7.黒い男達と白き魔女
突然現れた鈴木さんと黒服軍団に、僕も美遊も、そしてリサも呆気に取られていた。
「え、鈴木さん、いつの間に? というか、どうして?」
「いやですね、清十郎さん。連絡を寄越したのはそちらじゃありませんか。これは緊急案件だと、押っ取り刀で駆け付けたんですよ」
「あ、そう言えば……」
そう言えば、しばらく前に鈴木さんへメッセージを送っていたんだった。そこまで緊急を要するような内容にした覚えはないけど、鈴木さんは重く受け止めてくれていたらしい。
まあ実際、緊急事態に発展していたんだけど……。むしろ僕の見積もりが甘すぎた。
「あの、その後ろの方々は……?」
「ああ、彼らは私直属の特殊チームです。分かりやすく言うと、荒事の専門ですね。何せ、帰還者の方々の中には、混乱して魔法を使ってこちらを攻撃してくる方もいらっしゃるので、我々としても万全を期す必要があるのです」
「なるほど……」
鈴木さんの言葉に、「魔法使いと激戦を繰り広げる黒服軍団」の図が僕の脳内に浮かび上がる。……うん、やはり相手が宇宙人の方がしっくりくるな。
――等と、僕が馬鹿な妄想を繰り広げている間に、鈴木さんはリサの方へと歩み寄っていた。
黒服軍団は動かない。リサが縛られているので、安全だと判断したのかもしれない。
「
「誰よ、アンタ」
「初めまして、神奈川県警の方から参りました、鈴木と申します。美遊さんやリサさんのような特定時空漂流者――異世界へ拉致された方々の保護活動を担当している者です」
ごくごく自然な動作で地面に膝をつき、リサと同じ目線で語り掛ける鈴木さん。その姿はまるで貴婦人にかしずく騎士のように洗練されていて、ため息が出そうになった。
けれども、リサはそんな鈴木さんの態度すら気に入らないのか、はたまたまだ大人の男が苦手なのか、すぐにそっぽを向いてしまう。
それでも鈴木さんは全く気にした風もなく、話を続けた。
「記憶の封印……『首輪』と言いましたか? その件は我々も帰還者の方々から伺って存じています。そして、それを外す方法にも心当たりがあります。ご安心ください」
驚いたことに、鈴木さんは「首輪」とやらの外し方に心当たりがあるのだという。
これには流石のリサも少しだけ心が動いたのか、思わず振り向いていた。ただし、その表情はまだ警戒心に満ちている。
「……アンタ、アタシの信用を得る為に
「まさか、滅相も無い。ですが、そうですね。私の言葉だけでは信用出来ないのも無理はないでしょう。そう仰ると思って、本日はある方をお連れてしています。その方の言葉なら、きっと信用していただけるかと」
言いながら、鈴木さんが手で黒服軍団に合図を送る。
すると、黒服軍団がサッと左右に分かれ――その間から、真っ白なロングコートに身を包んだ女性が姿を現した。見覚えのない女性だ。
誰だろうか? 等と思っていると、意外にも傍らの美遊が驚きの声を上げた。
「えっ、まさか……そんな……!?」
「美遊の知っている人かい?」
「ええと、知っている人と言うか……」
酷く狼狽している美遊をよそに、女性が一歩、また一歩と滑るような足取りでこちらへ近づいてくる。
見れば、リサも信じられないものを見たかのような顔をしていた。
――歳の頃は、よく分からない。若くも見えるしそこそこの年齢にも見える。
真っ直ぐに長く伸びた髪は、陽の光に照らしてもなお黒く、夜空の漆黒を思わせる。肌は、身に着けたロングコートと同じく透き通るような白。
どこか、現実離れした雰囲気を纏った美女だった。
「――久しいですね、美遊。息災でしたか?」
女性が、上質なガラス風鈴のような美しく硬質な声で、美遊の名を呼んだ。
「え、あ、は、はい! 見ての通り元気です! あの、まさか貴女がこちらにいらっしゃるだなんて……」
「うふふ、驚かせてしまいましたね? 積もる話もありますが、まずはあちらの娘を安心させてあげないと」
嬉しそうに微笑みながら、女性が僕らの傍らを通り過ぎる。そのまま、スーッと滑るような独特の歩き方で、今度はリサと鈴木さんがいる方へと向かった。
「リサ、ですね? 貴女とこうして直接お話するのは、初めてでしたか?」
「……いや、と言うか何でアンタがこんな所にいるのよ!? と言うか、何で生きてるのよ!?」
「うふふ、そうですね。まずはそこから話さなくてはいけませんね? 初めましての方もいらっしゃることですし」
言いながら、僕の方へ流し目を送ってくる女性。
美人にそんなことをされたら悪い気はしない――はずなのに、何故か僕の中にはそういった感情は全く湧いてこない。残ったのは、正体不明の不思議な感覚だけだ。なんだろうか、これは。
女性はペコリと一同に向かってお辞儀をすると、こう名乗った。
「では改めて――私の名は『白き魔女』。元『魔女連盟』の大幹部にして……美遊達をこちらの世界へ戻した魔法使いでございます」
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