静まり返っているこの空間に、息をのむ者が数名いた。
無理もない。
報酬が、破格すぎるのだ。
それこそ、国を脅かすモンスターを討伐するほどの報酬である。
なぜ、そこまで高額かつ多すぎる報酬があるのか、だれもが考えただろうが、その答えをマリーアンヌはすぐに説明してくれた。
「ここまで多くの報酬があるのは、依頼主がVIPであり、速やかに処理したいからとのことです。
本来であれば、北の都市に拠点をもうけている冒険者
“踏破王 アイゼルト”様にも声を掛けていたのですが、今回は不在ということで、ギルドマスターも悲しんでおられました。」
眉根を下げる彼女から発せられたビックネームに、またも息をのんだ。
ダンジョン踏破数最多で、実力も申し分ない。
現存する最上位冒険者のうちの一人である。
彼にも依頼を出せる依頼主の当ては、そこまで多くない。
故に、情報の信憑性と報酬の確実性に、冒険者達は勢い付いていた。
今回は、成功すれば人生薔薇色である。
「そして、今回はとても喜ばしい報告があります。
なんと、数日前に行方不明となり、一人生還した“夜明けの華”のリーダー、カターシャ様がご自分でご帰還なさいました。」
その言葉に、私はビクリッと身を震わせてしまった。
なぜ、なぜ私が帰還したことがばれている?
前回も、情報や噂を喧伝するだけにとどめ、身バレを避けるために、ギルド事態には近づいていないというのに・・・
私は、冷や汗をかきながら、冒険者の集まりのなかでじっと息を殺して紛れることにした。
だが、マリーアンヌの視線は、正確に私の方を居抜き、そして大袈裟なくらい大きな動きで驚いて見せた。
「まあっ!
どうやら、既に説明を聞いてくれていたのですね!!
さぁ、こちらにお越しください!!
皆様に、ダンジョンで知り得たことをお話しください。」
そういって、こちらを指差しながら、自らのとなりへ来るよう促してくる彼女に、私は退路すら断たれてしまった。
・・・ご主人様、申し訳ありません。
帰るのは、難しくなってしまったかもしれません。
心のなかで、ご主人様へ謝罪の言葉をしつつ、私は、この場をどうやって納め、どのようにして、ダンジョンへ向かう冒険者を減らすか、必死に頭を回したのであった。
結論からいうと
私の力では、どうすることも出来なかった。
精々が、スライムのような低位モンスターしかいないと言う情報と
ダンジョンが一本道である。
という、包み隠さない真実のみを話す意外に、私が話せることはなかった。
虚偽判定の魔道具でも使っていたのか、マリーアンヌは終始鋭い視線を向けてきたが、まごう事なき真実であるため、黙認してくれていた。
だが、むしろこの情報のせいで、冒険者達は勢い付いてしまった。
こんな簡単なダンジョンを踏破するだけで、人生大逆転、薔薇色人生が送れると。
そして、私も離脱することが出来ず、数日後に決行される、“ダンジョン踏破”に同行することとなってしまった。
お目付け役に、ギルド職員が私のパーティーとして参加することも決まり、いよいよ追い込まれてしまった。
「いやぁ、まさか生きていらっしゃったとは、本当によかったですよ!!
私、カターシャさんだけでも帰ってきてくれて、本当に嬉しいです!」
ギルド職員の受付嬢カレンが私にそういって両手を握ってくる。
今回のお目付け役が彼女なのだが、それが決まった瞬間、離脱が不可能になったのが確定してしまった。
彼女は、噂ではあるが何でも“千里眼”のスキル持ちだそうだ。
眉唾なのだが、何でも特定の人物がどこにいても見つけ出せると言う噂があるのだ。
今回のような、人探しや紛失物の鑑定なんかは、彼女が肩代わりしてやることも頻繁にあるそうだ。
受付嬢をしているのも、彼女の能力に関係していて、彼女にとって都合がいいからついているとも聞いたことがある。
そんな彼女が、能天気に騒いでいるなか、現在私たちは、ギルドの仮説宿に泊まっている。
何でも、依頼決行日まで、ギルド施設を貸し出すことがギルドマスターから言われたそうで、私たちはギルドに缶詰である。
おそらく
いや、間違いなく
私はギルド側から疑われているのだろう。
くそ、どうしてこうなったのだ。
ご主人様のため、資料を取りに来ただけなのだが、ギルド側の対応が早すぎた。
私は、苦虫を噛み潰したような苦い顔をしそうになったが、不思議そうにこちらを見ているカレンに気がつき、あわてて取り繕った。
「い、いやぁ
なんだか申し訳ないなぁ、私のような駆け出しが、ギルド施設を、しかもただで使わせてもらえるとは!」
「はい!
今回の依頼、それだけしてもお釣りが来るくらい良い仕事みたいで、ギルドマスターもギルドマネージャーも珍しく喜んでましたよ!!」
楽しそうにそう言う彼女に、私は思わず笑みを溢してしまいそうになった。
彼女は、かなり口の軽い方で、うまく行けば情報を引き出せるかもしれないと。
私は、カレンに向き直り、真剣な面持ちで話し始めた。
「カレン嬢、教えてくれ。
私は、どうしてこのような依頼に参加させて貰えることになったのだろうか?
言うなれば、今回の件、私のミスで引き起こされてしまったことだ。
後悔してもしきれないくらい、私は多くのものを失ってしまった・・・・・。
しかし、私はなぜかまだ冒険者で、こんなに素晴らしい待遇で参加させて貰っている。
────なぜ?」
私は、そう詰め寄ると彼女はあからさまにうっとなにかを言いよどむような仕草をして見せた。
「・・・いや、すまない。
今のは忘れてくれ、私のような駆け出しで、失敗者の烙印を押された私だ。
黙って、今回の依頼をこなすことだけを考えておこう。
それが、落ちこぼれの私がとれる唯一のギルドへの贖罪だ。」
「うっ、いえ、、その、そんなこと・・・うううっ」
カレンは、目に見えて申し訳なさそうな雰囲気で、私のフォローをしようとおどおどし始めた。
私が、憂いを帯びた表情で、ジッと窓のそとを眺めていると、カレン嬢が、ついに我慢しきれなくなった様子で、私の名を呼んできた。
そして、語りだしたことに、私は愕然としてしまった。
ま、まさか
そんなことになっているとは?!
今すぐ飛び出したくなったが、この探知機女が邪魔である。
くそ、くそ!!!
私のせいで、ご主人様達が!!!
あせる気持ちとは裏腹に、時間だけがゆっくりゆっくり過ぎていく。
私は、なにも出来ない自分に歯噛みしながら、来るべき日を待つしかなかった。
まさか、まさかっ!
今回の依頼で
こんな、辺境の都市の依頼に
最上級冒険者が2人も召集されているなんて!!!
=========================
とある森のなか
俺は、馬車に揺られながら、流れていく景色を見ていた。
人っ子一人おらず、そこかしこから獣の声なのかなんなのかよくわからん声を子守唄に、荷台でうたた寝をこいている。
そいつは、俺の頼れるパーティーの前衛で、曲がりなりにもダンジョンに向かっている途中なのだが、まあ無理もない。
今回の依頼、あまりにも不自然で急なのだ。
俺も、“カイゼル”と“ライン爺”の名が飛び出してこなければ、無視していただろう。
なんでも、今回は“スライムの洞窟”とか言う、ランクE-という、駆け出しでもミスらないくらい楽勝なダンジョン
そこで、カイゼルとライン爺というビックネーム二人が、行方不明ないし死亡した何て聞かされた。
何かの間違いだと主張したのだが、確かな情報と言うことで、俺たちが召集された。
西の都市に拠点を置く俺たち
“西蜘蛛の根城”が出るなんざ、今後もないと思うんだがな。
まあ、依頼は依頼だ。
キッチリさっぱりすませるのが俺たちのモットー。
やるからには、失敗なんざしねぇけどな?
まぁ、失敗しようがないんだけどな
鼻ちょうちんを作りながら寝ているパーティーの前衛をみながら、俺は目的地につくまでゆるりと寛いでいると、不意にガタリと大きく一度馬車が揺れた。
「おいっ!
石くらい避けろよ下手くそが!!」
「い、いえ!!違います!!
い、今道路にはなにも・・・
・・・う、うわ!!、ああーーーっがぼぼほ ぼぼっっ?!」
御者の悲鳴に、俺も前衛も馬車から飛び出し、辺りを見渡した。
見渡しても、特にこれといって不審なところはないが、御者の言っていたことから、前衛に警戒を飛ばす。
「気を付けろよ。
もしかしたら、見えねぇ相手かも知れねぇ。」
「おう、まかせとけって兄貴。」
前衛の男が、威勢よくそういって、ダメージを肩代わりするスキルを発動した。
これならば、不意打ちでも反撃がしやすい。
二人で背中合わせに回りを警戒し続けること数分
不意に、背後の前衛がガクリと膝をついた。
突然のことに驚き、しかし周囲への警戒を続けたまま、俺は前衛の攻撃されたであろう足を見た。
すると、そこには何やらウゾウゾとしている物体が大量に纏わり付いていた。
なんだと思ったときには、俺の視界は突然のグニャリと大きく歪み、さらに足と呼吸が奪われた。
な、なんだ?!
何が起きた?!
おれは、必死に両手で顔に纏わり付いているなにかを払い落とそうとしたが、まるで水に手を突っ込んでいるかのように手応えがない。
もがくうちに、徐々に意識が薄れていくのがわかった。
くそ、なんでだ?!
なんだこれは!!
俺は今、何をされて
「おらっ!!」
ぼんやりとなにかが聞こえたかと思うと、急に顔に纏わり付いているものがとれ、俺はあわてて新鮮な空気を肺一杯に取り込む。
むせ返りながら確認すると、前衛がこちらを見下ろしながら手を差し出していた。
「兄貴!!ここは危険だ!!
辺り一面、見えねぇスライムに囲まれてやがる!!」
「がはっ、ごほっ、す、すらいむだと?」
ば、バカな
体当たりしか能がないスライムが?
そんなことを考えていると、前衛が再びスライム数匹に飛び付かれ、また転ばされた。
しかも、またも顔や足にくっつき、今度は両手にも纏わり付いていた。
「がぼぼっ!!
しゃらくせぇ!!!」
前衛が、再び一括すると、まるで弾かれるようにスライムが弾き飛ぶ。
彼のスキル“ライオネス・ハート”だろう。
本来ならば、威圧して相手を怯ませるだけのものだが、今回はそれでスライムを退けることに成功しているようだ。
だが、そう何発も使える技ではない。
「よし、一旦離脱だ!!!
いくぞっ!!」
「おう!先導するぜ!!」
駆け出した俺達は、前衛の放つスキルを頼りに、来た道を戻り始めた。
俺もそこそこ便利なスキルがあるが、なぜか発動しない。
スライムしかいないという報告のダンジョンに、たどり着いていない段階でこれなのだ。
少々、気を引き締めなければならないかもしれない。
俺たちは、ここに来るであろう冒険者達と合流すべく、南の都市へ駆ける。
その様子を、森の木陰がら覗き見ている者が一人。
不意に、木陰から出てきたのは、一匹のゴブリン。
ゴブリンは、去っていく人間二人の背中を見つめ、大きく手を振り、大きな鳴き声をあげる。
それを合図にするかのように、森が鳴いた。
そして、それを確認した何者かが、だれに言うでもなく宣言した。
「──────さぁ、開戦だ」
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