第11話 実験

カターシャを送り出して数日

俺たちは、相も変わらずダンジョン内での戦闘訓練を繰り返している。


変化と言えば、コボルト(意識をとりもどしてから、“ボル”と命名)との戦闘訓練が加わり、ミノタもゴブリ、両者ともいままでよりも濃い戦闘をすることが出来るようになったことだ。


ボルは、ミノタと違い力や大きさは、圧倒的に他の二人より劣ってはいる。

ゴブリと一対一で正面から闘って、わずかに力負けするかどうかと言うくらいだ。


だが、彼には他の二人にはない、卓越した“戦闘センス”と“速度”がある。


モンスターの脅威度で言えば、コボルトは牛人より下である。


だが、ボスモンスターであるミノタを、ボルは容易く切り裂き、ダメージを与え、仕舞いには倒してしまう。

ゴブリも、決して弱いわけではないが、ボル相手では圧倒されてしまう。


一対一では、無類の強さを示してくれていた。

二人そろって戦闘訓練をしても、割りと毎回均衡してどちらかがやっと勝つくらいの実力である。


最近では、ゴブリとミノタの連携やコンビネーションの能力が向上しており、ボルの勝率がやや下がっているが、それでもボルが勝ち残ることはまだまだある。


今も、三人で訓練をしているが、ボルがミノタに切りかかり、それをミノタが素手の振り回しで牽制しつつ、ゴブリがボルの背後から不意打ちを狙って攻撃している。


ボルは、ミノタの攻撃を華麗に避け、ゴブリの動きを予測しているのか、振り下ろされる拳や訓練用の棒を難なく避け、勢いを利用して反撃したり、同士討ちへ誘い込むように受け流している。

ゴブリは、ミノタの腕に弾かれてゴム毬のように壁へと吹っ飛んでいくが、めげずに何度もボルへと向かっていく。

ミノタも、動きを止めるとボルに攻撃されて動けなくなるため、必死に腕を振り回している。

ボルもボルで、二人の攻撃を必死に避けながら、攻撃の隙を伺って動き回り、隙あらば爪での攻撃を加えている。




【・・・ますたぁ

三人、危険。

あれ、怪我する。】


「確かに危ないが、いざとなれば回復もしてやれるし、何より実践に近い形で訓練してくれるのが一番戦闘能力が延びる。


既に、ダンジョン内であの三人の相手になるような個体はいないからな。」




そう、このダンジョン内で、いまもっとも強いのは、彼ら三人のみなのである。

他のスライム達や、取り込んだモンスター達は、量産出来てもあまり強くないのだ。


(アルファのような個体が出来るとふんでいたが、結果は不発。

アルファの時のような復活のメッセージも出なかった。)


ちなみに、ミノタとゴブリの場合、過去に一度、アルファと同じように復活をさせてから、メッセージを省略して復活をさせることが出来るようになっていた。



そして、その際、俺は“ダンジョンポイント”なるものの存在を明確に自覚した。


これは、アルファを蘇生させた際にも出ていたのだが、その時はまだなんなのかよくわかっていなかった。


これは、どうやら特定の行動をする際に、メッセージという形で要求されるポイントである。


今のところ、蘇生の際しかポイントの要求をされないのだが、もしかすると今後何かにつけて要求される可能性がある。


無駄遣いは避けているつもりだが・・・




【ダンジョンポイント 360/400】

【モンスター蘇生 消費量 10】


表示されている通りなら、ポイント量と消費量を比較しても、そこまで気にしなくても

いい気がするのだ。


しかも、何度もポイントを消費をしているが、モンスターが敵を倒すと、同値もしくはそれ以上のポイントをダンジョンポイントとして還元してくれるのだ。


前回の襲撃ならば、ミノタは数回蘇生させ、ゴブリも一度蘇生させていたが、それを上回るポイントを回収してくれている。


具体的に言うと、今回は三人の冒険者を吸収したことで、ダンジョンポイントが一人頭100ポイント


それが三人で 100×3=300

消費量を考えてもお釣りが来るくらいのポイントを得ているのだ。

カターシャの隷属には、ポイント消費がなく、吸収をしてないせいなのか、ポイントも入らなかった。

最大値の増加もなかったが、おそらくモンスターとして吸収したならば増加していたと予測できる。


逆に、リビングソルジャーを作ったときは、ポイントこそもらえたが、量がかなり少なく、元冒険者の知識は断片的に持っていたが、生前の力はほとんど失われていた。

反撃もされてしまい、リビングソルジャー事態もあれ以来パッタリとポップアップから出てきていない。

やはり、何かしらの条件があると考えた方がいいかもしれない。


今、わかっているのは、各種の仲間にする方法等は、どうやら明確に区分されているということだ。


目下、継続的な戦力を集めるのが大事だが、いかんせん上限が分からず、また条件もまだはっきりと理解できていない。


とりあえず、成功例としての共通点は、アルファを除いて


・吸収を必ずしている

・復活後(または前)に、名前を付けている

・一定以上の知性がある(まだ不明瞭)


だろうか?


まあ、アルファに関しては、本当にたまたま条件に当てはまってたようだが、それにしても、リビングソルジャーは再ポップしないし、アルファ達のように復活メッセージも出なかった。


もともとの“カイゼル”と言う名前もあまり意味をなしていないのか、表示も種族の名のみで表示されている。


俺の成長度のようなものが足りてないのかとも考えたが、それだと、ミノタやボルが召喚できたことに説明がつかない。


リビングソルジャーは、ミノタよりも危険度が低い

個体のレベルが高かったと言えばそれまでだが、それでもミノタが呼べて、リビングソルジャーが呼べない理由がちょっとわからない。




【ますたぁ・・・】


「ん?、どうしたアルファ」


【アルファ、変、身体、動く】




アルファはそういうと、確かに彼女の身体の至るところが、波打つように蠢いている。


今までにないことに、動揺していると、アルファから苦しそうな声が混ざり始めた。


何事かとあわててアルファのステータス画面を開き、確認をしてみると、驚くべき文字が現れていた。




【進化条件達成、個体名:アルファ、進化します。

進化条件達成、個体名:アルファ、進化します】




し、進化ッ?!

どういうことだ?!

モンスターって進化するの?!




ステータスをみて一人混乱していると、アルファの身体は不意にギュッと縮まり、次の瞬間、ジャパッ!、という音と共に飛び散ってしまった。






・・・アルファ?!






瞬間、ウィンドウを操作して、素早く蘇生のメッセージを探す。

しかし、どこを探しても見当たらない。




(おいおいおい!進化っていったよな?!

なんで、進化したらアルファが四散するんだッッ?!)




激しい動揺、他のモンスターはまだ日課を消化中・・・

気付いているのは恐らく俺だけである。


くそ、どうする!!

隣で訓練してるゴブリたちを呼び戻すか?!

いや、そもそも連絡手段がいまたたれている!!


こんなことならば俺一人でも連絡可能な手段を確保しておくべきだった!!


くそ、こうなれば最大出力で発光して、どうにか気付いてもらうしか・・・




【ますたぁ、ますたぁ?

アルファ、進化した。】


「アルファ?!、生きてるのか!!

どこだ!どこにいる!」


【ここ、ますたぁの、真下、くらい】




そういわれて、あわてて視点を正面斜め下から、真下に移した。

すると、そこには一人少女がいた。

全身の肌が紫色で、こちらを無感情に見つめる瞳は、見覚えのあるオレンジ色

髪の毛は、肩くらいまで伸び、外側に少し跳ねているブロンドヘヤである。




・・・え?この子どこから出てきた?

というか、肌が紫?!

服は?!というか、なんで俺の真下に?!




【ますたぁ、落ち着く。

アルファ、進化して変わった。

これ、人に擬態している。

この方が、獲物とれる。】




アルファの声で、少女がそういうと、少女はまるで液体のようにその形を崩し、地面にベチャリと水溜まりを作ったかと思えば、直ぐに水が集まり、やがて、見慣れた毒々しい色合いのスライムが、俺の目の前(真下?)に現れた。




「お、おおー、なるほど。

人に擬態して、近付いてきた人間を捕らえる訳か。

・・・今まで、身体をムチのように操ったりしていたが、それもまだ可能なのか?」




俺がそう問いかけると、アルファはブルリと震え、再び先程の少女の形をとった、そして、両手を横に広げると、彼女の腕は形を崩し、代わりに数本の触手へとその形を変えた。




【まだ、練習足りない。

今は、これが最大出力。

でも、練習すれば、もっと増えて、扱いやすくなる。】




それぞれが意思を持っているかのような動きで両手の触手を蠢かせているアルファ。


正直、全裸の少女の肩から先が触手になっている姿は、気持ちが悪いが本人はどこから誇らしげに胸を張っているように見えるので、なにも言わないことにした。


それに、形だけでも人に近付いたからなのか、はたまた進化したからなのか、以前よりま言葉が滑らかで、言葉が少しだけ長く話せるようになっているようだ。




【アルファ、ますたぁの為に、もっと役に立つ。

戦闘にも、参加できる!!】


「そうか・・・なら、どれくらいやれるか調べるか?」


【アルファ、負けない!!】




俺の言葉に、アルファは両手を手の状態に戻して、思いっきり万歳をするような姿でフンスッと鼻を鳴らした。


アルファは気合い十分のようなので、俺は訓練中よゴブリの元へ向かってもらった。


視点を移し、徘徊しているスライムを媒介にみんなにも声が聞こえる状態(さっきやってみたらできた)を、作ってから俺は皆に声をかけた。




「いきなりすまないが、少し実験だ。

今しがたアルファが進化した。

いまから、アルファがどれくらい戦闘力があるのか模擬戦によって判断しようと思う。

ゴブリたちは、変に気を遣わず、全力で相手してやってくれ。

アルファは、まだなれないと思うが、持てる力を全て俺に見せてほしい。


互いに、何かあれば俺が治す!

存分に戦え!」



【ゴブゴ!!】

【ブモォーーー!!!】

【・・・ガウガァ】


【アルファ、絶対負けない!!!】




全員の気合いの声(ボルは乗り気じゃなさそうだが?)を聴き、俺はまず最初にゴブリと戦ってもらうように伝える。

そして、アルファとゴブリが互いに向かい合う形になると、アルファは両手をギュッと握ってファイティングポーズをとっている。

ゴブリはゴブリで、素手のままいつものように脱力した姿勢でアルファを睨み付けている。


互いに準備が良さそうなのをみてとり、俺は、まるでレフリーにでもなった気持ちで声を張り上げた。




「それでは、試合・・・はじめっ!!」




合図と共に、アルファは駆け出すと同時に、身体を素早く液状に、ゴブリは駆け出したはいいものの、それに驚きわずかに後傾になった。

それを見逃すまいと、アルファは液状になった身体を素早く分散、さらにゴブリの正面から投網のように地面から飛び上がり、ゴブリに迫った。


とうぜん、ゴブリは避けようと数歩後ずさろうとしたが、背後にいたアルファの身体の一部が、まるでトラバサミのようにゴブリの足にまとわりつき、そのまま動きを固定させた。



【ご、ゴブギャ?!

ごぶぶぶぶぼぼぼっっ?!?!】




驚いて声をあげたゴブリの顔面に、最初に飛び上がったアルファの身体が到着し、ゴブリの顔中を紫のドームのような形になって多い、彼の呼吸を奪って見せた。


ゴブリも、苦しそうにもがき、必死に両手で顔をかきむしっているが、ズボズボと手が貫通するだけで、顔から離れる様子はない。

それどころか、手についた彼女の身体の一部が動きだし、いつかのタイミングで両手が同じような球体に包まれ、ゴブリは完全に身動きがとれなくなってしまった。


ゴブリは激しく暴れ、のたうち、転げ回ったが、アルファが何か影響を受けている様子はない。

やがて、ひとしきり動き回ったゴブリは、まるで降参したかのように両手を必死に頭上に挙げた。


・・・これは、勝負アリだな。


俺は、ゴブリの負けを認め、アルファにも勝利を告げると、アルファは素早くゴブリの身体から離れ、少し離れた位置でまた少女の形をとった。

相変わらず無表情だが、どこか嬉しそうな様子で両手を挙げていた。




【アルファ、勝った】

【ご、ゴブゥーッ!!】


【ガウ、ガウガガ、ガウガウ】

【ブモブモォー!、ブモブモォーッ!!!】




みると、ゴブリは悔しそうに歯をむき出し、ボルは肩をすくめてそっぽを向いた。

ミノタは、ヤル気満々なのか、両手を何度も上下に挙げては下げを繰り返しながら叫んでいた。


それぞれ思うところがあるんだろう。

よし、じゃあ次に行こう



その後、残りのミノタとボルとそれぞれ戦ってもらったのだが、勝ち星を挙げたのはボルのみであった。


ミノタは、怪力で拘束を解くまでは行ったのだが、顔に張り付かれてゴブリの二の舞になり、ボルに関してはそもそも攻撃が通じてなかったが、アルファもボルの動きが捕らえられず、一度広範囲に身体を分散させたが、それに引っ掛かることなく、ボルは襲い掛かる無数のアルファの攻撃を全て捌いてみせた。


結果、ボルがため息を吐くように爪を引っ込め、負けを認めたことでこの試合は収まったのだが、アルファがすぐに異を唱え、話し合いの結果、結局攻撃が効かなかったボルが攻撃を捌ききり、かつ無傷ということでボルの勝ち星となった。


本人は納得していない様子だったが、アルファがいいと言っているのでよしとしてもらった。



三度の戦闘の結果、アルファはどうやら“物理攻撃に強く、拘束が得意”というのがおおむね分かった。

動きも遅くはないのだが、ボルのようなすばしっこい相手とはあまり相性がよくなさそうだが、広範囲に散らばることが出きることから、制圧戦や行動阻害は十分狙えるようだ。




【アルファ、役に立つ!

もう、見てるだけじゃ、ない!!】




アルファは少女の姿のままゴブリの手をとってピョンピョン跳び跳ねている。

付き合わされているゴブリも、困った様子ではあるが、笑っているように見える。


二人の様子を見て、暖かい気持ちになりつつも、アルファの言葉にドキリとした。

今までアルファには、伝達や監視に注力してもらっていた。

俺一人でも出来なくはないが、ダンジョン外に関しては俺は全くといっていいほど情報を手に入れられない。




「分かった、今回の戦闘でアルファの戦力をある程度理解できた。


今後、アルファにも戦闘面で活躍してもらう場面があるかもしれない。


アルファには悪いが、今までに加えて“連携訓練”にも参加してもらう。


・・・出きるか?アルファ」




俺の言葉を聞いて、動きを止めたアルファは数秒パチパチとまばたきをして、口許を綻ばせ、目をわずかに細めた。




【もちろん、できます。

全力で、やります。】




そういって、頭を下げたアルファは、本当に嬉しそうで、みてるこっちまで笑顔になりそうだった。



こうして、【進化】という特異な現象により、戦力が強化されたのだった。




そして、アルファを交えた訓練をやり初めて数日



カターシャが、無事に帰還を果たしたのだった。



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