第8話 迫る脅威

ミノタが男を叩き潰してから数分後、俺はやむなく冒険者を助けることにした。


やったことは単純、ダンジョンモンスターとして、男を登録しただけだ。

モンスターの部類になっているらしく、男の分類は“リビングソルジャー”となっていた。




【アァ~・・・ウウゥゥゥ・・・】




男は、身に付けていたものはそのままだが、顔色が青を通り越して白く、眼にも生気がない。

動きもどこかぎこちなく、すっかりゾンビのようになってしまった。


こうなってしまえば、当初の情報を引き出すことや男の高かった身体能力を発揮させることは難しいだろう。



【ブモォ~・・・】



ゾンビを見ながらそんなことを考えていると、申し訳なさそうにミノタが肩を落とし、顔を伏せていた。

俺の声は正確には伝わっていなかったはずなのだが、この様子から見て、自分がミスをしてしまった事は理解しているようだ。


俺は、一度アルファが戻ってくるのを待ち、とりあえずその間に状況を整理することにした。



まず、いまこのダンジョンが、少々不味い状況に陥っていることだ。


それは、この男の来訪によって、あることがわかってしまったからだ。

それは、“この場所が、冒険者に知られている”ということだ。

これはつまり、この男以外の輩も近い内に訪れる可能性があるということだ。

このダンジョンに、人間が喜ぶような物は何もなく、モンスター達を洞窟外に出すようなことも試していないので、ここを訪れる理由は俺には想像できない。


だが、現にこの男はここを訪れ、死ぬ間際に他の奴らとハッキリ言っていた。


つまり、襲撃は今後もあり得るし、男よりも手練れが来ないとは言いきれない。


早急に、戦力とダンジョンの強化を進めなければならないだろう


次に、意志疎通

これは、最初から課題になっている問題だ。

現在、アルファを通すことによって他のモンスター達にも俺の言葉を正確に伝えることができている。

だが、今回のようにアルファを俺のもとから離し、他のモンスターに指示しようとすると、単純な命令しか反映させることができないのだ。

俺がミノタに命令した“敵を殲滅せよ”は、予め決めていて、ミノタに教え込んでいた命令である。

これは、ミノタが“行動不能になる”または、“敵を撃退する”まで、攻撃を加え続けるようにしたものだ。

ミノタ自信も、これに準じて自己判断して戦闘を行う。

だが、今回のように倒されてしまった場合や、急な命令変更をするときの打ち合わせをしていなかった。


故に、起こってしまった事態がこれである。




【ぶ、ぶもぉ・・・もおぉ~・・・】




申し訳なさそうに頭をかきながら、ゾンビになった男を見下ろしているミノタに、俺は気にするなと伝えたかったが、生憎ミノタにウィンドウの文字は読めていない。


先程の命令は、アルファのお陰で伝えることができたのである。


仕組みは単純

アルファに、現場へ急行して貰い、被害の受けない範囲で待機させ、俺の言葉を伝えて貰うだけである。

だが、これには欠点があり、複雑な事は伝えることはできないのだ。

距離の問題や、アルファが表現できる事だけと言う条件から、先程の長さくらいが限界なのだ。


さらに、ゴブリならばある程度短くても伝わるのだが、ミノタに関しては命令事態が理解できず、なにもできないことが多々あった。

これは、おそらく種族的な部分もあるんだろうが、ミノタは俺たちのなかでダントツで理解力がない。


俺も言葉を選んで命令しているつもりだが、今のところ解決策はまだ思い付いていない。

ダンジョンの機能で、なんとかならないかとも考えたが、今のところ成長の兆しは全く見えてこない。


今後も、様々な手で解決策を探っていくしかないだろう。




【ますたぁ、アルファ、戻ってきた】


「よし、よく帰ってきた。

早速で悪いが、ミノタに持ち場に戻るように伝えてくれ。

それと、あまり気にする必要はないともな」


【わかった】




アルファは、ミノタにおもむろに近付くと身体をくっ付けた。


しばらくして、ミノタが驚いたような顔でこちらを見て、凄まじい勢いで頭を何度も下げてきた。

そして、いつものように雄叫びをあげながらダンジョン内へ戻っていった。

残された俺とアルファは、彼の背中を見送ってか、ずっと放置されている男に意識を向けた。

男、もといリビングソルジャーは、相変わらず呻き声をあげながらボーッと突っ立っている。

さて、ダメで元々、色々試してみるか。


おれは、アルファにお願いしてリビングソルジャーにくっついて貰い、声をかけた。




「あー、俺の声が聞こえるか?

聞こえたら、うなずけ」


【アァアウゥ・・・】




男は、ガックンガックンとぎこちない動きで頷き、ついで口からヨダレなのか体液なのかわからないなにかを垂れ流した。


これは、本当に大丈夫なんだろうか?

まあ、ダメもとではあるので、別に通じてなくてもいいが、可能ならうまく行って欲しい。


俺は、気持ちを切り替えて続けて質問した。




「お前に質問がある。

イエス、ノーで答えろ。

イエスなら頷き、ノーなら首を振れ、いいな?」


【アゥアゥ、ウウー・・・】




男は首を縦に降ってから、すぐに首をよこに振る動作をした。

最初から分かりづらい返答を返してきたことに、俺は若干の腹立たしさを感じたが、まあ、落ち着いて考えれば分からなくないだろう。


おそらくだが、最初は潰す気で来たが、途中から気が変わったのだろう。


おれは、そこから様々な質問をして、その度に男の反応をみて結論を出していった。

そして、情報を整理してみて、なかなか面白いことがわかった。


まず、この男、こんな状態だがしっかりと思考回路が生きている。

当初は、情報を引き出すことは難しいだろうと考えていたが、案外なんとかなりそうだ。

言語能力と運動能力はかなり落ちているようだが、戦闘はこなせるし、普通のやつより強いようだ。

ゴブリよりは強く、ミノタより弱いくらいである。


そして、アルファの翻訳のお陰で、こいつの大まかな経歴も知ることができた。

こいつは、この森に近い“南の都市”と呼ばれる場所のギルドに所属していたらしい。


名を“カイゼル”、主な武器は片腕の義手であり、様々な仕掛けがあったようだ。

だが、今となってはほぼ機能を失ってしまっているらしく、武器としての運用は難しいらしい。


カイゼルは、ギルドからこのダンジョンの調査依頼を受けて来たらしく、細部罠やダンジョンの位置、モンスターの種類等、どんな些細な事でも情報として持ち帰れば報酬が貰えるのだ。


しかし、報酬はひとつの情報で一律のものであり、クエストを攻略しなければ報酬はでない仕組みになっている。



もちろん、情報収集したあとすぐ、ダンジョンを攻略してしまってもいいらしいのだが、その場合は報酬は情報の分は出ず、攻略報酬という少量の報酬のみ。

つまり、タダ同然の働きになるそうだ。


だが、この調査依頼、とんでもなく受付倍率が高く人気の依頼だそうだ。

なぜ、そんなに人気なのか訪ねると、答えがかえってきた。



曰く


【依頼、裏技、ある。

情報、集める、ダンジョン、攻略。

情報、報告、時間おいて、攻略した、言う

二重で、報酬、でる】


飛び飛びの説明だが、なるほど納得した。


つまり、未踏破の状態で調査をこなし、そのまま攻略。

攻略報告をせずに、調査依頼を達成。

その後も、ある程度情報を集めて報告し、上げる情報がなくなれば、そのタイミングで攻略報告をする。


こうすれば、調査報酬と攻略報酬の両方をしっかり受け取れるわけだ。

話しぶりからするに、多くの冒険者がこの依頼をするのだろうが、それゆえに受けられる人数に限りがあるのだろう。

だが、受けた人員間で話を合わせてしまえば、全員が得するわけだ。




【ギルド、知ってる、でも、止めない。

目的、抑止と殲滅。

ここ、カイゼル、帰らない。

ギルド、不信感持つ、次、行かせる。】




アルファの言葉に、俺はハッとなった。

そうだ、まだ敵は来るのだ。


このカイゼルと呼ばれる冒険者が来たということは、同じように調査依頼を受けた奴らがここに殺到するということである。

しかも、高確率でダンジョンの攻略を目的としてだ。


(これは、どうしたものか・・・)



悩む俺を尻目に、カイゼルは、突然唸り声を発しながらその場でうずくまってしまった。

何事かとアルファに確認しようとした所、それよりも早く、カイゼルが行動を起こしていた。


なんと、カイゼルがうずくまっている地面が、彼を中心に波紋状に揺れ、液体のように激しく波打ち始めた。

アルファは、咄嗟に壁から天井まで退避し、俺は中空に浮いているので特に影響はない。


しばらくすると、カイゼルの体がズブズブと沈んでいっていることに気づいた。

瞬間、なにかが体内に侵入してくるような異物感を感じた。



【ますたぁ!!

カイゼル、変ッ!

責任、とる、言った!!!】


「な、なんだと?!」




徐々に強まる異物感のなか、アルファの言葉でカイゼルが何をしようとしているかおおよそ察してしまった。


(こいつ・・・俺を乗っとるつもりか?!)


生前の恨みなのか、後続の冒険者へのはなむけなのか、カイゼルもといリビングソルジャーは、どんどん身体を地面へ沈めていく。

それに伴い、身体の一部が徐々に焼かれているような痛みともなんとも言えない感覚が伝わってきた。


例えるならば、ちょうど手の辺り

片腕をまるごと溶鉱炉にでも突っ込まれているような激しい熱さと痛みである。




「ぐっ?!、ああ、がうあぁっ!!!」


【ますたぁ!!!】




思わず漏れた俺の言葉がウィンドウに表示され、アルファは切羽詰まった声で俺を呼ぶと、天井から弾丸のように地面に両手足を既に沈めきっているカイゼルの頭目掛けて飛来した。


アルファの体当たりにより、カイゼルの頭は見事にちぎれ、地面の動きに合わせて何度も跳び跳ね、やがて俺のすぐ近くまで転がってきた。


転がってきた彼のかおを見て、俺は更に戦慄した。


なんと、白かったはずの彼の顔色が血の気を帯びてきていたのだ。

どう言うことかと顔を見ていると、その顔がカタカタとうごめき始めた。




【あぅ、おれ、がぁ。

き、さま、ぅぅ、らを、ぁ、かた、づけ、ぁぁ、るぅぅう、うぅ、ぅぅぅ・・・!!】


「ぐっ、くそっ!!

この、死に損ないが!!!」




俺は、悪態を付ながらウィンドウよりモンスター欄を見つけ、カイゼルの項目を見た。


そして、そこに異常が発生していることが分かった。



【~~~~リビングソルジャー (使役、復讐者)~~~~】




モンスターの状態に、また見慣れない状態が書かれている。

分析をしたいが、今はそれどころではない。

あまりやりたくはないが、やるしかない。


俺は、意識を集中させ、つい最近やったことをもう一度思い出しながら実行した。


【~~~~リビングソルジャー(使役、復讐者)←~~~~】




よし、“決定”だ




【選択したモンスターをどうしますか?】

【呼び出す】

【吸収する】←



いいぞ、そのまま




【本当に、この動作を実行しますか?】

【はい】←

【いいえ】




よし、これでいいはず




おれは、一連の操作を終え、再び意識を現実に引き戻すと、それはすぐに起きた。




【オオオ、オォ?!

と、とけ、るぅ、き、きえ、てくぅ、がぁ。

な、なん、で、こん、なこ、とがぁぁ。】




カイゼルが、突然苦しみ始め、俺の近くに転がっていた頭が先程とは逆にどんどん顔色が白に戻り始めた。

それどころか、先程よりも早い速度で身体も千切れた頭も地面にズブズブと沈んでいく。

先程のような異物感はなく、感じなれた染み込んでいくような感覚が徐々に強くなっていった。

そして、目視では完全に地面に飲み込まれていったころ。

俺は再びウィンドウを開き、リビングソルジャーの項目を確認した。

名前がほの暗くなっているのを確認し、俺はやっと一息ついた。

すると、アルファが地面をしばらく動き回り、いつものように身体を伸ばして俺に聞いてきた。




【ますたぁ、カイゼル、消えた。

ますたぁ、安心してる。

対処、成功??】


「ああ、何とかな。


・・・それより、他のみんなを呼んできてくれるか?

────今後の話をしなきゃならない」




アルファに少し申し訳なく思ったが、彼女は了解の意を示し、そのままダンジョンないに掛けていった。



(・・・さて、どうしたものか)



アルファ達が戻ってくるまでに、それらしい対策と今後の訓練計画でもたてなければ


正直、今の戦力とダンジョンでは、あまりいい結果になるとは思えない。

カイゼルというあの男も、“最強”ではなく、あくまで“強い部類”の冒険者なのだ。


あいつ級の冒険者が襲ってきたら、このままではこのダンジョンは攻略されてしまうだろう。


つまり、おれ自身がどうにかされてしまうのだろう。


こっちにきてから、おれ自身について色々な

考察をしてきたが


ダンジョンの攻略=俺の死


と考えてしまってもいいだろう。

こればかりは予想するしかないが、おそらく俺は死ぬ。

そして、俺が死ねば、アルファやゴブリ達にも何が起こるかわからない。

解放されるだけかもしれないし、俺と一緒に死んでしまうかもしれない。


動くことも出来ない俺ではあるが、彼らのために出来ることをするに越したことはない。

そうすれば、自然と俺の身の安全も良くなる。


そうと決まれば、さてさて、冒険者対策なのだが、どうしたものか・・・


ミノタの時のような、初見殺しでは、複数人で攻めてきた敵には効果が薄い。

かといって、通路や部屋を完全に閉鎖するような罠も作ることが出来ない。

これは、一番最初に罠を作れるようになったときに試したのだが、無理だった。


どうやら、何かしらの抜け道や通路が一本でもコアから出口まで繋がっていないとダメなようだ。

もちろん、一時的に封鎖したり、仕掛け扉のようなものを設置することは可能らしい。


過去に試したことなどを踏まえて、何かいい罠や仕掛けを作れないだろうか・・・




【ま、ますたぁ。

連れてきた、でも、報告、ある】


「ん?一体どうし──────はっ??」




アルファの声に、ダンジョンに繋がる穴の方を見て、俺は思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


そこには、アルファの後ろをついてくるミノタ

それに担がれているボロボロのゴブタの姿であった。

何事かと聞く前に、アルファが報告をする。




【ゴブリ、スライム、穴落ちた。

助けるため、降りた。

でも、スライム、壁登れる。

ゴブリ、穴、転げ落ちた。

そのまま、しばらく叫んで、急に、倒れた。

ミノタ、アルファ、慌てて、引き上げた。

ゴブリ、動かない・・・大丈夫?】




「あー、そうか・・・問題ないぞ。

たぶん、穴に落ちて酸欠で気絶しただけ────ん?」




俺は、アルファの報告から、ゴブリが気絶しただけだと説明しようとして、少し引っ掛かりを覚えた。


待てよ?

ダンジョンに、穴だと?

俺は、ダンジョン内に穴を掘ってたか?

ミノタの時は確かに掘っていたが、あれは全て埋めたはずだ。


それに、スライム達が落ちていた??

彼らにはそもそも穴に落ちるような行動は取らない。

それに、ゴブリが穴のなかで気絶?酸欠でか??


一体、どれくらい深い穴だ?




俺は、次々に出てきた疑問に、改めてアルファに穴の位置を聞き出し、実際に視界を飛ばして確認してみた。

地面をくまなく巡視し、穴をようやく見つけた。

その穴は、岩の影に隠れるように空いており、大きさ事態は直径50センチほどの円で、深さはかなり深めであった。

ゴブリならば、確かに自力で上がるのは難しそうな穴であった。


だが、不可解なことにこの穴、俺は掘った覚えが全く無い。

何者かが掘ったものならば、俺が気付かないはずがない。

それこそ、俺に感知されないほど素早く掘るか、気付かれないほどゆっくり丁寧に掘るかのどちらかしかあり得ない。

だが、ミノタやカイゼルが攻めてきた時に、この位置に穴があったとは考えにくい。

あのときは、俺もダンジョン全域を集中して監視していたのだ、いかに俺でも、気付かない方が難しい。


なら、この穴は一体??

そもそも、この穴の用途はなんだ??


そんなことを考えていると、不意に穴のそこに何か光っているものを見つけた。

よーくみてみると、何やら模様のようなものを浮かび上がらせている。



(な、なんだ・・・?

複数の円に、記号・・・か?)




しばらく浮かび上がった模様をマジマジと見つめていたが、妙な既視感を覚えた。


んんー、どこかで見たことがあるような??


そんなことを考えながら、穴を見つめていると、既視感の正体がわかった。




(あー、この模様・・・モンスター達が出てくる地点に描かれている模様に似てるのか)




俺はそこまで考え、自分で言ったことが飛んでもなく重大な事実であることに気がつき、俺は慌てて視点をコアの位置まで戻し、号令を掛けた。




「アルファ!ゴブリ!ミノタ!!

今すぐ穴の位置に迎え!!

あの穴、おそらくどもが出てくるぞ!!」




俺が言い終わるのとほぼ同じタイミングで、俺の中に、複数のが現れ、それらがこちら目掛けて進軍を始めた。









===========






薄暗闇の中、なんとも言いがたい浮遊感とズシリとのし掛かってくる不快感に、私は顔をしかめた。


どうやら、ギルドからの転送は成功したようだ。




「かぁー!!何度やっても慣れんわい!!

ほれほれ、はよう人数を数えて奥へ進むぞい!!」




しわがれたやかましい声で、転送されてきた内の一人がそう急かしてきた。


今声を上げたのは、今回私達のパーティーに臨時で加わっている“光魔爺”の二つなを持つ“ライン爺”の声だろう。


立派なアゴヒゲを長く伸ばし、手には杖を持っている。

服装はわりと質素で、麻のローブを身に纏っている。


今回、私達の所属しているギルドの冒険者である “無暴のカイゼル” が、この洞窟を訪れ、消息を絶ったと知らせが入り、急遽“救出依頼”が出されたのだ。

それと共に、このダンジョンは危険と判断され、“攻略依頼”も出されたのだ。


本来なら、調査依頼の後に十分な情報が集まり次第発令される“攻略依頼”

これが異例の早さで出たことで、私達パーティーに白羽の矢がたった。


本来私達は三人で行動している。

今回に限っては、その危険性から、ある人に助っ人としてパーティーに加わってもらってるのだが─────





「こりゃ!

ボサッとするな!!

さっさと仲間の確認をせんか!!!

転送直後が一番死亡率が高く、はぐれやすいんじゃ!!」


「すいません、ライン爺。すぐにでも」




私は内心渋い顔をしつつ、言ってることは正しいのですぐに周りを確認した。


見たところ、他の二人も特に異状はなさそうだった。


周りを警戒しつつ

拳闘士であり、頼れる前衛の“ライバ”

マッピングや罠外しが得意な“マリ”

そして、念のため自分の装備や持ってきた道具も確認をして、全員が無事に転移したことを確認した。




「おう!俺はなんともねーぜ?持ち物も全部ある」

「えーっと、わ、わたしも、だだ、大丈夫」


「なんじゃなんじゃ!!

無事ならさっさと言わんか!!


お主達の報告が遅れただけで、安全なところでも、絶体絶命の局面に早変わりするンじゃぞ!!

まったく、これだから若い冒険者はっ!!!」




二人が私に報告をすると、ライン爺はプリプリと怒り始めてしまった。

その剣幕に、二人も少し苦笑いを浮かべていた。


はぁ、全く・・・どうして今回に限って内にライン爺が加わってしまったんだ??


私は、今回パーティーを組んだギルド側の職員を少し恨めしく思いながらも、ライン爺の肩をトントンと叩いて落ち着かせた。


すると、ライン爺は杖をこちらに差し向けながら更に続けた。




「そもそも、お前のような女が、なぜ此度の依頼のリーダーなのか、ワシには理解できんっ!!

経験も浅く、ダンジョンに潜ったこともない小娘が!!」




ライン爺のその発言に、先程苦笑いを浮かべていた二人が一瞬で鬼のような顔でライン爺を睨み付けた。


お、おっとと!!!

待ってくれ待ってくれ!!


私は慌ててライン爺の目線に合わせ、後ろを振り向かせないように顔をがっちりホールドして言った。




「ライン爺の言い分も大変理解できます!!

ですが、今回の依頼はとギルドから達せられていますので!!


ここは一つ、ライン爺の実力と器の大きさに頼らせていただいてもよろしいか?!」




私の言葉に、片眉を吊り上げ怒りが収まらぬ様子でこちらを睨む爺は、鼻をならし、私の手を振り払って背を向けた。


そして、私達に背を向けたまま、洞窟をズンズン先行して進み始めてしまった。

私は、小さくため息をはくと、後ろから二人が心配そうに声をかけてくれた。




「すまねぇ、ついカッとなっちまった。サポートは任せてくれ、いつも以上に働くぜぇ?」

「わ、私も、一杯頑張ります!!」


「ははは、ありがとう二人とも。

大丈夫さ、いつも通りいこう。」




頼もしい二人の反応に、私はいつも通りの笑顔で答え、先にいっているライン爺の後を追った。

この時、モタモタするなとお小言をいただいたのはご愛嬌だ。



さて、そんなこんなでダンジョンを進んでいるのだが、結果から言うと“かなり拍子抜け”してしまった。


出てくるモンスターはスライムばかり

時折ゴブリンも出るが、基本実力差がわかった途端洞窟奥に逃げていってしまう。




「かーっ!!!

なんじゃなんじゃ、この穴蔵は!!

なんの捻りも無い一本道っ!!!

モンスターもスライムばかり、嘗めておるのかぁ!!!」




ライン爺は、先頭でわめき散らしながら、スライム達を魔法でどんどん蒸発させていく。

彼の魔法は、光の魔法を得意とする魔術師であり、その多彩な技の数の技と応用力で、二つなは“光魔”それに、見た目がお爺さんなので“爺”がくっついて、“光魔爺”


本人は、その二つ名が気に入らず、呼ばれる度に不機嫌になる。

そして、今はその二つ名にふさわしいほど前方でピカピカ光輝いている爺




「おいおい、もうあの爺さん一人でなんとかなるんじゃないか??」

「わ、わたしも、そう思います・・・」


「確かにすごいが、気を抜くんじゃないぞ。

ここは、ダンジョンだからな」




私の注意に、気を引き締めたのか二人はキリッとした表情でうなずいた。

そんななか、ずっと前を進んでいたライン爺がこちらに光弾を一つ放った。

スレスレで通りすぎたそれに、一瞬肝を冷やしたが、二人も特に怪我をした様子はない。




「こりゃ!!!

なにを無駄話しとる!!!

あまり離れれば、命に関わるのじゃぞ!!

モタモタしとらんで、さっさとワシについてこんか!!」




少し前方でそう叫んだライン爺は、肩を怒らせながらズンズン先へ進んでしまった。

私の近くにいた二人は、すこし嫌そうに互いの顔を見合って、揃って私の方を見てきた。

私も、乾いた笑みを浮かべるので精一杯だが、ここで老人一人を黙って先行させるほど薄情でもない。




「ライン爺に合わせよう。

それに、言葉は悪いが間違ったことは言ってない。

信じてもいいと私は考えるよ?」




私の言葉に、納得いかなそうな顔ではあるが、渋々頷いた二人に、一言お礼だけいって、私達はライン爺の後を追った。


そこからは、何とかダンジョンを進むことができ、ついに、一本道の洞窟が終わり、一気に視界が開け、なかなかの大きさの広場に突き当たった。


ジメッと薄暗い通路から一転、ヒカリゴケやそれを吸収したスライム達に照らされた幻想的な景色に、一瞬心奪われそうになったが、前方で渇いた音がカツンッと響いたことですぐに我に返った。




「何を惚けておる。前を見んか前を!!

おるぞおるぞ、このフロアのボスが。」




ライン爺の忠告に、視線を前方に向けると、そこには確かにモンスターが立っていた。


そこには、自分よりはるかに背の高い人型のモンスター。

人の背丈ほどある手斧が二本、両手足と首より上が毛むくじゃらで、頭は牛のような見た目をしている。

頭頂部に太く鋭く尖ったL字の角が二本生えている。

筋骨粒々のその体躯から、蒸気を立ち上らせ、今か今かと荒い呼吸を繰り返してこちらを睨み付けている。


なるほど、あれがこのフロアのボスか。


私は素早く身構え、それを合図にライバとマリもいつもの陣形をとった。

私の後方にマリ、前方にライバがおどりでたが、ここで、ライン爺がライバを手で制した。




「おい爺さん。なんだってんだよ?」


「見てわからんか戯け!

どうせミノタウロスしか見えておらんじゃろうから忠告するぞい?

警戒すべきは、ゴブリンじゃ」




そういうや否や、ライン爺は目の前に光弾をズラリと展開し、両手を大きく広げた。




「ワシの攻撃は既に対策されとるじゃろうて、お主ら三人で何とか倒してみせい!!!

目眩ましや邪魔くらいはやってやろう!!

そりゃ、“ライトバレット”」




素早くそういいきると、広げていた両手を交互に振り下ろすと、ライン爺の目の前に展開していた光の弾が次々ミノタウロスに向かって飛んでいった。

待ってましたと言わんばかりにミノタウロスは咆哮し、光弾を手斧で次々防ぎ、弾き、切り裂いた。



それを合図に、私たちの戦いの火蓋は切って落とされたのだった。













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